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プロローグ~害獣用の箱罠に掛かったまおう~

タイトル


ねこの世界征服




※注意


この物語は、ねこ達が現実世界でも実現可能な

ある「方法」により世界を征服するお話です。


安易に真似をすると、本当に世界を征服できてしまい大変危険です。

ご使用の際は自己責任で、必ずねこ指導の元おこなってください。


それでは


ねこに世界を征服されても構わない方のみ、この先へお進みください。

きっと貴方を踏み付け……癒してくれる事でしょう。




――――――




2221年


…とある限界集落(10年以内にまず間違いなく滅ぶ集落)は

自称ねこを名乗る少年によって、奇怪な場所へと変貌していた。


山から響く、木を叩く音。

そこには

熊がいた。


野では、牛や馬が駆け回り


ねこが、寝転んでいた。




プロローグ~害獣用の箱罠に掛かったまおう~




――3ヵ月前



山肌一面に広がる、太陽光発電の残骸。

その麓で、村人達が立ちすくんでいた。


そこに、ひとりの男が血相を変えて駆け降りてくる。


「た、大変だぁぁぁ!」


だが、村人達は誰ひとりとして振り向かない。


駆け降りてきた男が、息を切らしながら白髪の男に尋ねた。


「村長、どうしたんじゃ?」


村長はのそのそと腰を上げ、畑を顎で示す。


「見てみぃ。また、やられた」


そこに広がっているのは、踏み荒らされた土。

昨日、みなで苦労して植えたとうもろこしの苗は

一本残らず消えていた。


「こりゃ、ひでぇなぁ」


老婆が、からりと笑う。


「鹿も、さぞ旨かったろうねぇ」


「ほじゃけど、モロコシになってから食べれば、もっと旨いのにのぉ」


「それだけぇ、食えるもんがないんじゃろなぁ」


「……ほうじゃのぉ」


村人達は、ゆっくりと山肌を見上げた。


割れたパネルと錆びた支柱が、朝日に照らされ、鈍く光っている。


駆け降りてきた男は、たまらず声を張り上げた。


「そ、そんなことより大変なんだべ!」


村長が、ようやく顔を向ける。


「今度は何じゃ。また鹿か?」


「違う!」


「猪か?」


「違う!」


「まさか、熊か?」


男は頭を強く振り、山の方を指す。


「たぶん……もっと面倒くさい!」


村長達は顔を見合わせた。


「熊よりか」


「熊よりじゃ!」


「ほいなら、えらいことじゃのぉ」


村人達は鍬や鎌を手に、ぞろぞろと山際へ向かって行った。



近づくにつれて、幼い声が聞こえてくる。


「ダメだよ~、これはね、ぼくのじゃないんだよ~?」


「きゅぅ~~」


「えー、そんなにお腹ぺっこなの!?」


村長は足を止めた。


「……なんじゃ、誰と、話しとるんじゃ?」

「さ、さぁ……」


「信じられんかもしれんが、見れば解かる!」


栗林の先

箱罠の中、そこには


少年がいた。


7、8歳程度

黒いパーカーに、ねこみみフード。

そこからはみ出す、柔らかそうな黒いクセっ毛。

金色の瞳。

首には、大きな月と黒猫のネックレスが光っている。


「じゃ、これ! みんなで食べよう♪」


嬉しそうに、檻の中の芋を差し出す少年。


その先には、数頭の鹿と猪と、しま模様のウリ坊たち。


まず鹿が上品に口を寄せ

それを見た猪もかぶりついた。


ウリ坊たちも、我慢できなくなったように突撃する。


ぷぎっ

ぷぎゅっ

ふごふごふごっ


小さな鼻先が芋に群がり、短い尻尾がぴこぴこと揺れる。


「美味しいね~♪」


少年も頬をハムスターのように膨らませている。


村長が、恐る恐る声をかけた。


「お主、一体、何をしとるんじゃ……?」


少年はくるりと振り向くと

金色の瞳を、ぱあっと輝かせた。


「世界征服!」


誰もが黙る中

村長の口が開いた。


「……罠にかかって?」


「うん!」


「出られないのに?」


「うん!」


「せかい、せいふく?」


「うん!」


村長は長く息を吐いた。


「順番が、だいぶ違うのぉ」


村人達から、笑い声が漏れる。


「……お前さん、一体、何者じゃ」


少年は芋を呑み込んだ。


「ぼくはヨル! まおうなんだよ!」


「魔王?」


「うん! それでね、ぼくね、世界を征服したいんだ!」


「それは、さっきも聞いた」


「うん! だからね、この村を拠点にして、人間さんたちをみ~んなここに集めるの!そしたら世界を征服したってことになるでしょ?

