320.湖での戦い ユーシスvsルイス
― ザシュ! ガキン! ギュリリリ!
ルイスは新しい得物、試作魔剣ルノードシャティヨンを呻らせて、ユーシスを追い詰めようとする。
「ぬぅ、昨日より一撃一撃が重い……ルイス、その禍々しい剣はなんだ!ブリジットに何をされた!」
試作魔剣ルノードシャティヨン――
オリジナルの魔槍ルノードシャティヨンを徹底解析し、複製された盗賊騎士の怨念と魔槍の経験記憶を実装させた魔剣。
魔槍と同じく、使い手の生命力・寿命と理性を吸われるが、剣本体に巨大な黒魔石を実装させ、使い手にも巨大な黒魔石を複数個実装させることで、負担をかなり軽減させている。
「ユーシス、僕はアリサを救うためなら悪魔にだって身を捧げる!この力で僕は今度こそ勝つ!」
―― アリサを救う
ルイスのこの言葉に、ネストルとは行動理念・根源が全く違うことを再認識した。
「全く……こいつは純粋にアリサを想った上での行動か。それでもおまえにアリサを譲る気はない!」
― ガキン!
― シュバババババ!
「ユーシス!アリサを愛しているなら身を引け!おまえと一緒にいればアリサはいつか命を落とす!」
― キン!ガキ!シュバババババ!
― ガキン!
「聞いてやる、話を続けろ!」
― シュバババ! ヒュン!ヒュン!
― キン! ガキン! ガツ!
「ブリジットさんから聞いたぞ!ユーシス、おまえは勇者なんだってな!そしてアリサは聖女だ!」
― キン!キン!
― ガシッ!ガツッ!
「だからどうした!」
― キュン!
― ガキン!
「ユーシス、おまえはいずれ神託を受け、異変解決のために死地に向かう!」
― ガキン!
― ガキッ!ギリリリリリ
「くっ……俺は女神様の神託を受けるつもりは無い!
― ガキン!カキン!
― ガキャン!
「いいや、おまえはいつか神託を受け入れ死地へ向かう!聖女アリサを連れて!そして最後は二人とも朽ち果てる!それが勇者と聖女の宿命なんだ!」
― ギリリリリリリ……
― ギュパン!
「た、例えそうであっても、俺はアリサを守りぬく!」
― ガシッ!ガキン!
― ザンッ!ザシュッ!
反論しつつもルイスの言葉にユーシスの心に揺らぎが生じる。
自分が勇者である限り、そしてアリサが聖女である限り、常に危険と隣り合わせなのは間違いない。
しかもティラム世界は大きな異変の兆候が見え始めているのだ!
「ユーシス!もう一度言うぞ!アリサを愛しているなら身を引け!おまえと一緒にいればアリサはいつか命を落とす!アリサを聖女の宿命から解放してやれ!」
― ビシュッ!
― ズバーーーーーーッ!
「そんな事言って、おまえがアリサを奪いたいだけの口実じゃないのか!?」
― キンッ!ガキンッ!
― ブオッ!ザンッ!
「否定はしない!最初は純粋にアリサが好きで愛して、そして欲しかった!だけど、悔しいがユーシスとアリサの愛の深さに諦めた!それに僕自身アリサに嫌われたと思った。でも……僕はアリサの、聖女の宿命を知ってしまった!」
― バキッ!
― グキャッ!
「…………」
― ガキン!
― シュバババババ!
「アリサが僕を受け入れなくてもいい!聖女の宿命からアリサを開放して、アリサが幸せに生きてくれれば……それが僕の願いだ!だからユーシス、頼む!アリサの幸せを願うなら身を引いてくれ!」
― ギュリリリリリリ
― ガキッ!ガキッ!ガキン!
