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夜明け、そして帰還 ~ヨアケという名の機械が、今日その名の通りに輝いた~

挿絵(By みてみん)

城の外に出ると、夜が明けていた。


東の空が白んでいた。地平線の向こうに橙色の光が差し始め、城の輪郭がシルエットになって空に浮かんでいた。


囮部隊の人々が、城の外で待っていた。


カケルたちが出てきた瞬間、歓声が上がった。


「終わったのか!!」


「テーン商会が止まったと!?」


「本当に!?」


リョウが全員に向かって言った。


「テーン商会は今日から解体です。約束を取り付けました。流通の正常化には時間がかかりますが、始まります」


もう一度歓声が上がった。


ミーナが城の扉のところで、腕を高く上げて叫んだ。


「やったーーーーーーーー!!!!!!!!!」


その声が、夜明けの空に響いた。


ゴルダムが近づいてきた。


「終わったか、転生者」


「終わりました」


「ヨアケの損傷は?」


「城壁を上がった際に一か所、擦れています。修理が必要です」


「明日から手を入れる。部品は持ってきた」

ゴルダムはそう言って、それ以上は何も言わなかった。


しかしカケルには、その一言に多くのものが込められていることがわかった。


「ありがとうございます」


「礼は……」

ゴルダムは言いかけて、止まった。


「……今日は言っていい」


「ありがとうございます、ゴルダム」


ゴルダムは小さく頷いて、部下の方へ歩いていった。


エレナがカケルの横に来た。


「疲れましたか」


「疲れた。でも……」

カケルは東の空を見た。


「これが本物の夜明けだな」


「そうですね」

エレナは静かに言った。


「機械の名前通りに」


「ヨアケ、仕事をしたな」


「しましたね。夜明けがこんなに綺麗なんて。」



帰り道。


三叉平野で、各地の仲間たちに別れを告げた。


騎士団の隊長が「また必要なときは呼んでください」と言い、商人組合のリーダーが「流通の正常化、俺たちも動き続けます」と言い、農業組合の人々が食料を持たせてくれた。


ゴルダムのチームが北へ去るとき、若い職人のガーナが「ヨアケの次のバージョン、俺も作りたいです」と言った。


「作ろう」

カケルは言った。


「また来るから、待っていてくれ」


「待ってます」


ゴルダムが何も言わなかった。しかし歩き去る前に一度だけ振り返って、カケルを見た。


カケルは頷いた。


ゴルダムも頷いた。


それだけで、十分だった。



ランデールへの帰路、二日目の夜営地。


ミーナがお守りを取り出して、じっと見ていた。


「ミーナ」

カケルが声をかけた。


「うん」


「里に帰ったとき、何を伝えるつもりだ?」


「世界を救ったこと」

ミーナははっきり言った。


「このお守りが役に立ったこと。お父さんとお母さんのおかげで、みんなを守れたこと」


「全部伝えてくれ」


「伝える!!お父さん、絶対驚く!!お母さんは泣く!!」


「タロンさんにも伝えてほしい。霧島武さんと一緒に始めたものが、孫のリョウと、転生者の俺が引き継いで、ここまで来たと」


「伝える!!」


リョウが静かに言った。


「タロンさんに……祖父のこと、もう一度ちゃんと話したい。PCのデータから書き写した日記を持っていく。読んでもらえれば、祖父がどんな人だったかが伝わると思う」


「喜んでくれる」

ミーナは言った。


「タロン父さん、リョウのおじいさんのことを今でも「義兄さん」って呼ぶから」


「そうか……」

リョウは目を伏せた。


「伝わってるよ」

カケルが言った。


「時間が経っても、ちゃんと伝わってる」


「そうだな」

リョウは小さく笑った。


「そうだな」


エレナが焚き火の炎を見ながら言った。


「今回の旅で一番印象に残ったことを、一つずつ言いませんか」


「なんで急に」カケルが言った。


「記録したいので」

エレナは静かに言った。


「長く生きると、記憶は薄れます。でも言葉にしておくと、残りやすい」


「じゃあ俺から」

カケルは少し考えた。


「ドワーフ峠で初めて鉱脈地図を見たとき、敵の規模の大きさに怖くなった。それでも、やるしかないと思えた。あの瞬間が、一番よく覚えてる」


「なぜ怖くならなかったのですか」リョウが聞いた。


「怖かった。でも、隣にお前たちがいたから」


「単純だな」リョウは苦笑した。


「単純で十分だ」


「俺は」

リョウは少し考えた。


