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少女は、生まれ故郷に咲き戻る~異世界転移!?と思ったら、郷里でした~  作者: 室伊みゆ


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第十話 紡がれし想い

目を覚ました男と莉愛。

二人の物語が、ここから少しずつ動き始めます。

今回も楽しんでいただけたら、嬉しいです。


ゆっくりと切れ長の瞼が開いていく。


瞳は焦点が合わず、天井を向いたまま何かを探しているようであった。


流れ出る涙を拭きながら、莉愛は男の傍へ近寄った。


「あの......大丈夫ですか?聞こえますか?」


「......。」


どこか朦朧としている主人の様子に、みたらしが不安げな声を鳴らす。


「......ヒヒン......。」


......出血の影響かしら......それとも何か他の......。


目を覚ました安堵感はあるものの、呼び掛けに反応がないことに不安が押し寄せる。


......お薬、飲んで貰った方がいいかもしれない......!



「......みたらし!お薬持ってくるから、ご主人のこと見ててね!何かあったら叫んで!」


「ヒヒン!」




莉愛は急いでキッチンに行き、白百合の薬を煎じる。


「......何度かこの薬を飲んで貰ったけど......お願い......効いて......。」


切実な莉愛の声が、キッチンに消えていく。




客間に戻ると、みたらしが不安げな顔をして主人を見つめていた。


「見ていてくれてありがとう、みたらし。お薬持ってきたわ。」



男は未だに焦点が合わず、エメラルドグリーンの瞳に莉愛の姿は映っていなかった。


「あの、お薬持ってきました。飲みましょう。」


「......。」


反応のない男の身体を起こし、背中にクッションを入れる。


「失礼しますね......。」


お椀に入った薬をスプーンで掬い、男の口元に当てると、僅かに口が開いた。


ーー!


「そう!上手ですよ!少しずつでいいので飲んで下さい!」




すぅ......すぅ......


お椀の薬が半分程になった頃、クッションに身を預けたまま、男は寝息を立てて寝てしまった。


「寝ちゃった......。」



髪の毛とは色が異なる、プラチナシルバーの睫毛が寝息に揺れる。



莉愛とみたらしが目を合わせる。

「ひとまず、寝かせておこうか。」

「ヒヒン。」



みたらしが窓の外で見守る様子を見届けてから、莉愛は扉を少し開けたままにして、客間を出た。



この日、それ以上彼が目を覚ますことはなかった。




翌朝。


莉愛がいつものように客間の様子を見に行くとーー


昨日とは違い、澄んだエメラルドグリーンの瞳が、しっかりと莉愛の姿を捉えていた。



「......君、は......?」


「ーー!目が覚めたんですね!!」


ベッドに駆け寄り、思わず床に座り込んだ。

「よかったぁ......。」



僅かに身を捩る音に顔を上げると、男が身体を起こそうと苦悶の表情を浮かべていた。


「ゔ......。」

「ダメですよ!!まだ動いちゃ!!」


「す、みません......。まだ起き上がるのは、難しいみたい、です、ね......。」


「当たり前です!!......死んじゃうんじゃないかと思ったんですからね!」


急に怒り始めた莉愛の様子に驚きつつも、男は大人しくベッドの住人になることを選んだ。




開け放たれた窓からは、みたらしの上機嫌な尻尾が揺れている。


柔らかな木の香りが部屋に流れてきた。


莉愛の手を借り、背中にクッションを入れて身体を起こした男は、言われるがまま看病を受けていた。


「朝食のパン粥です。食べれるだけでいいので、食べてくださいね。」

「パン、粥......?」


......あれ、もしかしてこっちの世界にはないのかしら!?


