情報源の価値
ユリアに肩を組まれ引きずられながらヘロヘロの俺の姿を見たすれ違う使用人達は一体何を思うだろう。
頼りないとか男らしくないとか将来に不安を覚えるとか。
…今に始まったことじゃないから別に構わないか。
「しっかりしてください、同志ジルイド」
「同志ユリア、置いてかないでくれ、俺はもうだめだ。ぐぅっ、最後に君に伝えたい大事なことが」
「そんなことしませんよ、もうすぐ同志ジルイドの部屋ですからそこで聞きます」
せっかくの電撃戦から逃れる赤い兵士ごっこをぶち壊さないでほしい。
俺に肩をかしているのにユリアは器用にドアを開け、ベットにそっと横にさせた。
「同志ジルイド、そんなにしわしわになって今にも魂抜けそうになさらないでください。
1,000フィロリーナが手招きして待ってますよ?」
健気に励ましたくなるのは、きっと奴隷身分から解放される糸口を掴んだからだろう。
「じゃあ、なんかいい案ある?」
「いえ、ありませんが…」
「君は俺と同じだ」
「ちょ、諦めないでください!!」
必死なのかそんなにがくがく俺の身体を揺さぶられても都合よくぽんぽん出てくるわけがない。
「うあうあうあうあ。で、ユリアは解放身分と金のどっちが欲しいの?」
「えっ…。私は…。えっと、同志ジルイドにおまかせします」
「いや、その判断は丸投げしちゃだめでしょ」
今後どうしたいとかいう明確なビジョンが、妹の安全以外ないんだろうな。
ただ、迷うというのもわかる。金ならあって困ることは無い。
それに、50フィロリーナというのは、時間がたってから、ユリアが奴隷身分から解放されたくなった時に、自分を買い戻すという選択肢を与える意図なのだろう。
俺やキルロスじっちゃんはともかく、スザンナやファルペのいる環境はある意味安心安全だから、雲行きが怪しくなるまでこの屋敷で奴隷でいようとでも思っているのかもしれない。
「解放されたら何かしたいこととかあるんじゃないの?」
「えっと…私は…いえ、なんでもないです」
もじもじしながら黙っちゃってもこまるんだけど。
とりあえず、ユリアがいなくなる前に、やらなきゃいけないことをやらなくては…。
「同志ユリア、先程の君に伝えたい大事な事なんだが」
「はっ、はいっ!」
そう言うとユリアはしゅたっとベットの上で正座して姿勢を正す。
「君の知っている帝国に関する情報全てを報告書にまとめ、俺にだけ見せてほしい」
「…へえっ?!」
いきなり脈絡に関係ないことを言われて素っ頓狂な声をだす。
「もしかしたら、何か帝国とカゴ教とのつながりがあるかもしれないし、それを示す糸口を見つけられるかもしれない。
そのために一度情報を洗い直してみたいんだ。
だからこれは最優先で可及的速やかに行ってほしい」
思わせぶりで罪作りな嘘である。
単にせっかくの貴重な情報源を失う前に全部アウトプットさせておきたいだけである。
「な、なるほど!さすが同志ジルイド!ではさっそく全力で取り掛かります!」
そう言って全速力で部屋を飛び出したユリアを見送りつつ、そのまま嫌なことから逃れるために昼寝をした。
その日の夕食にも、次の日の朝食にもユリアは姿を見せなかったので、一体どうしたのかとスザンナに聞いてみると、ずっと部屋に閉じこもっているらしい。
「そろそろ昼食なんですけど、今手が離せないので、様子を見に行ってくれませんか?」
要するに、呼んで来いということである。
ユリアの部屋にそろりと入ってみると、デジャブ感に囚われた。
曲がりなりにも女の子の部屋なのに、ファルペの机みたいになってるよ…
女子の部屋っていうだけですこし期待に胸膨らませたのに…
「あ、同志ジルイド、おはようございます!」
「そろそろ昼食できるようなんだけど…もしかして、徹夜明けでもしたのかな?」
「はい!最優先の仕事ですが、すぐに終わりそうにないので!」
目元にクマつくりながら明るく答えるユリアからは徹夜明けの変なハイテンションに
なってて、なんだかあやうさを感じる。
「…昨日の昼食から何か食べた?」
「はいっ!台所で残り物の肉をパンではさんで食べてました!」
ううっ…なんか真夜中に冷蔵庫なんかないかなって言ってハムをつまみ食いしている姿を思わず想像してしまった。
どうやら無自覚にやりがい搾取してしまったらしい。
何も言わないと、このまま2徹3徹しそうな勢いだな。
この世界に労働法なんてないし、正直、そもそも奴隷なんだから何時間働かせようと心痛まず財布痛まずでどうでもいいんだけど。
「はやる気持ちはわかるけど、今回の書類仕事は1日7時間までにしなさい。
今日はもう作業やめて、明日から再開するように。徹夜もなしで」
「りょ、了解しましたっ!お心遣い痛み入ります!」
情報取り出す途中で過労死されるのも困るからな。
「じゃあ、昼食に行こうか」
「はいっ!」
昼食後、ことの顛末を聞いたスザンナからやってみたい事があると言われ身構えたら、俺とスザンナとユリアで川の字になって一緒になってお昼寝したいだった。
甘い匂いに満たされながら3人一緒に夜まで惰眠をむさぼった。




