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薔薇病で忘れられた第一王女は、元護衛の副団長にもう一度選ばれる  作者: 杜咲凜


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8/8

エピローグ 兄の願い

書類に目を落としながら、王子――いや、王となった彼は、ふと手を止めた。


窓の外では、庭の木々が穏やかに揺れている。

昔から変わらない景色だ。


「……馬か」


報告書の一文が、目に留まっていた。

第一王女、短期の旅より帰還。

体調安定。

問題なし。


それだけの、事務的な記述。

だが、彼はその行間を読む。


妹が馬に乗った。

旅に出た。

自分の意思で。


――変わったな。

胸の奥で、静かに言葉が落ちる。


思い返せば、あの子はずっと、誰かの期待の中にいた。


優秀で、美しく、国の象徴として扱われ、それを疑うこともなく受け入れていた。

何も選ばなくても、すべてを与えられていた。


だが、それは――薔薇病とともに消えた。


薔薇病の報せを受けた夜、王子は初めて「王族であること」を憎んだ。


代われない。救えない。

ただ、決断を下すことしかできない。


それでも彼は、妹の人生を、悲劇のまま終わらせたくなかった。

もう遅いかもしれない。


ただ救いがあるのは、二人とも生きていること。

ヴァルドの遠征での活躍ぶりは、何度も報告書にあがる。

彼は何年も前線で、命をかけて戦う。

いつか、悲しい報告があるのではないか。

そう何度も感じ取っていた。


だが、彼は幸運なことに生き延びた。

そして、さらに幸運なことに戦争も終結した。

これでやっと兵を引き上げられる。


内心ほっとした。亡くなった兵士たち、悲しむ家族。

それは、やはり胸が痛む。だが、王族は悲しむだけではならない。


王子はそれでも、身内には甘い自覚はあった。

だから、あの男を呼び戻した。


ヴァルド。


無駄口を叩かず、愚直なまでに真っすぐな。

戦功をたくさんあげたのだから、さっさと前線から帰還して、嫁でも迎えろ。

そう家族から催促が何度もあったようだ。それを突っぱねて戦いに身を投じた。


「……正解だったな」


独り言のように呟く。

遠く、庭の一角に人影が見える。

並んで歩いている。

距離は、一定だ。


だが――

確かに、並んでいる。


あれは、仲のいい夫婦だ。

妹の姿をみかけると、気持ちがうれしくなる。


王は、椅子にもたれ、ゆっくりと息を吐く。


「……すっかりヴァルドは骨抜きだ。あいつがあんな顔をするなんて」


呟く。

だが、その声に不満はない。


若い頃に選ばれることと、いま選ばれることは、違う。

どちらが重いかは、言うまでもない。


庭で、子どもたちの声がする。


自分の子だ。妹たち夫婦に駆け寄る。

ときおり、妹の笑い声が混じっていた。


王は、静かに目を閉じる。

 

――ああ。

もう、彼女を守る必要はない。


あの子は、自分で選んだのだから。

最高の伴侶を。


王は立ち上がる。

書類を閉じ、机の上に置く。


やるべきことは、まだある。

国は続く。時間も、止まらない。


それでも、ひとつだけ、確かなことがある。

あの選択は、間違いではなかった。


妹と、ヴァルドを再会させたこと。

彼女を守れるのも、彼女が選べるのも。

たぶんお互いにしかない。

そして、気持ちが通じ合っていることも。

やっと今だからこそ、ふたりが選べる選択肢ができたことを。


視線を外へ向ける。

並んで歩く二人は、まだ主従の距離がたまに見える。


妹の笑い声と笑顔。

だが――もう、十分だった。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


リゼリアとヴァルドの物語を、最後まで見届けていただけて嬉しいです。


派手な作品ではありませんでしたが、

静かな時間や、二人の距離の変化を楽しんでいただけていたら幸いです。


本当にありがとうございました。

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