プロローグ
剣道三段・無自覚美少女のポンコツ恋愛。
恋は、事故だ。
しかも、居眠り運転のダンプカーみたいに、ある日いきなり真正面から突っ込んでくる。
例えば。
剣道帰り。
汗だくのジャージ姿でコンビニの塩おにぎりを咥えながら歩いていた私、こと佐倉凛が。
通学路に突然オープンした、意識高そうなオーガニックカフェの前で。
「店内でのナンパ行為はご遠慮ください」
……とか言いながら、チャラ男三人組を無言で退店させてる男に、心臓をぶち抜かれるみたいに。
「…………は?」
思わず足が止まった。
(なんで?)
いや、意味が分からない。
隣の家のメガネお兄さん、神代環左衛門だった。
小さい頃は勉強を教えてもらった。
昨日は回覧板も渡した。
なのに今。
カフェの灯りの中に立つ彼は、なんかもう……。
重心が低い。軸がぶれない。
(……かっこいい)
カフェのガラス越しに一瞬だけ目が合う。
その瞬間、ふっと。
ほんの少しだけ、彼の口元が緩んだ。
「……あ」
――いつもの、環左衛門さんだ。
(待って)
(え、待って)
(これ、もしかして)
恋では?
ドゴォン!!!
脳内に巨大なテロップが出た。
【恋愛イベント発生!!】
心拍数が一気に跳ね上がる。
……ダメだ。
あれは女子が好きになるやつだ。
視界がやたらキラキラする。
(落ち着け、私)
恋愛とは勝負だ。
勝つか、負けるか。
もちろん、私が負けるなどありえない。
問題は。
この男、多分モテるのに、自覚がない。
防御型だ。
生半可な恋愛テクでは、絶対に落ちないだろう。
「なら」
私は竹刀袋を握り直した。
「研究が必要ね」
情報収集は慎重にしなくては。スマホか、友達か――
(いや、違う)
剣道には古流がある。無駄を削ぎ落とした型こそ本質。
ならば恋愛も、古典が最短距離と言える。
幸い駅前には古本屋がある。
その奥に大人の恋愛必勝法のコーナーがあったはず。
この私が、本気で「恋愛」を研究したらどうなるか。
(環左衛門さん。覚悟して)
夕暮れのカフェの外。私は猛然と古本屋へと走り出した。
◇
この時の私は、まだ知らなかった。
本の知識。学校の噂。掛け合わせて練り上げた鉄壁の恋愛兵法が、
「凛、お前……民生委員に相談した方がいいレベルだぞ」
と、環左衛門に本気で心配されるなんて。
ましてやそこまでしても、一匹の猫に敵わないなんて。
この時は知るわけもなかったのだ。
お読みいただきありがとうごさいます。
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勘違い女子中学生凛による恋の爆撃が始まりました。感想、評価など、足あと残していただけると嬉しいです。




