エピローグ
嵐が、ようやく去った。
「あいつ、本当に何なんだよ」
環左衛門はカウンターの奥で、水を一気に飲み干した。
祖父の残した「異性に触るべからず」の家訓。これほど身に沁みた日はない。
恋愛とは勝負だ。
あいつはそう思っていたんだろう。
勝つか、負けるか。
だが俺は最初から、負ける気しかなかった。
あの真っ直ぐな目で、
「私の制服を透かしてください!」
なんて。
(できるわけないだろ)
雨に濡れた白い肩がよぎり、慌てて頭を振る。
試合は無敗らしいが、恋愛はデタラメで破壊的で――致命的に無自覚だ。
「ふにゃぅ」
琴音が足元に擦り寄る。
「お前はいいよな、寝てるだけで可愛いって言われて」
凛は自分を琴音以下だと嘆いていたが、それは違う。
琴音を撫でる手は穏やかだが、凛に触れた瞬間、心拍は跳ね上がる。
「閂が壊れた」わけじゃない。
あいつが必死に叩くから、俺が内側から開けてしまっただけだ。
「民生委員に相談すべきか、本気で悩んだよ……」
知識はズレてる。でも、それを信じて突き進む姿は――嫌いじゃない。むしろ。
「家訓、太字で書き直してもらうか」
次に“合同”まで来られたら、神代家の門は持たない。
環左衛門は胸の騒ぎを、証明問題みたいに必死で整理し続けた。
――だが、証明の最後の行には、いつも同じ答えが出る。
条件成立。もう、逃げる気も、逃がす気もない。
(完)隣の環左衛門さんの門を開きたい