ルイスの純粋で切実な思い願いにユーシスは思わず怯む。ルイスの行動は全てアリサを思っての行動なのだから。
― チクンッ……
「ルイスくん……」
ユーシスとルイスのやり取りを見守っていたアリサは、胸に針を刺されたような痛みを感じた。
ネストルのような紛い物の愛ではなく、ルイスの愛は本物で、だけどそれは報われない事を承知の上で、アリサの幸せを願う無償の尊い愛なのだ。
それがアリサの心に突き刺さる。
「だけど私は……」
アリサは呟きかける。
しかしその後に続く言葉をハーレムテンプにより捻じ曲げられる。
魅了の効果により、どうしてもユーシスではなくネストルを選んでしまうのだ。
『だけど私にはネストル様が』
そう口に出してしまいそうで、アリサは唇をきつく閉じた。
「くやしいなぁ……」
自分のことを真剣に愛してくれる男達が自分のために戦い合っている。
なのに魅了された自分は……本当に言いたい事が言えずに蚊帳の外……
歯がゆさに身体が疼くアリサだった。
「ルイス、おまえのアリサに対する想いは本気だと理解した。同じ女を愛した男として敬意を払い、これよりは全力でおまえを叩く!」
― ギンッ!
ユーシスを纏う空気が明らかに変わる!
ルイスはそれを敏感に感じ取った!
「上等だ!持てる力を全て使って本気のユーシスを倒し、僕はアリサを開放する!」
二人は一旦間合を取り、決戦に向けて気合を入れ直す!
「身体強化4倍!こおおおおおおおおおっ!」
― ボウッ!
ユーシスは、呼吸を練り直し精神を統一。身体パラメーターを引き上げる!
ミチミチと気が膨れ上がり、ルイス相手には明らかに過剰なパワーを得る!
「むっ!?」
だがユーシスは、ルイスを見て決して過剰ではないことを悟る。
「黒魔石暴走稼働!平行励起」
― バシュウッ!
一方ルイスも新たに胸に埋め込まれた3つの巨大な黒魔石、さらには試作魔剣ルノードシャティヨンの黒魔石、計4つの黒魔石を平行励起させ、莫大なパワーを引き出した!
しかし巨大な黒魔石と試作魔剣ルノードシャティヨンは、ルイスを人ならざるものへと変貌させつつあった!
「ルイス……おまえ、その身体は……」
「言うな!勝負だ、ユーシス!」
二人の戦いの第二ラウンドが始まった!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「だああああああああああああああああああああ!!!!」
― ガキン!ギュリリリリリリリリリリリィ!
ぶつかりあう刃と刃がギチギチと火花を散らす!
「信じられん、この力!このスピード!?」
「まだまだこんなのもじゃないぞ!」
ユーシスはルイスの力に驚愕した。
駆け出し5級冒険者、軽剣士のルイス――
ついこの間まではアリサとの訓練でヒーヒー言っていたルイスが、今は身体強化4倍のユーシスと互角に近い戦いを演じている!
― バシュ!
― グリンッ!
しかしその代償は決して安いものではなかった。
ルイスの肉体は戦いの中で、ユーシスに勝つためのデザインへと身体が醜悪に変化……いや、進化していく!
― ガキッ!ガキッ!ガキンッ!
「くっ!でええええええい!」
― バシュッ!ザンッ!ズサッ!
「がっ!?まだまだああああああああ!!!」
― グジュッ!グシャッ!
ルイスは力を発揮するたびに身体が崩壊し、その崩壊した部分から得体のしれない組織が盛り上がり変貌する!そして変貌した分強くなっていく!
「ブリジットめ、ルイスになんてものを仕込んだんだ!」
どんどん人ならざる者へと変貌するルイスを見て、流石のユーシスも攻撃を躊躇いそうになる。
― グオッ!
― バビュン!
「くっ、流星斬!」
ユーシスの熱気を含んだ超高速の斬撃が、ルイスを切り裂いた!
― バシュッ!ザンッ!
「ぐがああああああああああ!!!!!」
魔剣を持つルイスの片腕が空に舞う!
「いやああああああああああああああああああああ!ルイス君!!!!」
遠くでアリサの悲鳴が上がる!
ユーシスは胸を痛めながらも、これでルイスの動きを止めたと思ったが――
「どりゃあああああああああああああああああああああ!」
驚いたことに、ルイスは怯まず突っ込んで来た!
