321.決着(前)
「ちっ、やはりユーシスに押されているか。こうなったら仕方ない。おい、アリサ!朱里!」
身を引き裂かれる思いで4人の戦いを見守っていたアリサと朱里に、とうとう声がかかってしまった。
「アリサはルイスを助けてやれ!そしてユーシスを必ず仕留めろ! 朱里は僕と一緒に祐樹を倒すぞ!いいな!」
ネストルはアリサと朱里に怒鳴りつけるように言い放った。
しかしアリサと朱里は拒絶する!
「え、嫌です!どうかお許しを!」
「わ、私も祐樹に刃を向けたくない!」
魅了しているにもかかわらず、命令に逆らう二人に少なからず驚くネストルだったが――
「これは命令だ!僕の言うことを聞け!」
ピシャリと二人に言い放つ!
「この野郎!朱里とアリサは、おまえ如き外道が偉そうに命令していい女じゃねーんだよ!」
「おい祐樹、俺と変われ!そいつは俺がぶっ殺す!俺の女になんて命令しやがる!」
自分の大切な女達に対して、やたら偉そうに命令するネストルに、祐樹とユーシスは激しく憤る!
「残念だったな、今はもう俺の女だ!さあ、二人とも早く戦うんだ!ハーレムテンプ!」
― モワッ……
ネストルはハーレムテンプを掛けながらさらに命令する!
「わ、私……どうしたら、祐樹……うう……」
「ユーシス……苦しいよぅ……戦いたくないよぅ……」
さすがにユーシスと祐樹の前では、ハーレムテンプに若干の抵抗ができるようだ。
しかしその分、二人はとんでもなく精神を擦り減らし廃人へと近づく。
そして残念なことに、最終的にはハーレムテンプの効果により、ネストルの言うことを聞いてしまう事になる。
どんなに足掻いても魅了には抗えずダメージが蓄積する。
ユーシスはその事が分かっていた。分かっていたからこう言う。
「アリサ、構わないからルイスに付け!そして俺に剣を向けてかかってこい!」
「え、やだ……やだよぅ……もうユーシスに剣を向けたくない……」
「大丈夫だ、最後には必ず助ける!俺を信じろ!」
「ユーシス……わかった…………」
アリサは虚ろな瞳で抜剣、ルイスの傍らについた。
「この様子なら、剣のキレは鈍いはず。必ずスキが生まれる!」
ユーシスはスキを突いてアリサの魅了を解くつもりのようだ。
「なるほど、そういうことか……」
祐樹もユーシスの行動の意図を理解した。
「朱里も俺にかかって来い!最後は必ず助けるから!」
「祐樹……でも……」
「大丈夫だ、信じてくれ!」
「う、うん!」
ユーシスと祐樹の謎の動きに訝しがるネストルだが、とにかくあの二人が参戦するのなら、もう負けはないと確信したのだった。
「君達、バカだろ?だが感謝するよ。これで君達に勝利は無い!徹底的に痛めつけた後で、アリサと朱里が僕と一つになるところを特等席で見せてあげるよ!」
「寝言は寝て言え……いいや、寝言でも許さん!夢の中でも朱里に触るな!近づくな!」
祐樹がネストルに向かって再び突撃!
「ジゴブレイク!」
― ガラガラ、ガッシャーーーーン!
祐樹のジゴブレイクが再びネストルを襲う!
しかし今度はさっきのようにはいかない!
「ストライバー!」
― キン! ドギャーーーン!
祐樹のジゴブレイクは朱里のストライバーにより防がれてしまった。
「ははは、いいぞ朱里!流石は聖女だ!」
歓喜するネストルの声が祐樹を不快にさせる!
「祐樹―――!」
「朱里―――!」
― ガキン! ギュリン、ギュルルルルル……ザシュッ!
祐樹は朱里と聖刀を交えながら、できるだけネストルと距離を置こうとする。
― キンッ! キンッ! ギャルン!
「やはり朱里は躊躇っている、全力では打ち込んでは来ないな!」
刃の無い聖刀だったせいもあるが、朱里は武闘会ではユーシスに対して本気で立ち向かった。しかし祐樹にはどうしても本気で打ち込めない。
どうしても、どこか躊躇いがちになりスキが生じる。
「よーし、これならいつでも……うぉっと!」
「はははは、仲良く遊んでないで僕も混ぜてくれたまえ!魔腕ベルリヒンゲン!」
― ボッ!ボボッ!
またしても空中に鋼鉄製の腕が複数現れ、空を飛び交い祐樹を襲う!
「またそれか、面倒くせーな! 身体強化4倍!」
ここで初めて祐樹が身体強化を使った!
― バシュッ!バシュッ!バシュッ!
「なんだ!?」
先程までとはまるで違う祐樹の動きにネストルは驚愕!
「生意気な!ラベリーランス百峰閃!」
― ブオッ!
秒間百撃に及ぶネストルの連続突き!
「ふん、こんなもの!」
― バシッ! ギュルッ! シュリリリン!