つまり、この村を征服すれば、世界征服したことになるんだよ!

すごいでしょ♪ だから、ね?お願い、ここから出して、で、協力して」


村長は天を仰いだ。


「それは……壮大じゃのぉ」


「えへへ~でしょ~?」


村長は深く息を吐いてヨルを見た。


「まるで、無計画じゃな」


ヨルは、きょとんと首をかしげた。


「そうかな?」


「征服しに来て、捕まって、助けてほしくて、協力もしてほしいんじゃろ?」


「うん!」


村長は隣の者に小声で言った。


「……開けん方がええかの」


ヨルは鉄格子を掴んだ。


「ええ~~! 開けてよぉぉ!」


ガシガシと揺らし始める。

案内をした男が言った。


「さっきも言ったろ?そんなバカなこと出来っこねえだ」


ヨルは罠の中でころんと横になり、甘えた声を出した、


「ね、お願い、出してぇ。

ぼく、どうしても世界征服しないといけないの

ね、いいでしょ? ぼく、がんばるからぁ」


格子の隙間から手をねこの手にして伸ばす。


村人達は黙った。

鹿達も黙った。

ヨルは構わず、罠の中で逆さになる。


「ねぇぇ、お願いぃぃ。ぼく、とってもすごいまおうなんだよ?」


村長は額を押さえた。


「魔王というか、ねこみたいじゃのぉ」


「えー!? どうしてわかったの!?」


「ねこなんか」


「うん!」


「少年じゃろ」


「うん!」


「魔王じゃろ」


「うん!」


「ねこでもあるんか」


「うん!」


村長は、深くうなずいた。


「なるほど。何ひとつ解らん」

「な、面倒くさいだろう?」


隣の男が自慢気に胸を張る。


やがて、老婆が笑った。


「まあ、ええんじゃないかねぇ」


「ええんか?」


「こんなおもしれぇ子、あたしゃ初めてだよ」


そこで、誰かが小さく笑った。


「頭は悪そうじゃがのぉ」

「ほうじゃのぉ」

「まあ、ねこなんじゃ仕方あるまい」


つられるように、みなが笑いだす。


「この村で、子供の声を聞いたのは何年ぶりだったかの」


村長は箱罠の前にしゃがみ、ヨルをじっと見た。


「ワシ等はの、みなもぉいつ死んでもおかしぃない身じゃ。協力いうても大したことは出来んぞ。それでもええんか?」


ヨルは逆さまのまま目を輝かせた。


「ぼくがみんなを笑顔にするよ!そしたらね、きっと長生き出来るんだよ♪」


しんと、静まり返る村人達。


長生き。


その言葉を、いつから呪いのように聞くようになったのだろう。


生きても仕方がない。

村は終わる。

畑も山も、もう戻らない。


そんなことばかり考えていた。


けれど


長生きすれば、笑える。

笑えば、もっと生きられる。


そんな当たり前のことを、さも当たり前のように差し出されたのだ。


「……まいったのぉ」


村長は、皺だらけの手で目元をこする。


「わしら、まだ笑ってええんか」


「当たり前だよ!」


胸を張って、さつまいもにかじりつくヨル。


皺だらけの頬が、ひとつ。

またひとつと、緩んでいく。


老婆が、一番高い山に手を合わせた。


「これも、月神様のお導きかもしれんのぉ」


その頂上には、朽ち果てた社。


「……月神様は」


村長が、ゆっくりと膝を折る。


「ほんに、妙な者をお寄こしになさったの」


「えー!?ぼく、全然妙なんかじゃないよ!?」


リスのように頬をパンパンにさせ

ぶんぶんと腕を振り回すヨル。


笑い声が、やまびことなった。


その声は山を越え、谷を渡り、朽ちた社の奥へと吸い込まれていく。




…こうして世界征服は、害獣用の箱罠の中から始まる。


しかし


この里への移住者はほとんど現れなかった。


条件が



イカれていたのだ。





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