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八拾捌話 アーサ

「久しぶりだな。アーサ」

「貴様が名を呼ぶようになったとはな。これまでは官職名でしか呼ばなかったが……」

「どうせ最後なら、名前で呼んでやった方が良いだろう?」

「笑わせる」

 俺柄が宣言した通り、東都王との決戦はあれから二日後に訪れた。

 装備は右手のアロンダイトと左手のランシェの形見のランス。

 腰には小さな投擲用のピックと針、そして予備の短剣を差している。

 東都王は相変わらずの槍。

 東都王の「笑わせる」の直ぐ後、俺は無意識のうちに大地を蹴っていた。

 疾走しながら目に向けて針を投げる。

 細いから槍のような大型武器では防ぎにくい筈だ。

 誤算だった。

 東都王は俺が投げる予備動作を見た瞬間に構えていた。

 槍を持ち、高速で回転させている。

 投げた針が弾かれるのを俺は目視した。

「ちょこざいな……!」

「このような小細工が通じるとでも思ったか?」

 振り下ろされる剛撃を槍で受け流し、刃を間合いに内側に入れる。

 ここまでは既視感のある光景だ。

 右肩口からの袈裟斬り。

 左手はアーサの左胸に突き立てる。

 どちらとも中れば致命傷だ。

 防ぐ動作は……ない。

 いや、奴の右腕が前に出ている。

 走り込み、速度が出ている俺と不動の東都王。

「後ろに飛べ!」

 かすれた小さな声で叫んだ。

 止まれ。止まれ。止まれ!

 踵を地面に着け、勢いそのままバックジャンプ。

 金属と金属がすれる嫌な音。

 舞い散る火花。

 赤く濁る視界の端。

 下がったところで確認すれば、浅くはあるが、胸の金属板を突き破った傷があった。

「上手いな。今の一撃をその程度の傷で治めるとは」

「舐めるな。お前を殺す為に俺は幾度となく血反吐を吐きながら修練に挑んだ。それ程だ。俺はお前を震えるほどに殺したい。そう思っている」

「ほう? 情の乗せ方が殺意だけではないが? 殺意がこもっている刃はもっと力が強く、速い。だが貴様にはそれが無い。そう。何かに怒っている人間の刃だ。心はここに非ず、別の場所に在る。目の前の敵に集中しようとするが気を取られ、剣筋が乱れる」

「では聞くが、俺は今何に怒っている?」

「葉桜」

 その頃場を聞いた瞬間、鳥肌が立った。

 身震いし、必死に堪えた。

「何を……」

「当たりだな? そうか。裏切られたことがそれ程憎いか。悔しいか。怒りに震えるほどに、葉桜王が憎いか?」

「五月蝿い」

 低く発し、俺は再び走り出した。

 我武者羅に滅茶苦茶に刃を振るう。

「どうした。先程の貴様とは天と地ほど離れているぞ。戦いぶりが」

 容易い挑発に乗るな。

 しゃがむ。

 横降りの槍を躱す目的もあったが、それ以上に……!

 アーサの左側に屈んだ俺は、奥、つまり右側に槍を伸ばし、アーサの足しがみ付くような体制を取った。

 槍を右手でも持ち、大きく自分側に引いた。

 転べ!

 砂塵が全てを物語った。

 アーサは倒れた。

 今だ。

 本能が心の底から叫び声を挙げた。

「幾度となく、俺を阻み、打ち負かしてきた。だが、その栄華も凶将殺しの異名も、ここで潰える!」

 一歩前に出た。

「鎧門の地に貴様の墓廟を築いてやる! この地に眠れ! 古き獅子よ!」

 槍を右手に持ち替え、大きく振りかぶり、未だ倒れたままの東都王に突き立てた。

「終わりだ! 東都王。アーサ・リュミエール!」


 ♦♦♦


「東部の戦線もやはり、彼が居ないと……」

「止せ。未だシグルド様の幻影に夢を見ているのか?」

「違う」

 五万の援軍が届いたとはいえ、この俺とザイフェの二人で二百万近い炎獄軍を止めるのは不可能だ。

 横に長い炎獄戦線を新人二人で分担するとなると、それ相応の穴が生じる。

 そこから十万でも内部に流れ込もうものなら、たまったもんじゃない。

 十万は言わば猛毒。

 猛毒が入ったよりも下は必ず腐れ落ち、敵の手に落ちる。

「エドガー将軍と連絡が出来ない穴は大きいと言っているんだ」

 エドガー将軍は北東部を担当しているが最近、連絡が無く、軍が戦っているとだけしか分かっていない。軍が動いている事を見るに、無事だとは思うが、如何せん、悪い状況であることに変わりはない。

 そして俺とザイフェは主に生き残った五将が集結する南東部の担当だ。

「だが……殿の幻影を見ていないと言えば、嘘になる……。俺自身、あの御方に生涯をけて忠誠を尽くすと心に決めていた……。だが今はどうだ。誰もかれもが殿を過去の栄光と考えている。お前はどうなんだ……? ザイフェ。共に同じ主に尽くした仲として……聞かせてくれ」

 俺がそう問うた瞬間、敵襲を知らせる鐘が鳴った。

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