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巻き戻り悪役令嬢の奔走~ルツーラと引きこもらなかった箱入令嬢~[引きこもり箱入令嬢の外箱]  作者: 北乃ゆうひ


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第42順


「ルツーラ。待ってました」

「いつも笑顔の歓迎ありがとうございます」


 本当にニコニコと出迎えてくれますからね、ゲイルは。

 それだけで、なんだか嬉しくなってしまいます。


「ゲイル。こちら、あまり有名になりたくないと店名を秘しているお店の焼き菓子です」

「それはまた刺激的なお店のようだ。大丈夫なんですか?」

「ティノやモカ様の御用達ですからきっと大丈夫です」

「なるほど。そのお二人が利用しているのであれば、大丈夫そうですね」


 手土産に持ってきたものは、モカ様が教えてくれたあの裏路地のお店の菓子折。

 事前に予約しておくと、焼き菓子の詰め合わせを作ってくれるという話なので、利用してみたものです。


「それと、ラウロリッティ様はご在宅ですか?」

「今日、姉上は出てますけど……どうかしました?」

「個人的にお土産を持ってきましたので。職業柄、こういうお土産は大好きでしょうから」


 ゲイルの姉であるラウロリッティ様は表向きは騎士ということになっていますからね。

 だから、そういう女性が好むお菓子のお土産――と捉えることのできる言い回しです。


「そうですか。それは是非とも姉上に渡さなければ」


 そういってゲイルがチラりと視線を向ける相手は、老獪(ろうかい)そうな初老の従者です。

 彼は小さくうなずくと、「ラウロリッティお嬢様もお喜びになるでしょう」とこちらを安心させるような笑みを浮かべながら受け取ってくれました。


 もちろんお菓子は本物ですが、本命は菓子折の中に仕込んだメモです。

 ラウロリッティ様の本業は諜報員だそうですからね。情報というのは大好物のはず。


 ゲイルも、そして初老の従者もそれを理解した上でのやりとりです。


「エントランスで立ち話というのも疲れてしまうからね。サロンへ行こうか」

「はい」


 差し出された手を取り、サロンへとエスコートして貰います。

 周囲が身内だけとはいえ、殿方と腕を組んであるくというのは、やっぱりまだ馴れないといいますか、気恥ずかしいですね。


「……姉上へのお土産の中身、聞いて平気な刺激?」


 私の耳元で、ゲイルが小さな声で訊ねてきます。

 純粋な好奇心からの行動かもしれませんが、その――こしょこしょとしたお声で耳元で囁かれると、変に心臓が跳ねるといいますか、なんといいますか……。


 と、とりあえず冷静に。冷静に。平静に。


「お父様が過激派仲間から何かの計画に誘われたそうですから」

「……政治的にはダンディオッサ侯爵も完全に手綱を放棄したと取れる行動を取っているというのに正気とは思えない」


 あれ以来、変にゲイルを意識するようになってしまっているから、腕を組むだけでも落ち着かないのに――

 密談に必要な小声とはいえ、こうやって耳元で声を聞き続けないといけないのは、もっと落ち着かないと言いますか――


「…………私もそう思いましたので、完全に乗っかる返事はせずにのらりくらりしながら引き出せる情報を引き出して欲しいとお父様に頼んだのです」

「リムバルド殿は上手く出来たのですか?」

「………………ええ。不安になるのも分かりますが、お父様とて伯爵家の当主。多少の腹芸くらいはできますから」


 いやまぁ、お父様に対してそういう不安を感じてしまうのは理解できるので、何とも言えませんが。

 でも、ゲイルやダンディオッサ侯爵にお叱りを受けたあの夜会以降、お父様も少しは変わったように思えます。


 身内贔屓ではないかと言われれば、そうかもしれませんけど。


「一家破滅の回避。順調そうで何よりです」

「そうですね。ゲイルやティノといった皆様の協力おかげです」


 それは本当に思います。

 きっと、一人では達成できなかったことでしょうから。


「確かに協力者の手もあっただろうけど、やっぱり君自身が奮闘した結果に他ならないと思う」

「……そう言われると、とても救われますわ」


 ところで、密談の内容はもう終わったのだし、耳元で小声で囁く必要もない気がするのですけれど……。


「話は変わるのだけれど」

「…………はい?」


 くすぐったくて落ち着かないのでそろそろ普通にお話したいところなのですど……。

 いえ、嫌か嫌でないかと言われれば嫌ではないのですが。


「耳元で声を掛けるたびにくすぐったそうにする君の姿に良い刺激を感じるので、もう少し続けていい?」

「……………なるほど。途中から私をからかっておいででしたか」


 言葉の後半、少し大きめな声を出して、敢えてゲイルから身体を離します。


「あ」


 何やら名残惜しそうな声をあげられてもダメです。

 ……まあ、私もちょっと名残惜しいですが、それはそれとしておきましょう。


「どなたか、サロンまで案内して頂けますか」

「は~い。わたしがご案内しますよ~」


 パシャマール家に勤めるノリの軽い女性が手を挙げて前に出てきます。


「では、よろしくお願いします」

「なんでしたら、エスコートも致しますよ~?」

 その女性は口元に手を当て、とてもイジワルそうな楽しそうな笑みを浮かべています。

 ついでにその目は、やられっぱなしも癪でしょう? やり返さないと――と、雄弁に語っているようでした。


 ならば答えは一つ。


「ふふ。ではお願いしようかしら」

「は~い。お願いされました。実は殿方のフリしてあちこち繰り出すのが趣味でして。ちゃんと出来ますからご安心ください」

「では、お手並み拝見とさせて頂きますわ」


 二人で敢えてゲイルに見せつけるように、腕を組みます。

 あら、本当にこの方は殿方役としてエスコートするのがお上手ですわね。


「あ、ああ……」


 何やら悲しげな声が聞こえてきますが、そこは敢えて無視といきましょう。


「ゲイル様が不甲斐ないなら、私とラウロリッティ様でルツーラ様を頂いてしまいますからね~。少しは反省してくださ~い」

「……もしかして、本来はラウロリッティ様付きですか?」

「はい。あの人は仕事柄あまり従者を連れていけませんからね。主人が不在の時は手が空きますから、こうやってお客様の担当をさせて頂いております」


 そう言うと、彼女は私の身体を引いてより密着させてから、チラリと背後を見て、意地悪そうに笑います。

 私もそれを真似して、背後を見てから笑います。


「あ、あ、あー……」


 本当にショックそうなのはちょっと申し訳なさはありますが――


「安心してくださいルツーラ様。ゲイル様は調子に乗りすぎるところがありますので、適度なところで何度か痛い目に遭わせておかないと、あとあと余計面倒になりますので」

「なるほど。それがゲイルの取り扱いというコトですね」

「はい!」


 これは覚えておく必要のある話かも知れませんね。


「少し調子に乗られすぎましたな、坊ちゃん。ああなった女性は手強いですぞ。あとで誠心誠意謝るのがよろしいでしょう」

「そうだね。そうする……」


 初老の従者の慰めに、ゲイルは気落ちしながらうなずいています。

 まぁやり過ぎない程度に、謝罪されたらふつうに受け入れるつもりではいますけどね。


「それはそうとさ、ヴァル」

「どうされましたか、坊ちゃん?」


 にへらと締まりのない顔で、ゲイルは笑いました。


「ふふ。さっきラルダと一緒にこちらに向けてきたルツーラの意地悪そうな顔……とても刺激的で素敵だったと思わない?」


 ゲイルのその言葉に初老の従者ヴァルも、私をエスコートするラルダも、何なら私も――思わず処置なしとばかりに天を仰ぐのでした。



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