「な、なんだと……ぐあっ!」
― ドンッ!ガツッ!ドスッ!
やはりユーシスは心のどこかでルイスを甘く見ていたのか知れない。
右腕を切断されたにもかかわらず、ルイスは素手のまま突撃!
胸元に拳を叩き込み、そのまま拳を跳ね上げ顎を殴り、さらに踏み込み肘でユーシスの顔面を叩く!
「くっ、アリサから教えてもらった技か!」
思わぬ反撃をくらい怯むユーシス。
「はーっ……はーっ……」
― ガサッ
ルイスはその間に腰のポシェットから小瓶を取り出すと一気飲みした。
― ブシュウ!
ルイスの身体が一瞬白く光ったかと思うと、欠損した腕が一瞬で治癒した!
いや、腕だけでは無く、人ならざるものへと変化していた異常な体組織も奇麗に消え去り、元の人の姿に戻った。
しかし獲得した強さはそのままのようだ。
ルイスは魔剣を拾い直した。
「今のはハイポーション……いや、エリクサーか!?」
「はぁ、はぁ……タ、戦いハこれからダ!ユーシスゥゥゥゥウウ!!!!」
驚愕して手を止めるユーシスに、休ませてなるものかとルイスが切り込む!
― ガキンッ!
「うぉ!?」
折れないルイスの闘志にユーシスは舌を巻いた。
本来ルイスはここまで肝は据わっていない。
痛い思いをすれば大袈裟に泣き喚く、そんなタイプの人間だ。
「全てはアリサを想うが故か!大した奴だ!くっ!」
ユーシスは覚悟を決め、一気にルイスを屠りにかかる!
「があああああああ!炎獄流星斬!!!!」
「やあアアアアああ!超絶破壊抜刀斬十五の太刀、魔怨列斬!!!!」
― ゴオオオオオオオウ、ドシャアアアアアアアアアアア!!!!
― ドボワアアアアアア、ゴッパアアアアアアアアアアア!!!!
ユーシスとルイス、互いの最大火力をぶつけ合い、とんでもない衝撃波が周囲に広り対消滅した!
― ザアアアアアアアアアアアア!ザップーーーン!
― パリン!ミシメキッ!ゴッシャアアアアアア!
あまりの衝撃波のすさまじさに、湖の対岸には津波が押し寄せた!
また反対側のレイクサイドホテルは全てのガラスが砕け散り、建物そのものも倒壊寸前のダメージが!
「ユーシスを倒ス……そしてアリサを開放スるんダ……」
ルイスの自我は試作魔剣ルノードシャティヨンに食いつくされかけていた。
それでもなお、アリサを救おうとする根源的な想いだけがルイスを突き動かす!
「信じられん、ルイスの強さは並の召喚勇者を遥かに超え、身体強化をかけた俺に近い力を得ている!これは力を出し惜しみしていたらヤバイ!それにルイスの口調がなんだかおかしい……早く決めなくては……」
ユーシスはいよいよ奥の手を使った。
「過剰身体強化5.5倍!」
ユーシスは真正勇者が使うランニングヒールを活用し、身体強化の限界を超えた過剰身体強化を行使!
― ミチッ……ピッ……ピシュッ……
ユーシスのキャパを超えた身体強化に全身に痛みが走り、筋肉周りの毛細血管が耐えきれずに破裂し出血する。
「いくぞルイス!すぐ楽にしてやる!」
「ユージズゥゥゥッゥウ!」
そこからは均衡は破れ、ユーシスが完全に押し始めた。
その様子を離れた所から確認したネストル……
「ちっ、やはりユーシスに押されているか。こうなったら仕方ない。おい、アリサ!朱里!」
身が引き裂かれる思いで4人の戦いを見守っていたアリサと朱里。
「アリサはルイスを助けてやれ!そしてユーシスを必ず仕留めろ! 朱里は僕と一緒に祐樹を倒すぞ!いいな!」
ネストルはアリサと朱里に怒鳴りつけるように言い放った。




