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激重第三王子の暗躍無双~禁忌の闇の魔法を隠して無能を演じていたら婚約者が馬鹿にされたので王位を取って周囲を徹底的に黙らせる~  作者: 9bumi


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第1話 僕が国王になったら

 僕はただ、愛するリティアと婚約できた喜びを、二人で分かち合えればよかったのに……。


「せっかく我が弟――ルルアの婚約が決まったのだ。盛大に祝わねばな!」


 王座の前で、父上――ルナリア国王から婚約を言い渡された僕に、第二王子のトリア兄さんが勝手にそんなことを言い出した。


 狙いは、僕に恥をかかせるため。

 つまりは、僕への嫌がらせ。


 現在、僕の祖国であるルナリア王国では、次期王位の継承権争いが水面下で進められている。

 ただし、実質的に争っているのは第一王子のアルト兄さんと第二王子トリア兄さんであって、第三王子の僕は彼らにとっていないも同然なのだ。


 そんな僕に、一体何の恨みがあってこんなことをするのか。


 一つは僕が妾の子供だから。もう一つは、僕の婚約者であるリティアの実家であるノルン家が、ここ数年で大きく力をつけている家だから。

 第一王子派閥に劣る第二王子派閥にとって、ノルン家は仲間に加えたくて仕方ない勢力だった。


 であるのに、リティアが選んだのは僕だった。


 だから、わざわざ第二王子主催という形で、僕とリティアの結婚披露宴を開いた。


 下手に第二王子派閥を敵に回してしまえば何をされるかわからない。最悪リティアに何か危害が加わるかもしれない。


 披露宴の提案を拒絶することなどできず、僕はトリア兄さんの提案を受け入れた。


 その結果――。


「ごめん。リティア――」


 披露宴が終わり、僕は自室のベッドで涙を流していた。


 本来、二人の婚約を祝う場であるはずなのに、空気は最悪だった。


 主賓席に座る僕とリティアに挨拶をしに来る者はほんの一握りで、大半の者はそれぞれ好き勝手に僕とリティアの悪口を言っていた。

 ちなみに、彼らが王族への不敬に問われることはない。悪口を言っていたのは第二王子派閥の人間であり、僕が訴えようともトリア兄さんが上手いようにもみ消してしまう。


 悲しいが、これが現実。

 力を持つ者とそうでない者の差だった。


「僕に、力があれば――」


 見る目のない女や、愚かな王族の妻などと、リティアが馬鹿にされずに済むのに。


「くそっ……っ」


 僕の中で、どす黒い何かが身体の血管を通って、心臓に集まってくるような感覚を覚える。


「こんな時に――」


 僕には、秘密がある。


 王家の人間にのみごくまれに発現される闇の魔力が、僕の中には常に渦巻いている。

 この魔力は、ルナリア王国の礎を造ったものだ。公には知られていないが、ルナリア王国の初代国王もまた闇の魔力を持っていたと言われる。

 しかし、闇の魔力は他属性の魔力を大きく凌ぐ力を持っている代わり、利用者の精神を蝕み狂人としてしてしまう。

 その性質上、過去に狂王を生み出してしまったこともあり、闇の魔力を持つ王族は、見つけ次第抹消されてきた歴史がある。


 自分の命を守るため、僕はずっとこの力を隠してきた。


 そのせいで、体内の魔力の循環も悪く、それに伴って成長も遅くなり、身長もリティアとほとんど変わらない。


 その結果が、今の有様だ。


 僕が闇の魔力を使ったとしたら――。


「ダメだ。それだけは――」


 僕は母上と約束したんだ。

 この能力は二度と使わないと――。


「こんなこと、考えている場合じゃないな」


 今日は、王城に食客としてリティアを招いているのだ。

 ひとまず部屋に行って、改めて今日のことを謝りたい。


 僕は涙を拭って、リティアの部屋へ向かう。


 そして、部屋の前まで来たところで、中にリティア以外に誰かいることを察した。


「一体、誰だ――?」


 入るのを止めて、部屋の会話に耳を傾ける。


『どうだ? ルルアを捨てて、私の下へ訪れる気になったか?』


 この人を上から見下すような声――トリア兄さん……っ!


 どうして、兄さんがリティアの部屋に……?


 会話の内容からして、ノルン家を自派閥に取り込もうと勧誘に来ている可能性が高い。


 大丈夫。リティアが僕を裏切るはずがない。


 僕がどんなに惨めな時だって、リティアはずっとそばにいてくれたし、今日だってずっと僕に気にしないでと言い続けてくれた。


 そんなリティアが、僕を裏切るなんて絶対にあり得ない!


『お誘いいただきありがとうございます。ですが、再三申し上げているはずです。私は第二王子派閥には入らないと』


 ほら、やっぱり……っ!


『なぜ、ルルアなんだ?』 

『お慕いしているからです』

『あいつに価値などないだろ!』


 そうだ。トリア兄さんの言う通り、僕に価値なんてほとんどない。

 形だけの王族の僕より、その辺の子爵や伯爵の方がよほど魅力的だ。


 どうして、リティアは僕のことを愛してくれているのだろう。


 今まで深く考えたことはなかった。考えなくとも、彼女の僕に対する一言一言が、心からのものだとわかったから。


『誰かを愛することに。理由が必要ですか?』

『何……?』

『私はルルア様のお人柄に触れて、純粋にお慕いしたいと、そう思ったのです』

『気に入らん!』


 マズい……っ!


 トリア兄さんが怒るのも時間の問題だ。 


『話は勧誘の件だけですか? でしたら――』

『お前を傷物にしてやる』

『えっ――』

『無能のルルアにはちょうどいいだろう!』

『トリア様、お止めください!』


 ……っ!?


