男は骨を手に入れる
お付き合いありがとうございます。
これにて、完結です。
後半の糖度は、夜中の妙なテンションで書けたようなものです…
シェリー…恐ろしい子…!!
始まりは、何気ない一言だったらしい。
酒のツマミを所望されたシェリーが、俺とのあれやこれやを、話していたときのこと。
師匠はポツリと呟いたのだ。
「それって、シェリーじゃなくて、鎖骨が好きなんじゃないの?」
そんな訳ないですよ、と否定したいのに、シェリーは出来なかった。
確かに、ロイグは鎖骨のことばかり心配している。
鎖骨が綺麗なラインにならないから、もっと食べろとか。
鎖骨が元気なくなるから笑え、とか。
なにかと言えば鎖骨を引き合いにだす。
目が合うとすぐ、反らされてしまうのに、鎖骨はうっとりと見つめられる。
シェリーは、おもえばおもうほど、凹んでいく。
ロイグにとって、大事なのは鎖骨なんだろうか。
それとも、私も少しは大事なんだろうか?
そして、師匠はこう言ったのだ。
「そんなに、気になるなら骨になってみればいいだろ?」
師匠は天才だ!
シェリーは其しかない!と師匠に、幻術の指導をお願いした。
薬草を使った、治癒の魔術を得意とするシェリーには、畑違いの幻術はとても難しかった。
嘘をつくことが苦手なシェリーだから、すぐに術がとけてしまうことも多かった。
「知りたいのであろう?あの男の真意を…」
その度に師匠に発破をかけられて、シェリーが漸く幻術をマスターしたのは、逃げるように彼のもとを去ってから、二年後のことだった。
こんなに時間が経ってたら、忘れてるだろう。
さしもの楽観的なシェリーも落ち込んだ時。
「時間かかったけど、これで信憑性が増したな、って師匠が言うから…勇気だして家にいったの…!」
真面目に話すシェリーに、俺はウズウズする手を必死に堪えていた。
今はその時じゃない。
例え、無自覚な「好き好き」攻撃に晒されていても…!今は耐える…しかないのだ!
葛藤する俺を他所に、シェリーの話は続いている。
「そしたら…ロイグ…普通に受け入れてた。骨だけなのに…」
受け入れてた…か?
あ、あれか?!シチューに釣られた時のこと?!
「しかも鎖骨で、すぐ気づいたし…そのあと服借りたときも、鎖骨じーっと見てた…にやけそうになるの堪えてた」
あ、あれは過去のシェリーを思い出してただけだったんだが!!
つか、俺にやけてた?!
気づいてなかったデレポイント晒されるとか、どんな羞恥プレイなの、これ?!
「次の日の朝も、鎖骨見てにやけてるし…」
あ、あれは過去のシェリーを…(以下略)
もう、穴があったら入りたい。
そして、埋めたい。
恥ずかしさに悶える俺の沈黙に、シェリーの瞳からポロって涙が溢れる。
シェリーの泣き顔は綺麗だ。
誰もが不細工に感じる瞬間なのに、目が離せない位綺麗で、神秘的だ。
泣かせたくなんかないのに。
その反面、そのなき顔を独り占めして見つめていたくなる。
思えば、俺は最初からシェリーに恋してたのかもしれない。
くるくると表情を変える、美しいアイスブルーの瞳に。
「でも、私分かったの。ロイグが好きなのは鎖骨じゃなかったんだよね?」
分かったの?!
分かっちゃったの??!
伝える前に伝わってたの?!
まぁあんだけ、デレてたら伝わってる…のも無理ないよねー…
「あの、女の人だったんだよね?ロイグの職場のひとでしょ?見たことあったから覚えてたよ。ナタリーさん。すっごく可愛くて、美人で羨ましかったから…」
あー、そっちにいく?
俺は、かるーく存在すら忘れてたそっちいく?
やっぱり天然。恐ろしいのは天然。
そのあと刺されてる、あれはなんだと思ってるのか?
まさか、俺はそういうプレイまで、やりかねない超ど級の変態として認識されてるの?
「シェリー…あのな…」
意を決して、呼び掛ければ涙に煌めく、ブルーサファイアが俺を見つめる。
あんまり見つめないでくれ。
とっくの昔に幻惑されてんのに、さらに強力になるだろうが。
「とりあえず…目、閉じて」
ここで、素直に目を閉じるのが、シェリーだ。
瞼が閉じたせいで、たまっていた涙がポロリと落ちる。
俺はそれまで、ずっと我慢していたことを行動にうつした。
ペロリと嘗め取ったそれは、ちょっと塩辛い。
でも、それさえも愛おしい。
ビックリしたシェリーが目を開く前に、その手をとって引き寄せる。
0距離に持ち込めば、幻惑の瞳も、魅了の鎖骨も目に入らない。
俺の赤い顔も。
それでも心音は聞こえるだろう。
うるさいほど走り回る、そのおとが。
「俺は…シェリーが好きだ」
囁くように、耳元に呟くのが精一杯の言葉。
それでも、効果は抜群だった。
ぶわっと音さえ聞こえそうな勢いで、
服に隠されてない肌全部が赤く染まる。
「そ、それは…鎖骨の…」
「シェリー…目、開けて」
俺の手の熱で少し萎れてるそれ。
隠し持っていた、ピンクの可愛い女神の涙。
「アネモネの花言葉、知ってる?俺は…シェリーにあうまで分からなかった」
今伝えられるのはこの、熱だけだ。
シェリーにもらった、たくさんの「好き」に、ドキドキしてる心臓。
赤くなって戻らない顔。
きっと、シェリーには分かる。
シェリーだって、おんなじ気持ちのはずだから。
飾ってあったアネモネ。
喜びだけじゃなかった。
シェリーがもういないかもって、暮らす二年は地獄だった。
「終わらせてくれる?俺の…゛恋の苦しみ゛」
だから泣くな。
側にいろよ。
好きっていってくれ。
アネモネに落ちる、キラキラ輝く女神の涙と可愛い触れあうだけのキス。
それが、俺への答えだった。
シェリーの師匠。
あんたは俺の神様だ。
いつか最高級の酒を買ってやろう。
…もちろん経費でな!
もちろん、触れあうだけのキスで満足できなかった俺が、シェリーをどうしたかは…ここでは言えないな。
でも、すっかり骨抜きになってるのがどっちかは…大方の予想通りだ、と言っておこう。
end