「えと......身体が弱っている時に食べる料理です!」


「なるほど。初めて聞く食べ物です。」


......え!?もしかして日本から来ましたって......言わない方がいいのかな......。



「とりあえず!食べてください!はい!あーん!」


「ーーえ!?」


「はい、あーん、です。」


有無を言わさぬ莉愛の様子に、思わず窓の外の愛馬を見やるも、

愛馬は、歯を剥き出しにしてニヤッと笑った後、莉愛からもらった朝食を黙々と食べていた。


「............。」


「食べる気、起きないですか?」


「いえ、そういうわけでは......香りを、楽しんでいました。」


するとその時、外からみたらしのおかわりの声が聞こえてきた。


「ヒヒヒン!!!!」


「みたらし、おかわり?」

「ヒヒン!」


「おかわりあげてきちゃいますね、食べれそうなら食べていてください。」



白銀色の髪が軽やかに揺れ、客間を後にした。


「アッシュ......。私以外から餌を食べるような馬じゃなかったんですがね......。」


男は思わず苦笑した。



窓の外で小気味良いリズムを刻むように、愛馬が野菜を頬張っている。


男は左手でスプーンを掴もうとするも、上手く手が動かせないことに気がついた。


そっと袖を捲ると、傷を中心に腕が青紫色に変色していた。

「ーー!......利き手は......まずいな......。」



「ーー左手、痛むんですか!?」

小さく呟いた男の言葉を、戻ってきた莉愛が拾う。


「ーーあ......いえ、少々ぶつけただけですよ......。」


咄嗟に袖を戻そうとするも、動きの鈍い身体では戻しきれず、莉愛に見つかってしまった。


「ーー大変!!昨日まではなかったのに!あの、痛みますか!?」


「痛みはないですが......大丈夫ですよ、そのうち治るでしょうし。」



左腕を隠そうとするも、莉愛に阻まれてしまう。

「何を言ってるんですか!利き手なんですよね?ちゃんと治しましょう!」


「あ、ええと......はい。ありがとうございます。」


「とりあえず先に、はい、あーんです。」


「ーーえ!?」

「......では、いただきます。」


有無を言わさぬその様子に男は観念して口を開けた。





窓の外ではみたらしが人参の葉を咀嚼しながら、二人の様子を見守っている。

朝食を終えた男の腕を診せて貰いながら、莉愛は腕の対処を考えていた。


「ちなみに、痺れていたりとかは?」


「はい。痛みよりも痺れて感覚が鈍いですね......。」


「少しは動かせるんですものね。」

「ということは皮膚かしら......。」

「傷から来ているのは間違いなさそうだし......。」


「............。」


腕に顔を近づけて一人悩む莉愛を、男はじっと観察していた。


「......あの、原因に心当たりはあませんか?」


ふと顔をあげた莉愛は、自分が男の腕に顔を近づけていたことにハッとした。


「ーー!すいません!気持ち悪いですよね!私ったら......。」


「いえいえ。気に掛けていただいてありがとうございます。」


......私ったら。怪我しているとはいえ、見ず知らずの男性の腕を持ったまま顔を近づけるなんて!


