↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/54

第51話 再会


「じゃあ、僕達が善悪の区別をつくった――」


 母の言葉に、ノエルは茫然として呟いた。


 ノエルの理解が正しければ。善と悪というのは、自分自身が創り出した幻だったということになる。ノエルが「善い」と思えばそれは善い出来事になるし、「悪い」と思えば悪い出来事になる。ノエルが判断しなければ、善悪はなく、ただ「事実」があるだけだ。


『そうね。魔物もそう。本当は、魔物は悪ではない。あなた方の心が創り出しただけ』

『他人を思いやらない心。どうなってもいいという心。消えてしまえばいいという心――そういう心が、魔物を創り出しているの』


 その言葉に、ノエルは今までのことを思い出していた。


 巨人の谷で、カノアを想うレイアの能力ちからが甦ったこと。

 大地の精霊に祈り、山が生命を吹き返した奇蹟のこと。

 村娘達の唄の力で、精霊が戻ってきたこと。

 自分がカッツェのために、力を暴走させてしまったこと。

 ヴァイスがそんな自分を叱ってくれたこと――。


 「想い」の力が、奇蹟を起こすことも、逆に周りを破壊してしまうこともあるのだと。ノエルはこれまでの旅でそれを目の当たりにしてきた。


「僕達一人ひとりに創世主である神の力が宿っていて、僕達が魔物を創った――。じゃあ、僕達が魔物を消すこともできるってこと?」

『――その通りよ』

「でも、創世主の力の使い方なんて、わからないよ!」

『あなたならわかるはずよ。ノエル』


 もう一度、母は繰り返した。


『精霊の力は常にそこにあるけど、視える者と視えない者がいるのと同じ。創世主の力も、常にあなたの中にある。ただそれが視えなくて、忘れているだけ。もう一度思い出して。ヒトも精霊も、全て同じように創世主が創ったのよ』


 ヴァイスが語った、バベルの塔の伝説を思い出した。ヒトも精霊も、かつては同じ言葉を話していたこと。

 そして、カッツェのことを思い出す。カッツェも精霊の姿は視えないが、炎の精霊はずっと彼の側で見守っている。視えなくとも、そこには精霊の力が存在する。


 ノエルの心に、ようやく一つの確信が生まれた。


 ノエルと精霊達との間に区別などない。どちらも神が創り出した生命いのちだ。ただ肉体を持つか持たないかの違いだけ。

 他の種族もそうだ。姿かたちは違えど、人族とエルフ族、獣人族、獣族……そこに違いは無いのだ。

 誰もが創世主の力を使うことができる。それが、辿り着いた真実。


「僕自身が、精霊と同じ――。だとしたら、僕が精霊に命じて魔導術を使うように、僕が僕に命令して内なる力を解き放てば、魔物は消える――!」


*

 ノエルがその真理に至った時。

 父と母の幻影はふっと目の前からかき消えた。


 と同時に、ノエルの前には仲間達がいた。


 カッツェが、ヴァイスが、レイアが、カノアが――。白い空間には、いつもノエルをすぐそばで見守ってくれていた、いつもの仲間がいた。


 ノエルを見る彼らの顔は、あの父や母と同じように優しかった。少し照れくさいような気もする。だが何も言わなくとも、心が通じ合っているのがわかった。


「……みんな、初めからすぐそばにいてくれたんだね」


 ノエルが気付かなかっただけで、彼らはずっとそこにいたのだ。

 ようやくノエルは気付いた。自分が一人ではなかったことに――


 胸の内から湧き上がる暖かな想いとともに、涙が瞳から溢れ落ちた。


 誰ともなしに顔を見合わせて、五人はそっと手を重ねた。

 目を瞑り、柔らかな感情に身を委ねる。

 他には何も要らなかった。

 胸の内から湧き上がる想いを、言葉にして願う。


(帰りたい……みんなと一緒に。もう一度――)


 その心が一つに重なったとき、光が一層明るくなった。そして――


*

「あれ、ここは――」


 目が覚めると、ノエル達はバベルの塔の麓にいた。大勢の仲間が同じように目覚め、起き上がり始めていた。


「竜の巣が、消えてる……!」


 誰かが声を上げた。


 竜の巣の深淵があった場所には、何もなかった。

 ただ広々とした穏やかな海だけが広がっていた。太陽の光に波が反射して、キラキラと輝いている。


 起き上がったカッツェが、少しぼーっとした表情をしてから頭をかいた。


「……俺たち、何と戦っていたんだろうな」

「自分自身――かな」


 ノエルはポツリと呟いて、笑顔を見せた。


 他の人々も、徐々に起き上がり始めていた。体を起こし、歓喜の涙を流す者。互いにしっかりと抱き合う者。照れくさそうに顔を見合わせて笑う者――。皆が同じように夢から覚めたようだ。


 ノエルは頭上にある明るい太陽を見上げた。そこにはただ、自分達を包む大いなるものの愛だけがあった――。



==========================

◆冒険図鑑 No.51: 善と悪

 善悪とは、コインの裏と表のようなものである。

 その二つは決して交わらないかのように見えるが――ではコインの「側面」は裏に属するのか、表に属するのか?


 この世にはコインのふちのように「割り切れないもの」の方がずっと多い。であれば。裏と表、善と悪を決めるつける前に、「好きなほう」を選べばよいのだ。絶対者はそう言い残して去って行った――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。