↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/9

1

 俺の言葉で、時折お前が切ない表情をすることに、気付かずにいられるはずがなかった。

 気付いているに決まっているから、気付かないふりをすることが必要なのだろうと思わされる。


 お前の知っている、本物の俺ならどのような言葉を選んだのだろう。どのような行動を取ったのだろう。

 自分のことであったものが、自分でないというのは思ったよりも苦しいことで、過ごすうちに苦しくなって来る。

 献身的で優しく甘やかしてくれることが、苦しみを自分への憎さへと変える。


 何もわからなくなっても、好きだって言えるくらい好きな人なんだ。

 男であるとわかっている上であるのに、好きだと言えるくらい、好きだと叫びたくなるくらい好きな人なんだ。

 今の俺も以前の俺も、これだけは共通事項だと思う。


 それだけ好きな人なのだから、切ない表情なんて見たいはずがない。

 お前の悩みの種が俺なのだと思うと、死にたくなるほど嫌だった。

「このままだと狂ってしまう」

 逃げ出してしまうのが、お互いのためだとも思うのに、俺は欲深いものだ。



 一緒にいたいって欲望に、一緒にいてくれる優しさに、甘えてしまっているのだ……。





 当たり前のものを失うことの辛さを、何よりも大切なものが遠ざかってしまうことの辛さを、表現できる言葉なんてあるだろうか。

 私の悲しみは、だれにもわかってもらえない。

 わかってもらいたいとか、慰めてもらいたいとか、そういうわけではないはずなのに、耐えられないくらい胸が痛くなるの。


 君は間違えなく私のところに帰って来てくれた。

 それなら、それでいいじゃないか。満足だ。これ以上、何があるというのだろう。

 怪我一つない君の無事な姿に安心して、喜んだ気持ちは嘘ではないはずだ。

 そう、それこそが私の気持ちなのだ。


 他に私の心はない。

 ただ、君の無事を願い、君の幸せを願う。

 君が私を愛してくれるかなんて、そんなことは二の次だ。


 それだけ好きな人なのだから、純粋にそう思えるはずだろう。

 私のために君が頭を悩ませていると思うと、死にたくなるくらい嫌だった。

「このままだと狂ってしまう」

 逃げ出してしまうのも、また一つの選択肢だと思うのに、私は欲深いものだね。



 一緒にいたいって欲望に、一緒にいてくれる優しさに、甘えてしまっているのだ……。





 片想いなのは、過去も現在も未来も、いつだって変わらないことだ。

 あなたの視界の片隅にすら、僕が映っていないことくらいはずっとわかっていたことなのだ。

 けれど今回のことは、それにしたってひどい。


 へたれの僕が、臆病者の僕が、勇気を出して愛を伝えたのだ。

 結局、何も伝わりはしなかった愛を、言葉にして伝えたのだ。

 それなのにやはりあなたは僕を見てなどくれなかった。


 あなたからの一途な愛を受けられるあいつは、羨ましくて仕方がない。

 どのような不幸を抱えていたとしても、隣にあなたがいてくれるのなら、あなたの愛がこちらを向いてくれるというのなら、僕はいくらだって耐えられるだろう。

 もしもあなたの支えがあったなら、なんだってできるだろう。


 どれだけ傷付けられたとしても、その先にあなたの励ましがあるとしたら、何も苦しくはない。

 それを否定することにより、当のあなたによって僕の傷は抉られたものだから、よりえげつなく思えただけのことだ。


 あなたが好きだ。あなたのことを愛してる。

 ストレートな言葉で伝わらないのなら、どう伝えたら届くというのだろう。

 好きなのに、こんなに好きなのに!

 今ならばあいつよりも僕の方があなたのことを愛している。絶対にそうだ。


 荒ぶる気持ちを抑え込んで、僕はあなたが幸せになる道をサポートする。

 あなたが望む道は僕が避けたい道だけれど、僕よりもあなたを優先しなければならないし、そうあるべきだと思うから僕はあなたのために捧ぐ。

 いくら辛くたって、身を削って笑い掛けた。


 それだけ好きな人なのだから、愛し合いたい気持ちだって隠しきれるはずがないだろう。

 僕のためにあなたが少しでも悩んでくれたなら、この僕の悶々とする想いを汲んでくれたなら、僕のこういう自分勝手なところが、死にたくなるほどに嫌だった。

「このままだと狂ってしまう」

 逃げ出してしまえば、楽になれるとわかっているのに、僕は欲深いものだ。



 一緒にいたいって欲望に、一緒にいられる喜びに、甘えてしまっているのだ……。






















 遠い。あまりに遠い愛を、知っているはずであるというのに。

 遠い。今更になって気が付くというのか。


 それぞれの愛は、こうも遠くへと消えてしまっている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。