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本の旅人、物語を渡り歩く  作者: 三木香
二章:本の旅人、『森のくまさん』の物語を旅する
14/57

14.村の様子

ゆっくり投稿ですがよろしくお願いします。

 おばさんが居なくなってから、私は歩みを止めてセイと話し合うことにした。ちょっと気になったことがあったのだ。


「なぁセイ。くまさんの事、此処では余り話さん方がええかなぁ? 何か嫌われとるみたいじゃけん…」


「そうですね」


「はぁ。くまさんと村の人が仲良くやれたらええのに…」


「そうですね」


「ねぇセイ。さっきからそればっかりじゃない?」


「そうですね」


「え? 何なん? 壊れたん?」


「いいえ。壊れていませんよ」


「そ。じゃあええわ。人が居る所に行こうか」


「はい」


 私はセイとの会話を切り上げて、また道を進み始めた。畑が広がって家がまばらな状態から、村の中心に近づくにつれて家が密集してくる。少しずつ話し声も聞こえだした。


「そんなことないもん! くまさんはこわくない! お母さんのわからずや!」


 そんな大きな声と共に家から人が飛び出してきた。その子は前をしっかり見ていなかったため、私の方に突っ込んできた。


「うわぁっと、急に飛び出したら危ないよ」


 私は咄嗟に受け止めることが出来たが、かなりの衝撃を体に受けた。それは小さな女の子だったが、勢いが付いていたので反動が大きかったのだ。


「ご、ごめんなさい」


 女の子は素直に謝った。


「それで、どうしたの? 大きな声が聞こえたけど」


 女の子はビクッと反応した。私は女の子の目線に合わせてしゃがみこんでもう一度訊ねた。


「お母さんと喧嘩したの?」


「ちがうもん、けんかしてないもん」


「じゃあ、どうしたの?」


「お母さんがきいてくれなかったの。くまさんはやさしかったのに、こわいからもりにいっちゃダメっておこったの」


「そうだったの? くまさんは優しいよね。私は知ってるよ」


「そうなの! くまさんはやさしいの。あのね、わたしね、もりにいったの。でも、まいごになったの。かえれなくて、こわくなってないちゃったの。そしたら、くまさんがきてみちをおしえてくれたの。それからね、こけちゃったらハンカチをまいてくれたの。ね、くまさんこわくないでしょ?」


 女の子はくまさんの話を一生懸命に話した。


「そうだね。くまさんは怖くないね」


「あ、おねえさんだれ?」


 女の子は落ち着いて来ると私の事が気になったのか聞いてきた。


「私は旅人の明っていうの。よろしくね」


「うん。めいおねえちゃん」


「こっちは妖精のセイ」


「セイと申します。よろしくお願いします」


「うわぁ。ようせいさんだ! はじめてみた。すごいすごい」


 女の子の周りをセイがクルッと回って自己紹介すると、女の子は目を輝かせて喜んだ。


「めいおねえちゃんはなにしてるの?」


「ん? ちょっと釣りがしたくてね」


「つり?」


「そう。魚釣り」


「おさかなさん、つれるの?」


「そうだよ。川や海で釣れるよ」


「わたしもやってみたい!」


「そうだね。でも、道具がないんだよ」


「どうぐがないとつれないの?」


「そうだよ。釣り竿やクーラーボックス、釣りの餌、色々必要なんだよ」


「へぇー。そうなんだ」


「村の人で釣りをする人は居ないかな?」


「わたし分かんない」


「そっかぁ。お母さんは知っているかな?」


「え、お母さん?」


 女の子は驚いた顔をして後ろを振り返った。するとそこには玄関からこちらの様子を窺っている母親の姿が見えた。実は少し前からこちらの様子をハラハラしながら見ているのを私は知っていたのだ。自分の娘が知らない人と話をしているのだ。それは気になるだろう。娘が此方に気付いたので、母親は気まずそうにしながらこちらにやって来た。


「お母さん! めいおねえちゃんがね、くまさんはやさしいっていってたの。うそじゃないよ、ほんとだよ」


「そうね。お母さんにも、聞こえたわ。ゴホ」


 母親はしゃがんで女の子に視線を合わせた後、こちらの方に目を向けた。体調が悪いのか咳をしている。


「この度は、ご迷惑をおかけして、すみませんでした」


 そう言って頭を下げた。手で口元を抑えて咳をこらえている様子だ。


「いえいえ」


「この子が、家を飛び出した時、また森に行ったら、どうしようかと、肝が冷えましたよ。この子は時々、無鉄砲なので、心配なんです」


「そうでしたか」


「引き留めて、くださり、ありがとう、ございました」


 母親は咳を抑える為かゆっくり話していて少し聞き取りずらかった。


「いえいえ」


(いや、こっちに突っ込んできただけじゃし)と心の中で呟きながら、私は答えていた。


「もう、森に行っては駄目よ」


「いや! くまさんにあうの! ハンカチかえさなくちゃいけないの」


「我儘言わないの! ゴホゴホ」


 母親は強い声を出したため、咳が止まらない。その間に女の子は母親を振り切って森の方へと駆けて行ってしまった。


「あ、待ちなさい。ゴホゴホ」


「大丈夫ですか?」


 私は女の子と迷ったが、母親に付いていることにした。どうも体調が心配だったのだ。


「すみま、せん。ゴホゴホ」


「ゆっくりで大丈夫ですよ」


「は、い」


 母親はゆっくり呼吸を繰り返して少しずつ落ち着いてきた。




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