僅かな沈黙が部屋に流れる。


「この痺れの原因、かどうかは分かりませんが......」


「何か思い当たりますか!?」


「ええ。この腕の傷は追っ手から逃げる際に、戦ったときの傷なのです。もしかしたら、そこに毒が仕込まれていた......という可能性はあるかもしれませんね。」


「え......追っ手!?」


「あ、すみません。大丈夫ですよ。奴らはこの森には入って来られないでしょうから。」


「そう、なんですね......。」


「えぇ。安心して大丈夫です。」



......この人、何者なんだろう......なんでこの森は大丈夫なのかしら。


......それにもし毒なら......白百合のお薬飲んで貰った方がいいかしら。



「あの......毒に効くお薬があるんですが、飲んでみませんか?」


「毒に効く薬......ですか?」


「はい。何度か貴方に飲んでいただいてるお薬と同じ植物から作ったお薬です。ただ......私も飲んだことがないのですが......。」


「そうでしたか......。」



開け放たれた窓から、微かな花の香りが部屋に満たされる。


窓から顔を出したみたらしが主人を見つめながら、頷いていた。


「......アッシュも勧めていることですし、そのお薬、いただけますか?」


「――はい!すぐ持ってきますね!」


莉愛がキッチンに駆けていく。


「ヒヒン。」


「......そうだな。」


愛馬の言葉に男は頷いた。




薬を飲んだ翌日の朝だった。


莉愛はいつものように、朝食の準備をしていた。


「昨日の夕食は思ったより食べてたから、今日は私と同じ食事でもいいかな......。」

「そうだ!あの果物使ってみようかしら!」


トマトに似たこの果物は、本の中に『体力回復の効果がある』とメモが書かれていた。


「家主さんのメモなら信用できそうだし。」


これまでこの家にある本の知恵を借り、生活してきた莉愛にとって、未だ見ぬこの家の主はすっかり信用出来る人物になっていた。



食欲をそそる香りが家の中を満たしていく。


「うん!美味しい!」

「チーズがあればもっと美味しいだろうけど、そこはご愛敬ね。」


トマトもどきを使った野菜たっぷりのリゾットは、莉愛の得意料理の一つだ。


「とてもいい香りですね。」


ーー!!


美味しそうな香りにつられたのか、男がキッチンを覗いていた。


「え!?起きて大丈夫なんですか!?」


しかし足元はまだふらついているのか、壁を杖代わりに支えている。

慌てて男を支えるも、身長差で上手く支えられない。


男は少し困ったように笑った。


「すいません、ご迷惑をお掛けしてばかりですね。」


ひとまず一番近いダイニングの椅子に連れて行こうとするも、僅かに足が震えていた。


「まだ寝ていないと!」


「情けない姿をお見せしてしまいましたね。」


ダイニングの椅子に座らせると、

男は申し訳なさそうに、ふっと視線を下げた。


「すみません。とても美味しそうな香りに釣られてしまいまして。」


朝陽が差し込むダイニング

伏し目がちに詫びる男の姿は、妙に絵になっていた。



家の外では、背中に小鳥を乗せたみたらしが莉愛からもらった朝食をがむしゃらに食べている。


「お口に合うか分からないですが、どうぞ!」


「ありがとうございます。」


僅かに微笑んだ男は、左手でスプーンを掴み、リゾットを口に入れた。


「いかがでしょうか......?」

「美味しいですよ。」


笑顔で答えた男の答えに、莉愛はぱっと顔をほころばせた。


満開の花のようなその表情から、男は目を離せなかった。



「あの、ところで、左手はもう大丈夫なんですか!?」


食後に白百合の花弁と乾燥させた森の果物を一緒に煎じたお茶を飲みながら、男と初めて目線を合わせて会話していた。


「ええ。未だ僅かに痺れはありますが、この通り、食器を持つくらいなら出来ます。まだ手綱は握れないでしょうが......。」


男の腕にはまだ僅かに青紫色が残るものの、昨日より明らかに回復していた。


窓の外を見やると、みたらしが気にするなというように尻尾を振っている。



「......こんなにすぐ効くなんて......お薬が効いてよかったです!」


「今更ですが、助けていただいて、本当にありがとうございました。」


男が丁寧に頭を下げる。

家の外から声が聞こえ、窓を見ると、みたらしも頭を下げていた。


「とんでもない!私、昔からお爺ちゃんに言われて育ったんです。」


「『人に手を差し伸べることを戸惑ってはいけない、その想いは強さであり、やがて自らの糧となる。』って。」


「ーーーー!!」



少女から発せられた言葉に、男は目を見開いた。

白銀色の少女は懐かしむように、そして男の目には、強い意志を持った少女のアメジストの瞳が映っていた。



第十話をお読みいただき、ありがとうございます。

莉愛が何気なく口にした言葉に、男は何を思ったのでしょうか。

また次のお話でも、お会いできたら嬉しいです。

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