393.三級冒険者ケンツとの出会い 01 sideアリサ
数話ほど姉妹作品『追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】とセリフが被ります。
あしからず。
― ゴキン!?
首回りの骨が砕けた独特の不快な音……
「かはっ……」
「なっ?」
「えっ!」
私達は、ヒトリの浮浪者らしき男が、二人の冒険者によって蹴り殺される瞬間を目の当たりにしてしまった。
― ズシャリ……
浮浪者さんの首が、絶対に曲がってはいけない方向に折れ、その場に崩れ落ちた。
「や、やべー、やっちまった!」
「おい、逃げろ!さすがにマズイ!」
浮浪者さんの首をへし折った冒険者達は、脱兎の如くその場を逃げようとした。
「はっ!」
― シャシャッ! ドスッ!ドスッ!
突然冒険者の太腿に突き刺さる二本のナイフ!
「ぎゃあ!」
「あがっ!」
― ドッテンコロリーン!
突然脚の動きを止められ二人の冒険者は大転倒!
「動くな!動けば逃亡の意思有りと見てこの場で処断します!」
凛とした声で警告をしたのは、なんとケイトさんだ!
え、ケイトさんってただの受付嬢じゃないの?今のナイフの扱いってどう見ても素人じゃないし。
「ひいいいいいいいい!」
「違う、殺す気はなかったんだ!」
激痛に身をよじり腰を抜かす冒険者を無視して、ケイトさんは首をへし折られ浮浪者さんの元へ。
「ケンツさん!ケンツさんしっかりして!駄目だわ、死んでしまった……」
それからケイトさんは職員・受付嬢を睨み――
「何をしてるの!早くその二人を拘束しなさい!ベラ!ボサッとしてないで警察を呼んで!」
「「は、はい!」」
ケイトさんに一喝されてギルド職員たちは慌ただしく動き始めた。
しかしそんな中、何人かの傍観していた冒険者達はケイトさんにくって掛かった!
「おいケイト!その二人をどうするツモリだ!」
「ケンツが死んだくらいなんだってんだよ、そいつは冒険者の面汚しだぜ!?」
「インチキ野郎の肩を持つんじゃねーよ!」
「あんたいつもそうだ、いったい何処向いているんだよ。これくらいもみ消して当然だろう!空気を読めよ!」
どうやら冒険者達は強引に有耶無耶にするつもりのようだ。
しかしケイトさんは一歩も引かない。
「黙りなさい!騒ぐなら殺人の共犯と見なして冒険者資格を剥奪しますよ!」
「「「「 ! 」」」」
冒険者達の圧力にまるで屈しないどころか、逆に冒険者資格剥奪をチラつかせ黙らせた。
肝っ玉も据わっているし、やはり只者じゃないわ。まるで冒険者達に流されない。
おっと、それどころじゃなかった。浮浪者さんを助けないと。
面倒事には絶対にクビを突っ込むなとレクチャーは受けていたけれど、流石に目の前で行われた殺人を黙っているわけにはいかない。
私は周りに性別を悟られないよう、小声でケイトさんに言った。
「ケイトさん、その方を見せていただけませんか?」
「え?でもケンツさんはもう……」
殺されてまだ一分ほどしか経っていない。ならまだ死んだうちには入らない!
私は浮浪者さんを回復させようとしたのだが――
― ぷ~ん
うっ、なにこの凄まじい悪臭!?近づく事が出来ない!!吐きそう!!
「えーい、これしきの悪臭くらい!セイクリッドヒール!」
― ヒィイイイイイイイイイン……
キラキラと金色の粒子が舞い、浮浪者さんの傷を癒す!
「き、金色の粒子!?」
驚くケイトさんの目の前で、浮浪者さんの傷は完璧に治癒した。
「うぐ、ぐううう……」
「これは!?ケンツさんの傷が治っている!アリサさん、あなたいったい……」
「まだ完全死では無かったみたいですね。なんとかヒールが間に合って良かったです」
「ヒール?今のがヒールですって?とにかくありがとうございます!」
その後すぐ警官が到着し、乱暴を働いた冒険者二人は殺人未遂で連行されていった。
ケイトさんはケンツという浮浪者さんを救護室に連れて行くとともに、【ラミアの森・フォレストラビットの討伐依頼】を調べるため、この場を離れた。
私はお腹が空いていたこともあり、ケイトさんを待ちながら飲食ブースで食事をすることに。
「あなたどこから来たの?それに見るからに怪しいんだけど?もしかして外国人とか?」
注文を取りに来たウエイトレスさんが、フードを深々く被った私の顔を覗き込もうとする。
「私は森林保管官のアーノルドさんの紹介でケイトさんを訪ねて来たんです。えっとパスタと野菜サラダをお願いします」
外国人云々は一切無視して、紹介で来たことを強くアピール。
「あれ?その声、女の子なんだ。ふーん、アーノルドとケイトの関係者なのね。でもケンツを助けたのはまずかったかもね」
「え?」
このウエイトレスも浮浪者さんを蔑んでいる感じがする。もしかして助けてはいけない人だったのだろうか?