 ベッドに無理やり押し倒したような、大きな物音が部屋の中から聞こえてくる。


 トリア兄さんは本気だ。本気で、リティアの大切なものを奪おうと――。


「うっ……っ」


 胸が苦しくなって、その場に膝をつく。


 先ほどまであった、闇の魔力の奔流が本格的に激しくなってくる。


 ダメだ、これだけは――。


 でも、このままでは僕のリティアが――。


 そう思った瞬間だった。


 気づいたら、僕は鍵のかかったリティア部屋の扉を無理やりこじ開けていた。


「――ルルア、様――」

「貴様がなぜ――いやちょうどいい。このままお前の大切な女が俺に食い散らかされる様を――」

「黙ってください。トリア兄さん」

「――は……?」


 誰に物を言っているんだと、そう言いたげな鋭い視線が向けられる。

 いつもなら足がすくんでしまうところだが、僕はそれに臆することなく続けた。


「話があります。僕と一緒に外へ」

「ルルア。お前、何を言って――」

「いいから、僕と一緒に外へ来い!」

「お前、誰に向かって――わかった」


 トリア兄さんは紫色の瞳に僅かな影を落として立ち上がると、僕の言う通り部屋の外へ出る。


「ルルア、様……?」

「ごめん。少し、兄さんと話してくるよ」


 本当は、今すぐリティアを抱きしめて安心させてあげたい。

 だけど、今は僕の後ろにいるトリア兄さんをどうにかするのが先だ。


 僕はトリア兄さんを後ろに従えて、適当なバルコニーに出る。

 そして振り返り、トリア兄さんの瞳を真っすぐ見つめる。


「――っ、ルルア……なぜ私がこんなところに」


 惚けた様子のトリア兄さんを無視して、僕は尋ねる。


「兄さん。さっきリティアに何をしようとしていましたか?」

「お前が見ての通りだが?」


 状況についてはまだ呑み込めていないようだが、それでも僕を嘲ることだけは忘れない。


「そうですか――」

「それだけか?」

「いえ、もう一つあります」


 たぶん、これ以上は元には引き返せない。

 それでも、リティアを傷つけようとした。

 この罪は、僕の中ではあまり大過ぎる。


 僕はこれ以上ないほど瞳に力を込めて、トリア兄さんの僕と同じ紫色の瞳を見て言った。


「リティアは僕のものだ」

「は――」

「手を出すことは絶対に許さない。わかったか……っ!」

「お前、さっきから誰に――っ」


 僕に大きく反抗しようとしたところで、トリア兄さんが頭を抱えてうずくまる。


「お前、一体何を――」

「別に何も、ただ少し眠ってもらうだけだよ」

「――っ」


 ほんの少しもがき苦しんだ後、トリア兄さん――否、トリアは意識を失った。


 命を落としているなどということはない。

 本当にただ眠ってもらっただけ。


 一月は毎日悪夢にうなされるだろうが。


「さて――」


 僕はその場で寝ているトリアを放置したまま、そのままバルコニーの壁にもたれかかって大きくため息をつく。


 ついに、やってしまった。

 闇の魔力を、行使してしまった。


 この力に目覚めてから、一度も使わずに抑え込んできた。


 しかし、ここまではっきり意識して使ってしまった以上、これ以上抑え込むことは不可能だ。


「覚悟を、決めよう」


 リティアを守るために、僕はこれからこの力を惜しげもなく使う。

 

「当面の目標は、そうだな」


 とりあえず、僕が国王になろう。


 力を行使した以上、国が――他の王族が躍起になって僕を抹殺しようとするだろう。

 そうなれば、リティアに危害が加わることは避けられない。


 僕が国王になれば、その可能性は消える。


「それに――」


 僕が国王になれば、リティアが馬鹿にされるようなことはないよね?

 リティアがトリアのようなクズに襲われることはないよね?


 そう、すべてはリティアのためなのだ。


「大丈夫――」


 リティアのため――その魔法の言葉があれば、きっと僕が本当の意味で闇の魔力に飲み込まれるということはない。


「そのはずだ――」


 だから、今日から僕は国王を目指す。この力があれば、そう難しいことではないはずだ。


 僕は何度か自分にそう言い聞かせてから、トリアを抱えて医務室へと向かった。

 

         ◇◇◇


 ルルアがトリアを連れて去った後、リティアは呆然と鍵が壊れてまともに使えなくなった扉を眺めていた。


(さっきのは、一体……?)


 今まで何度か二人のやり取りを見たが、あんなふうにトリアが素直にルルアに従ったのは初めてだ。


「リティア……っ!」

「お父様――っ!?」


 どうやら、一連のもめ事は周囲にも聞こえていたらしく、リティアの父親でありノルン家当主のリゼールが入ってきた。


「これは一体……何があった?」

「それは――」


 王城の一室が破損していることもあり、事情を話さないわけにはいかない。


 信じてもらえないかもしれないと思いながらも、リティアは自分が見た光景について伝えた。


「そうか――王城へは私から伝えておこう」

「お父様――?」

「リティア。今日は私の部屋を使いなさい」


 そう言ってリゼールは使用人を呼ぶと、そのままリティアを自分の部屋へと連れて行かせる。


「何ということだ」


 一人、扉が破損した部屋で、リゼールは顔に手を当て、溢れ出しそうな笑い声を必死に抑える素振りを見せる。


 ついに、ルルアが覚醒した。


「これで、この国の大勢は大きく変わるぞ」


 胸の高鳴りが大きくなっていくのを感じながら、リゼールは部屋を後にした。


――作者より――

第1話読んで下さりありがとうございます!

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