「祖父のPCが起動したときだ。「誰か続きをやれる人間が出てきてくれることを願う」という文章を読んで、返事ができると思った。それが嬉しかった」


「ミーナは?」

カケルが振った。


「ミーナはっ!!」

ミーナは即答した。


「玉座の間でお守りを使ったとき!!お父さんとお母さんが傍にいてくれた気がした!!」


「家族を感じたか」


「うん!!遠くにいるのに近くにいる感じがした!!不思議だけど、本当にそう感じた!!」


エレナは少し考えてから言った。


「私はエルフの森で、カケルと話した夜です」


「何の話をしたとき?」


「「帰りたくないのか」と聞いたときです。カケルが「今は帰れない。やりたいことがある」と答えた」エレナは静かに続けた。「長く生きると、「ここにいる理由」が薄れることがある。でもあの言葉を聞いて、私にも同じ理由があると思えた」


「エレナにとってのここにいる理由って何だ?」

カケルが聞いた。


「あなたたちです」

エレナははっきり言った。


沈黙。


ミーナが「エレナ、すごくいいこと言った!!」と叫んだ。


「叫ばないでください」

エレナが言った。


「叫びたくなっちゃった!!」


焚き火が揺れた。


夜風が草原を渡った。


四人はしばらく、黙って炎を見ていた。



ランデールへの帰還は、街の人々に迎えられた。


テーン商会が解体されるという話は、商人のネットワークを通じてすでに届いていた。


城下町の入り口に、顔見知りの人々が集まっていた。


「帰ってきたか」

露天商のおじさんが言った。


「帰ってきました」

リョウが答えた。


「派手なことをやったな。テーン商会が終わるとは」


「いろいろありましたが、終わりました」


「ヨアケも無事か」


「傷はありますが、動いています」


「あの機械、なんか好きだ。街の名物になってるぞ。最近は見物人まで来るようになった」おじさんが笑った。


「看板には、それくらいがちょうどいい」

カケルは言った。


ミーナが街の入り口で「みなさーーーん!!帰ってきましたーーーー!!!!」と叫んだ。


集まっていた人々から、笑い声と歓声が混じった反応が返ってきた。


「ミーナちゃん相変わらずだな」

おじさんが言った。


「相変わらずです」

カケルが言った。


「それがいいところです」



店に帰って、まず全員でほこりを払った。


扉を開けると、かすかな油の匂いがした。


カケルにとって、それは「帰った」という合図だった。


「掃除をしよう」

リョウが言った。


「やる!!」

ミーナが言った。


四人で掃除を始めた。


カケルは旅で持ち帰ったパーツを分類しながら、次に作るものを考え始めていた。


「カケル、ぼーっとしてる」

ミーナが箒を持ちながら言った。


「考え事をしてた」


「何を?」


「次に作るものを」


「まだ作る!?」


「ジャンク屋だから」


「そっか!!じゃあミーナも手伝う!!」


「今は箒を持ってくれ」


「わかった!!」


エレナが工具を整理しながら静かに言った。


「カケルが考え始めたということは、また何かが始まる予感がします」


「そうか?」


「そういう顔をしているので」


「どんな顔だ?」


「「次の設計図が見えてきた」

という顔です。旅の最初に設計図を見ていた顔と同じです」


「……エレナは俺の顔をよく見てるな」


「長く生きると、顔を読む能力が上がります」


「経験か」


「経験です」


リョウが帳面を取り出した。


「一段落したら、次の仕入れの話をしよう。在庫が減ってきた」


「次の旅のタイミングだな」カケルが言った。


「そうなる」


「どこへ行く?」


「それを話し合う。候補はある」

リョウはわずかに目を細めた。


「中野アンダーギャラリー、という言葉が、また引っかかっている」


「中野アンダーギャラリー!!」ミーナが繰り返した。


「お父さんの蔵で見たやつ!」


「祖父の日記にもあった」

リョウは言った。


「何なのかはまだわからないが……いつか必ず答えが出ると思っている」


「出ます」

エレナが静かに言った。


「そういうモンかな」

カケルが笑う。


「経験から来る直感です」

掃除をしながらエレナが笑う。



掃除が終わった頃には、夕方になっていた。


四人が食卓を囲んだ。


リョウが干し肉を出してきた。エレナが薬草茶を淹れた。ミーナが「多めにちょうだい!!戦ったから疲れた!!」と言い、カケルが「全員疲れてる、同量だ」と言い、ミーナが「ミーナは一番頑張った!!」と主張した。