祐樹は涼しい顔をしてネストルの槍突を全て躱す!
そして視線を外しチラリとユーシスを見る。
「ユーシス、こっちはいつでも行けそうだ!」
祐樹は少し離れた場所で戦うユーシスに声をかけた!
「少し待て!くっ、ルイスめ……」
アリサの参戦により戦況に変化が起きたかと言えば、実は全く変わらなかった。
「やああああああああああ!!!!」
アリサはユーシスに斬りかかろうとするのだが――
― バッ!
「くっ、また……ルイス君どいて!」
「駄目、前に出なイで!アリサを戦わせルわけにはいかナい!」
ルイスはアリサに戦わせまいとして前に出る!その為ユーシスに付けられた傷が増えて、また異常な組織に身体が覆われて行く。
「くっ、アリサを庇ってくれる気持ちは痛い程わかるが、今はそれじゃダメなんだよ!」
ユーシスは、なんとかアリサと剣を交える距離まで近づこうとするが、ルイスが身体を張って邪魔をする!
「アリサに辛イ思いはサセなイ!ユーシス、僕ト戦え!アリサに手ヲ出すナ!」
「仕方がない。許せルイス、おまえも後で必ず助けるからな!」
「やめてえええええええええええええええええええええええええ!」
ユーシスの雰囲気が変わったのを感じアリサは悲鳴をあげた。
しかしユーシスは心を鬼にしてルイスに打ち込む!
― ギャキッ!ザンッ!ズバッ!ズスッ!
「ギャッ!グハッ!オボォ……ギャンッ!」
ユーシスの一方的な滅多打ち状態!
ルイスの組織再生が徐々に間に合わなくなり、動きが鈍くなっていく。
「ああ、ルイス君……ユーシス、もう許してあげて!!!」
動きの鈍くなったルイスのスキを見て、今度こそアリサが前に出る!
「くっ、やっとアリサが出て来たか……しかしこれは……」
― ガキンッ!ザンッ!ギュリンッ!
「なんで、なんでこんな事になってるの……どうしてこの三人が戦うの……どうして私がまたユーシスの剣を向けなきゃいけないのよ!」
― キンッ!ザンッ!ズバーッ!
「くっ、流石アリサだ、躊躇いながらも一撃一撃がとんでもなく早く重い!それでもなんとか……」
ユーシスはなんとかスキを見つけて、ハリセンの一撃を与えようとするも中々厳しい!
「なんでルイス君が傷ついて……私がユーシスに剣を……いったい誰のせい……誰のせい……」
― ガキン!ガキン!ガキン!
「アリサ?」
ユーシスはアリサの様子がおかしい事に気が付いた。
「誰のせい……それは……あああああああああああ!」
― ガキッ!ギリリリリ…
「決まってる!あいつの……!ネストルのせいよ!!!!!!!」
― パリーン!!!!!!!!!
アリサの脳内に巣食っていたハーレムテンプが一気に砕け散った!
―ギンッ!
アリサはユーシスへの打ち込みを止め、離れた場所で祐樹と戦っているネストルを睨みつける!
「ネストル!あんたは絶対に許さない!」
完全にアリサの様子が変わった事に驚くユーシス!
「アリサ、もしかして自力で魅了を解いたのか!?」
「ええ、もう大丈夫!私はもう魅了されていないわ!」
「そうか!なら……祐樹!」
ユーシスはネストルと交戦中の祐樹を呼んだ!
「待っていたぜ!」
祐樹はギンッと目の色を変え、聖刀を鞘に納め猛ダッシュ!
「な、おまえ何を!?」
「邪魔だ!どけええええ!」
― ガツッ!
「グボォッ!」
祐樹はネストルの槍撃を掻い潜り、鳩尾に重い一撃を食らわした!
そしてそのまま朱里の元へ!
「いやっ!来ないで!」
― バシュッ!
躊躇いがちの朱里の斬撃を易々かわし、腰のホルスターからハリセンを引き抜き一閃!
― スパーーーーーーーーン!
「きゃああああああああああああああ!!!!!!」
― シュワー――……
朱里の脳内に巣食う、ネストルの偽りの愛が、潮が引くように消えていく……
「え、祐樹……え?え?ええええええええ?」
混乱し狼狽する朱里だが、ここでモタモタする訳にはいかない。
祐樹はネストルを警戒しながら、朱里を抱きかかえて一目散に一旦離脱する!
「ゆ、祐樹、私、私、祐樹に向かって剣を……それに……」
「朱里、今は考えるな!そして絶対に近づくなよ!アリサ、朱里を頼む!」
「わかった、ストライバー!」
― キンッ!
アリサは狼狽する朱里を預かると、ハーレムテンプから身を守るために、すぐストライバーで周囲を囲った。
アリサと朱里を無事奪還し、ユーシスと祐樹はもう何も遠慮はしない!
「さあて、それじゃあ!」
「思う存分ぶっちめてやろうぜ!」
ユーシスと祐樹は鬼の形相で、改めてネストルとルイスに対峙した。