だけど必死なケイトさんの様子を見ると、あの浮浪者さんが悪人とは思えないけど……
少ししてから料理が運ばれてきた。
ふぅ、やっと食事にありつける。実はけっこうお腹は空いていたのよね。
フォークにパスタを絡め口に運ぼうとしたときに、ふいに私の周りに人が集まり出した。
「てめえ、余計な事しやがって」
「せっかくケンツの野郎が死んだと思ったのによう」
「なんとか言えよ、おら!」
冒険者達?
あの浮浪者さんはさっき捕まった冒険者だけでなく、どうやら全ての冒険者に嫌われていたようだ。
「あーあ、これじゃあの二人も浮かばれないぜ」
「なんで害虫を駆除しようとしたあいつらが捕まるんだよ、おかしいだろ!」
「回復職か?身なりからして神職ってわけじゃないよな。余所者がしゃしゃり出て来るんじゃねーよ!」
はぁ……私のランチタイム一時中断。やっぱり絡んで来たし……
私だってトラブル事に首を突っ込みたくなかったわよ!でも殺人シーンを目の当たりにしちゃ黙っていられるわけないじゃない!
これ、どうしようかな……ワザと殴られてから正当防衛って事で全員ボコッちゃおうかしら……
でもケイトさんがいないと、正当防衛として扱ってくれる気がしないなぁ。
「おい、おまえらやめろ!その人に手を出すな!」
突然誰かが大声を上げて飛び出してきた。
その大声を出したのは……さっきの浮浪者さん!?問題無く完全回復してたみたいだ。
遅れてケイトさんもやってきた。
― ジロリ!
私を取り囲んでいた冒険者達が、一斉に浮浪者さんに向いた!
「おう、お前が生きているのが全部悪い」
「だが助けたコイツはもっと悪いよなぁ」
「二人ともボコれ!喧嘩両成敗ってやつだ。ぎゃははは!」
なにその謎理論!?
この人達おかしい!やはり連邦は普通じゃないわね。
「いいぞ、やれやれー!」
「ケンツも余所者も殺しちまえー!」
周囲の野次馬達までもが『殺せ!殺せ!』とヤジを飛ばす。
興奮した冒険者達はケイトさんがいるにもかかわらず熱を上げる!
もうこれは収めようがない!でも、ケイトさんが見てくれているなら――
「受付嬢さん、これ反撃しても正当防衛成立しますよね?」
「あ、はい。十分成立します…ですがお逃げになられた方が…」
ケイトさんは厳しい顔をしながら脱出を促す。
― シャキン、シャキーン!
ケイトさんは腰の伸縮式警棒に手をやり、冒険者達が暴徒化しだい鎮圧する気でいるようだ。
しかしケイトさんと警棒の出番は無かった。
「なんだ、おまえ女かよ、それならそうと早く言えよ!おら!」
私の声を聞いた冒険者達の目の色が変わった。
そして――
― ビリビリ!
囲んでいたうちのひとりがフードに手をかけ強引に破る!
「 ! 」
フード部分の継ぎ目から派手に引きちぎられた私のローブ!
酷い!安物だけどちょっとお気に入りだったのに!許さない、絶対に仇は取るわ!
しかしローブを破られ素顔を晒した私を、冒険者達はさらに目の色を変える。
「おいおい…」
「こりゃぁ…」
「ごくり…」
冒険者達の目に映ったのは、キュロットベースの旅人の服を着ているとっても可愛い女の子。
武器は申し訳程度のロングサバイバルナイフを腰に携えていて、それがいい感じにアクセサリーになっている。
「「「いいじゃねーか、この女!」」」
うげっ、
どうやら私は冒険者達の御眼鏡にかなってしまったらしい。
性的な視線が彼方此方から突き刺さり、悍ましい事この上ない。
「へへへ、予定変更だ。余所者のお嬢ちゃん、ちょと俺達とつきあ……おぶぅ!?」
私はユラリと立ち上がり、まずはフードを破いた冒険者の鳩尾めがけ――
―どすぅ……
重い拳が突き刺ささる!冒険者はゆっくりと崩れ落ちた。
「今のは私の大切なローブの仇!」
― ギロリ!
「な、なんだこの女!」
「回復職じゃねーのか!?」
「おい、皆で押さえつけろ!」
「「「「おうっ!」」」」
今ので刺激させてしまったのか、傍観していた冒険者達もほぼ全員が集まって来た!
あーもう、目立ちたくないのに!
「面倒ね、全く…ペタボルト!(死なない程度の弱めで)」
― ガラガラガラ、ドッシャアアアアアアアン!
ギルド内を強力な雷が暴れ回る!
「うっぎゃああああ!
「るっぼおおおおお!」
「へげええええええ!」
「ぶわっつひゃああ!」
「あげええええええ!」
― バリバリバリ、ピシ……
『ぶっしゅうううううう……』
屍累々とはこの事か。
雷が収まり、ギルド内で立っているのは、職員を除けばケイトさんと浮浪者さんだけだった。
「受付嬢さん、壊れた物があったら私じゃなくこの人達に請求してね」
「はい、それはもちろん……アリサさん、あなたはいったい……」
私は、倒れている冒険者達を指差したあと、再び席に座って食事の続きを始めた。
ぱくっ!
うん、このパスタ美味しいじゃない!