「お守りを盾に出来たのはミーナとみんなを思う力だな。」

カケルが言った。


「じゃあ多め!!」


「……少しだけ多めにやる」


「やったーーー!!!!」


笑い声が店に広がった。


それを聞きながら、カケルは窓の外を見た。


ランデールの夕暮れが、街を橙色に染めていた。


店の前には、ヨアケが立っていた。夕日を受けて、青紫の機体が橙と交じり合って、不思議な色に輝いていた。


「なんか、いいな」

カケルはつぶやいた。


「何が?」

リョウが聞いた。


「全部が。今ここにいる全員が。この店が。ヨアケが。今日終わったことが。それから……」

カケルは少し間を置いた。


「これが終わりじゃないことが」


「終わりじゃないな」

リョウは頷いた。


「続く」

ミーナが言った。


「続きます」

エレナが言った。


「そうだ」

カケルは言った。



店のベルが鳴った。


夕方の最後の客が来たのだ。


カケルは立ち上がった。


今日も始まる。


いや、今日も続く。


秋葉原最終処分場の、普通ではない日常が。


◇◇


店に帰って三日後。


テーンから手紙が届いた。


「「約束の履行を開始した。北の鉱山から順に解放を進めている。一週間以内に主要な交易路の封鎖を全て解除する。なお……先日のことを考えている。またいつか話ができるなら、話したい」


「だってさ」

リョウが読み上げた。


全員が少し黙った。


「変わろうとしてるね!!」

ミーナが言った。


「かもしれない」

カケルが言った。


「「またいつか話したい」って書いてる。ミーナはもしまた来たら……迎えてもいいと思う」


「それはミーナが決めていいことだ」

カケルは言った。


「カケルは?」


「俺は……テーンが約束を守り続けるなら、同じように考える。行動で見せてくれれば、答えが出る」


「エレナは?」


「同意します」

エレナは静かに言った。


「ただし、私は一つだけ条件があります」


「なに?」


「エルフの森に、二度と手を出さないこと」


「それは絶対の条件だな」リョウが言った。


「絶対の条件として伝えます」


カケルはリョウにうなずいた。


「返事に、その条件を書いておいてくれ」


「わかった」

リョウは帳面を取り出した。


「それから……もう一つ、書く」


「何を?」


「「猫族の里近辺への流通も、優先的に回復してくれ」

と。ミーナの里への行商が戻れば、タロンさんたちも喜ぶ」


「確かに。」

カケルは言った。


「うん!!タロン父さんもサーニャ母さんも、きっと喜ぶ!!」ミーナが言った。


「という事で、そのように書く事にするよ。」

リョウはペンを走らせた。


カケルはその間、窓の外を見た。


ランデールの朝の空に、雲が流れていた。


旅が終わった。戦いが終わった。でも、世界は動き続けている。


テーンが変わろうとしている。各地の流通が戻ろうとしている。ゴルダムが採掘を続けている。ガロが情報を集めている。ガリ商会の老人が荷馬車を引いている。猫族の里でレンが見張りに立っている。


全部が、全部が続いていた。


「カケル!!」

ミーナが来た。


「うん」


「ありがとう!!」


「何が?」


「旅に連れてってくれて。戦ってくれて。諦めないでくれて!!」

ミーナははっきり言った。


「カケルが諦めなかったから、ミーナもお守りを使えた。諦めてたら使う機会がなかった」


「俺は諦めてなかったというより……諦め方がわからなかっただけかもしれない」


「同じだよ!!」


「そうか?」


「諦めなかったのと同じ!!」

ミーナは断言した。


「細かいことはどうでもいい!!カケルが最後まで動いたから、ミーナも最後まで動けた!!」


カケルはその言葉を受け取って、少し笑った。


「ありがとう、ミーナ」


「どういたしまして!!」


「お守り、また使えそうなときはちゃんと使っていいから」


「本当に?!」


「本当に。家族の力は、そういうために込められてると思う」


「うん!!わかった!!」


ミーナのしっぽが元気よく揺れた。


エレナが奥から出てきた。


「今日の作業を始めましょう」


「そうだな」カケルは立ち上がった。「まず在庫整理から」


「基板の修理が三件待っています」


「全部昨日ミーナが壊したやつか?」


「二件がミーナ、一件が……自然劣化です」


「二件か」


「前月比で改善しています」


「ミーナ、変わったな。」


「了解しました」


カケルは作業台に向かった。


手元に、旅で書き溜めたノートがある。


最後のページを開いた。


新しいページはまだ白い。


しかし、新しいページがある。


次が始まる。


それでいい。


秋葉原最終処分場は今日も営業中。


転生者と猫耳と長命のエルフと店主が、ジャンク品を前に、今日も手を動かしている。


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