第22話 獣人猫族との出会い
魔獣や獣を倒しながら森の中を進む一行は、既に南北に拡がる大陸の中部地方にまで達しているようだった。カッツェが磁石や太陽の位置で自分達の位置を確認し、地図と見比べながらノエル達にそう教えてくれた。
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最初に異変に気付いたのは、エルフ族の聴覚を持つレイアとヴァイスだった。先にレイアが、少し遅れてヴァイスが、気配を感じた方向へと耳を傾けた。
「どうかしたか?」
カッツェが二人の様子に気付いて、歩みを止めた。二人ともエルフの耳を動かして何かの気配を探っているが、それが「何」なのか確信が持てないようだ。ヴァイスはレイアに目配せをしながら、口を開いた。
「レイア、様子を見て来てもらえ――」
ヴァイスの言葉が終わるか終わらないかのうちに、レイアは目線で頷き、すっと音も無く気配を消した。先ほどの物音の原因を探るため、その場を離れたのだ。いつもながら彼女の動作は素早い。それに梟よりも音を立てないのだった。
二人のやりとりを見ていたカッツェが、すっとんきょうな声を上げた。
「んっ? 何だ今の! お前ら、いつの間にそんな関係に?!」
「……一体どんな関係ですか。エルフは人族より勘が鋭いのです。だから同じエルフ同士だと、テレパシーのようにお互いの意思が何となく伝わる時があるのですよ」
ヴァイスが律儀に否定している。が、言葉も交わさず互いの意思を伝え合う様子は、さながら熟年の夫婦のように見えなくもない。これが人族同士なら、言葉を交わしてすら誤解や喧嘩が生じることもあるというのに。
「それって、やっぱり二人は仲が良いってことじゃん♪」
ノエルも混ざって茶化すと、ヴァイスは困ったように、はは、と笑うのだった。
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ほどなくして、ざっという音とともにレイアが戻った。
「どうでした?」
「危険は無い、だが――」
彼女にしては珍しく、少し困ったような表情を浮べている。軽く首を傾げ、銀色の髪が肩に落ちた。形の良い眉は、困惑のためにほんの少し歪められていた。そしてぽつり、と次の言葉を吐く。
「――猫が」
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レイアに案内されて到着した一行が見たのは、予想外のものだった。
大きな木にぶら下がる、大きな網。その中でジタバタと暴れていたのは、オレンジ色の巨大な猫――ではなく、半人半獣の『獣人』の子供だった。
「ニャーー! 旅人さん、良いところに来たニャ! ここからボクを下ろしてくれニャ!」
網の中の子供が涙ながらに訴える。その声はまだ幼なかった。
「可哀想だし、下ろしてあげようよ! 敵じゃないよね?」
ノエルは、自分より幼い子供が網に掛かっている姿を見て、真っ先に同情した。事情は何であれ、目の前の子供から危険な気配は感じられなかった。きっと迷子に違いない。
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ヴァイスの指示で、カッツェとレイアがすぐに動いた。
レイアが木に上って縄を切り、カッツェが下で網ごと受け止めて、獣人の子供を無事地面に降ろす。
「……ふにゃっ!」
網から出た獣人の子供は、猫のようにぶるぶると一瞬体を震わせて、自由の身になれたことを喜んだ。
「いてて……ありがとニャ、助かったニャ! ボクは、カノアっていうニャ!」
ぴょこんと立ち上がったその姿は、小柄なノエルのさらに胸あたりまでの身長しかなかった。
見た目は人間の七~八歳程度。黄色の毛皮でできた、短い服を着ている。
ピンと立った三角の耳に、ゆらゆらと揺れるしっぽ。拳を握りしめたときに指先から飛び出る爪は、正に《《猫》》のものだった。
「獣人猫族……僕、初めて会ったよ!」
ノエルは少し興奮してはしゃいだ。
獣人猫族は獣人族の一種で、人族と獣族の中間のような性質をもつ種族だ。猫族以外にも多くの種族が存在するが、大抵は深い森の中など自然の多い場所に住んでいて、人里にはあまり顔を出さない。
特に獣人猫族は寒さが苦手なので、ノエルが住む北の地ではほとんど見かけたことがなかった。
「あなたが掛かっていたコレ、猪か鹿用の罠ですよね……何故こんなところに獣人猫族の子供が?」
「ニャ~、ボクは道に迷って罠に掛かってしまったニャ。もう三日三晩、何も食べてなくて……お腹が空いて死んじゃうかと思ったニャ」
話しながら既に、ぐーーっとカノアのお腹が鳴っている。
「仕方がない。こんな場所に子供を置いてはいけないし、どこか安全な場所まで連れて行こう」
「ニャー! 恩に切るニャ!」
カッツェが持ち前の正義感を発揮して、カノアをパーティーに加えた。
こうして彼女はぴょこぴょこと一行に同行することになった。
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◆冒険図鑑 No.22: 獣人族
獣人族は、人と獣の中間のような種族である。各種族ごとに、獣の特徴を引き継いだ容姿を持つ。たとえば耳と尻尾、獣人鳥族ならば腕翼など。
獣人猫族《ケットシ―》の他に、獣人狼族、獣人狐族、獣人狸族、獣人兎族、獣人鳥族など様々な種族が存在する。
人族よりも身体能力に優れているが、魔力は少なく、魔導術を使えるものはほとんどいない。
大抵は、獣人族同士で村や集落に住んでいる。それは彼らの寿命とも関係があるらしい。




