壱百伍話 それ相応の結末を
「して……今日は如何致しますかな?」
「各地の現場の将に任す。俺よりも肌感覚で葉桜を理解している、西部兵に任せる。それに、俺が下手な介入をすれば痛手を負いかねない。大きな戦術の判断はガゼフ、お前に任す」
「……! 承知!」
ガゼフが、俺に返事を返してから直ぐ後に伝令が来た。
「伝令!」
「どこからだ!? 葉桜内部からか!?」
「いえ、北部戦線のマルム様より伝令が! 伝令兵自体は、深手を負っており、ここに言伝を残し直ぐに息絶えました……が、言葉をお伝えしたく」
「そうか……。マルム将軍は何て言っている?」
日が陰った。暗くなった大地に北風が吹く。
「『灰嶺山脈防衛軍第一陣、交戦。アルトゥス・ヴァレンティア、本格介入の為、全軍前進。到着まで十日』!」
アルトゥスが、ついに本格的に戦争を動かし始めた。
そしてアルトゥスが到着するまでは十日。
つまり、十日以内に俺は眼前の朱恩軍を撃破して北部に出向いた方が良いという事だ。
北部には葬獄も獄龍いる。優秀な将も、マルムもいる。
だが、それら全てを合算しても、アルトゥスには遠く及ばない。
十八神将上位四席の一角とはそういう存在だ。
ところで、マルムは俺の謎解きを理解しただろうか。
俺は詳しい戦術の基礎になる部分、主な作戦の大まかな内容まで伏せて届けた筈だが……マルムはそれに気付けただろうか。
気付けていなければ、意味不明な暗号を送った俺に落ち度がある。
だが気づかなければ、この国が一撃で沈む。
そして、十日のタイムリミットが付いた。
十日以内に俺は北部の地についておいた方が良い。
つまり、ここから北部までの行程を引いた四日での決戦を行わざるを得ない。
「ガゼフ、前言撤回だ。全軍、攻陣配置!」
「……御意!」
やってくれたな……! アルトゥス!
♦♦♦
「リシュアン軍が全軍、攻陣配置に!」
「朱恩様!」
俺が振り返って叫んだ。
「フッ……。つくづく面白い男だ。いいだろう、こちらも攻陣を敷け!」
俺達の総大将、朱恩・真白が下知を下した。
「灵舜は中央に入り、叶うならばリシュアンの頸の肉を削ぎ落としてこい!」
「承知!」
俺にも命が下された。
俺の名前は灵舜・明耀。軍総司令の養子であり、実父は桜羅王の御父上。つまり、先王。
そう。曲がりなりにも桜羅の弟であり、最悪の場合の皇位継承権まで持ち合わせている存在だった。
だが母は農民の子である側室で、俺は忌避され忌み子として義父上に預けられた。
同い年に妹がいるが、その妹の国に攻め込んでいるとは何かと胸糞悪い。
俺がリシュアンの頸を落とせ、と言われた理由。
それは、俺の経歴に在る。
俺は葉桜の王都で三年に一度開催される『王都御前武勇祭』の最年少優秀者にして、王付き近衛兵長。
武芸であれば葉桜で肩を並べる者はいない、と称された人間だからである。
それは同時に一重の重圧と、恐怖を意味する。
国の威信がかかった戦いであり、戦場の勝敗を左右しかねない士気を操る。
無論俺が勝てばいいだけだが、風の噂に寄れば彼は翆玲三大神将の三人を相手にしても、第一席第二席を戦闘不能にし、末席を拉致するほどの余裕があると聞く。それを聞くと少し恐ろしいものもあるのが事実だ。
槍をきつく握った手に、誰かの手が触れた。
「安心して。貴方を絶対にリシュアンの元まで無傷で届けるから……」
俺に話しかけてきたこの女武芸者は名前を燐鳳・明耀。俺の義姉で義父上の実子。
「おい、そこの二人! 早く持ち場に付け!」
上官に怒られた俺達は自分たちの隊の下へ向け走り出した。
「灵舜を何としてでも届かせて!」
「灵舜隊を進ませろ!」
リシュアンの陣がある丘の麓まで斬り込んだところで、葉桜軍の足が止まった。
そこで随伴していた義姉上の隊が俺達を行かせる盾になり、敵兵の海に消えた。
「義姉上達の犠牲と奮闘を無駄にするな! 駆け上がれ!」
「オオ!」
不屈の精神と屈強さが葉桜兵の最大の強みだ、と言い聞かせ、俺達は一路丘を登る。
♦♦♦
「リシュアン様! 下に敵が涌いております。如何致しますか?」
「何!? 下の軍は何をやっておる!?」
「慌てるな。たかが少数、この本陣兵で捻り潰すぞ!」
下を覗いた俺は振りかけり、狼狽える部下に言いつけた。
見た所、敵兵は三千。旗印も知らない。
つまり、あまり名の通っていない部隊という事だ。
「麓側から四千を回して、相手の退路を塞げ。左翼をガゼフが、右翼を俺が担う。中央は開けて囮にすればいい」
「なる程……。では、過ぎに準備を致します」
勇猛と蛮勇を勘違いした愚者に、それ相応の結末を!




