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12-保護下の『異常個体』

12- 保護下の『異常個体』


 人間にしか見えない『異常個体』を、この薬屋はどうやって、またこれからどうするつもりなのか、総一郎は身を隠しながら見ていた。


 時折、店員が店主らしき老婆の指示で何らかの薬品を『異常個体』へ注入していく。


 『異常個体』はほぼ反応を示さず、たまに反応をすると店員も老婆も息を吸うのも忘れて、『異常個体』の反応を見守っていた。


 気になるのは『異常個体』で実験や殺処分するために薬品を注入しているのではなく、慈しみを持って行動しているように見られることだ。


 期待を裏切るように反応は長続きせず、『異常個体』は何も語らず、動かずに壁に向かって直立するのみであった。


 何度目かの挑戦の後、大きな溜息一つついて店員は『治療』を辞め、冷めた茶を飲みながら老婆と会話している。


 2人の会話を聞いていると、その『異常個体』は老婆の娘で店員の恋人であり、冒険者として『異常個体』の討伐に向かった際に、咬まれて重傷を負って帰ってきたらしい。


 本来なら咬まれた娘はグールやゾンビと化し、食欲のままに辺りの者を食い散らかすのだが、何の因果か『異常個体』となった娘は大人しく、老婆や店員を襲う事はなかった。


 公にすれば娘は処分されるので、こうやって治療方法を模索しているらしいが、結果はご覧の通り。


「もったいない。折角の『異常個体』、俺が有効利用してやろうか。」


 一撃で首を掻っ切るべく、踏み込んだときに案を思いついた。


 汎用スキルで『テイム』というものがある。


 動物や弱小な魔物を使役するためのスキルで、旅の供として需要を満たす魔物を売ることを生業とする『テイマー』なる職業さえある。


 さすがに『異常個体』をテイムすることはできないだろうが、もしかしたらそれを可能にする上位のスキルがユニークスキルとして存在しているかもしれない。


 そしてその所持者として可能性が高いのは、顔も知れぬクラスメイトだ。


「情報を集めてからでも遅くはないか…。」


 ナイフを鞘に収め、総一郎は陰から陰へ消えていった。




 その後はいつもの酒場や冒険者ギルドにて夢見る『新米テイマー』を装い、冒険者や先立ちから情報を集める。勿論目的は『異常個体』のテイム方法についてだ。


 ほとんどの者が失笑や真面目な顔で「馬鹿な考えは捨てろ」と諫めてくるばかりで、情報が集まる事はなかった。


 並行して王城内部の勇者たちの情報も探ってはみたが、さすがに知っている者はなく、また知っていたとしても酒程度で口を開くような者もいなかった。


「勇者の事は勇者に聞くしかないか。」


 情報を集めている最中、今日が吉野と約束した日なのを思い出した。


 クラスメイトの情報、例え緘口令が敷かれてあっても、こちらも元は勇者なのだ。仲良くするための予行練習とでも言っておけば話すだろう。


 カレーと情報、すでにどちらも手に入れた気になった総一郎は足取り軽く、王都の路地へ消えていった。


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