1あ、防刃服
冷たいのは苦手。
冷たいものが身体に食い込む感覚が怖い
刃物が苦手
僕の心を突き刺したから
刃物を通さない物が好きだ。
【防刃服】が好きだ。
二度と冷たい刃物が僕に刺さらない様に
僕はいつも【防刃服】を着ている。
【防刃服】があれば傷つかなくてすむ。
僕は【防刃服】を愛している。
僕には昔、兄がいた。
僕が小学生の頃、大好きだった兄が僕の前からいなくなった。
刃物のせいだった。
(刃物なんて
この世から無くなれば良いのに。)
当然、
僕は刃物が苦手になった。
僕は刺され
兄を失い。
心を病み。
死の狭間で異能力を得た。
兄が僕の前からいなくなり、
僕が高校生になった今も、
それでも僕は刃物が怖い。
僕の体は成長期を迎えた。
身長は170センチを超え
この先更に大きくなるだろう。
それでも……
まだ刃物が怖い。
刃物に異常な恐怖を感じてる。
包丁すら怖いよ。
だから……
高校の教室、
ホームルームでダラダラしてたら
担任の女の教師が
「明日は調理実習です」
高校で教師に、そう言われた。
その時の恐怖がわかるだろうか?
僕のクラスメイトは約40人。
調理実習では、その全員が包丁を装備する
刃物が怖い僕。
調理実習を想像するだけでも恐怖。
僕の全身の毛が逆立つ程。
「なんてこった!」
調理実習なんて刃物が嫌いな僕には、恐怖以外の何物でもない。
まるで明日
『魔界のサバトに参加しなさい』
と言われている気分。
ソレを教師が生徒にむかって言ってると考えて欲しい。
(担任は鬼だ悪魔だ魔女だ。)
本当にそう思った。
そこから学校での記憶が無い。
気がつくと全力で家へ向かってた。
一人暮らしの家に帰る。
部屋のドアを乱暴にあけて入る。
明日の【調理実習】に備える。
クラスメイト達が握る包丁に備えなくてはならない。
彼等が、いつ包丁を持って僕に襲いかかって来ても良い様に……
おかしな考えをしてると実感はある。
クラスメイトが僕を襲うはずは無い。
でも……
僕は小学生の頃に刃物で刺された。
そのトラウマを今でも引きずっている。
だから……
刃物に対して過剰反応してしまう。
まずはタンスの中の【防刃服】コレクションを吟味する。
刃物で刺された僕。
刃物で兄を失った僕にとって【防刃服】達は相棒でありマストだった。
僕は【防刃服】をコレクションしてる。
そして常に【防刃服】を着ていた。
複数あるコレクション。
(明日はどれを着ていこうか?)
「やはり、いつもの様に制服の下に隠れる薄手の防刃服が良いかな?」
「いや、40人が刃物を持つ事を考えると……
安全第一。
制服の上から着る厚手の防刃服のほうが良いのかも知れない」
ぶつぶつ独り言を言いながら悩む。
冷や汗をかきながら悩む。
相手は刃物を持った40人。
何せ僕はクラスメイトと上手くやれて無い
それもコレも刃物で兄を失ったせいだ。
そのせいで僕は精神を少し病んでる。
自覚がある。
だから人間関係を築くのが下手。
刃物恐怖症とやや対人コミュ障のコンボ。
そんなわけで余計に刃物を持った40人のクラスメイトが揃う【調理実習】が怖くて怖くて仕方が無い。
別にクラスメイトから、いじめられてる訳でも、敵意を向けられているわけではない。
が……
過去のトラウマで少々精神を病んでる僕には……
【人は、いつ刃物を持って襲いかかって来るかわからない害獣】
としか思えない。
そんなわけで僕には恋人も友達もいない。
友情や愛情に飢えてはいる。
が、過去のトラウマのせいで人を信じる事が出来無い厄介な生徒。
教師からもマークされてる問題児。
それが僕の学校内での立ち位置だ。
だから……
刃物を使う調理実習のある明日が怖い。
真剣に明日は、どんな装備で登校すればいいのだろうか?
悩む。
【防刃服】
そんな必要無いのも頭ではわかっている。
それでもトラウマが僕の心を刺激する。
(刃物は危険だ!
備えろ。備えろ。)
とトラウマが僕に注意する。
僕が恐怖から、解放されるのは……
【防刃服】を着ている時だけだ。
だから僕は【防刃服】をコレクションする
そんな
複数ある防刃服コレクションから……
防刃ズボン。
防刃シャツ。
防刃ベスト。
防刃コート。
ついでに防刃帽子とゴーグルもつけた。
さらに首から紐のネックレスをさげる。
紐の先についたネックレス。
実は対熊用催涙スプレーのネックレスだ。
念には念をいれる。
鏡でフル装備した自分の姿を確認する。
と……そこに写るのは
肌は全く露出して無い重装備。
鏡に映る姿は立派な不審者だ。
「これでヨシ」
(鏡よ鏡。この世で一番防刃服を愛してるのは、だ〜れだ?)
心の中で問いかけ
「僕だな」
自分で答える。
最近独り言を言う事が増えた。
僕は鏡に映る自分の姿を見て安心する。
防刃服を着た自分の姿。
安心感に身を包まれる幸せ。
家族からは気味悪がられ、
友人を失い、
近所からは不審者扱いされたが……
それでも僕は【防刃服】を愛している。
安心出来るから。
だから今の防刃服フル装備した自分の姿に納得していた。
明日に備え防刃服を着たまま幸せに眠る。
明日は地獄の調理実習だ。
僕は生き残る事が出来るだろうか?
明日はたぶん
僕のおかしな防刃黒歴史が
また1ページ増える。




