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八拾玖話 トレンツ

「終わりだ!」

 そう叫び、アーサの眼前に近づけた槍が弾かれた。

 砂塵の中から、一筋の閃光が煌いた。

 俺だ。

 その鎧が光と血を反射した。

 地面に叩きつけられる。

 舞う砂塵の中、俺は体勢を整える。

「チッ」

 舌打ちして直ぐにピックに手を添える。

 気付いていない。

 今しかない。

 空を切った一筋の金属。

 風を裂き、アーサの顔面に一直線。

「東都王!」

「陛下!」

 東都王兵の声が聞こえたが、それに気づき、振り向き、ピックを避けるのを一瞬でできる程、東都王は若くはなかった。

 それに、傷を負っている以上、さっきよりも反応速度が遅くなっている。

 東都王の右頬を赤の涙が伝った。

「ブルズアイ」

 俺の投げたピックは当初の狙いと寸分違わず、東都王の右目に突き刺さった。

 痛みに耐えようとしたが、少し悶絶する姿が見えた。

 俺は左手に短剣を構えなおす。

 血を蹴り、速度を上げ、東都王に迫る。

 しかし、目の前に青と紫のサーコートを着た兵士が立ちはだかった。

「王を何としてでも、撤退させろ! 陛下をレオンハルトに殺させてはならん! 何としてでも生きて頂くのだ!」

 逃がして溜まるか。

 青のサーコートが赤色になった。

 紫も赤紫になった。

 俺の黒鉄の鎧も血は跳ね返した。

 指笛を吹いてトレンツをよびよせrわりだ!」

 そう叫び、アーサの眼前に近づけた槍が弾かれた。

 砂塵の中から、一筋の閃光が煌いた。

 俺だ。

 その鎧が光と血を反射した。

 地面に叩きつけられる。

 舞う砂塵の中、俺は体勢を整える。

「チッ」

 舌打ちして直ぐにピックに手を添える。

 気付いていない。

 今しかない。

 空を切った一筋の金属。

 風を裂き、アーサの顔面に一直線。

「東都王!」

「陛下!」

 東都王兵の声が聞こえたが、それに気づき、振り向き、ピックを避けるのを一瞬でできる程、東都王は若くはなかった。

 それに、傷を負っている以上、さっきよりも反応速度が遅くなっている。

 東都王の右頬を赤の涙が伝った。

「ブルズアイ」

 俺の投げたピックは当初の狙いと寸分違わず、東都王の右目に突き刺さった。

 痛みに耐えようとしたが、少し悶絶する姿が見えた。

 俺は左手に短剣を構えなおす。

 血を蹴り、速度を上げ、東都王に迫る。

 しかし、目の前に青と紫のサーコートを着た兵士が立ちはだかった。

「王を何としてでも、撤退させろ! 陛下をレオンハルトに殺させてはならん! 何としてでも生きて頂くのだ!」

 逃がして溜まるか。

 青のサーコートが赤色になった。

 紫も赤紫になった。

 俺の黒鉄の鎧も血は跳ね返した。

 指笛を吹いてトレンツを呼び寄せ、飛び乗る。

 手綱を握るのももどかしく、馬の腹を蹴った。

 アロンダイトはどちらかと言えば短い部類の剣に入る。ショートソードと言う訳ではないが、ブロードソードやロングソードという訳ではない。

 体躯がしっかりしてるトレンツの高さからアロンダイトを振るうとなると、どうしても落馬のリスクが付きまとう事になる。

 そのために手綱があるのだが……。

 視界が上下反転した。ダッサ。俺。

 だから焦るなって言ったのに。


 ♦♦♦


「炎獄、翆玲、葉桜方面の攻め手が弱まりつつあります!」

「それに反し、氷晶はその軍を増強し、セリウス城への攻城戦を開始! セリウス駐屯軍十二万が対応にあたっていますが、指揮官が殆ど居ない中での守城戦となると、些か厳しい部分もあるかと……」

「分かった。俺がセリウスに入る! 三万を準備しろ」

「おやおや、約束の十日を守らずして、この王都を離れるおつもりで?」

 後ろから粘ついた嫌な声が発せられ、俺の鼓膜を揺らした。

「……そのようなつもりは有りませんが、今は国家有事であることを十分にご理解いただきたい」

「国家有事たればこそです。優秀な武官を失う訳にはいかないのです」

「俺よりも優秀なリシュアン・レオンハルトが死ぬとしてでもですか?」

「それはそれは、恐ろしい話はおやめ頂きたい。マルム・レオンハルト殿」

 レックス・トレス法務長官。国での法の最高責任者にして、リシュアンとほぼ同等の権力を持つ男。

「セリウスが落ちれば、灰嶺山脈のほぼ全域が氷晶の手に落ちます。氷晶は現在、最もこの国には兵を行っている国。故に、氷晶を灰嶺山脈よりも南の王都圏に入れる訳にはいかないのです」

「入れてしまえば良いではないか。王都圏にはまだ二十万規模の兵が居る」

「氷晶が何万を動員しているのか知っておられますか? 炎獄五十万、翆玲四十万、葉桜十五万を指し置いて二百万近くを国境沿いに集結させている氷晶ですよ? 二十万と二百万、その差は十倍にも開くんですよ!?」

 熱弁を見せ、旗色の悪さが隠せないと踏んだレックスはその場を離れた。

「三万が動けるように準備しろ。奴が気付かないうちに王都を出る」

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