12.物語の続きは
私は【ガイドブック】を開いた。
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―――略
「今日は楽しかったなぁ。でも、急に一人になると寂しい…。お散歩に行こうかな」
旅人が去ったのを見届けた後、くまさんがポツリと呟きました。そして、旅人とは違う方向へと歩いていきます。くまさんは人恋しくなり、無意識に人里の方向に歩いていました。ぴくッとくまさんの耳が反応します。
「今、何か聞えたような……」
くまさんはいつもと違う音を拾いました。気になったのでそちらに向かいます。鼻をクンクンさせると、人間の匂いがしました。けれども、旅人の匂いではありません。
「どうしよう。知らない人の匂いだ」
くまさんは立ち止まりました。こちらの方向は村がある方です。くまさんは村人に好かれていないことを知っていました。ぴくッとくまさんの耳がまた反応します。
「泣き声だ! きっと困ってるんだ」
くまさんから迷いが消えました。くまさんは泣き声がする方に急いで向かいます。どんどん泣き声が大きくなりました。
「うわぁーん。 お母さーん。ここどこー」
と子どもの声がはっきりと聞えました。すぐ近くに子どもがいることが分かります。森をガサゴソ言わせて声のする方に飛び出しました。くまさんを見た子どもは、驚いた表情のまま固まってしまいました。6歳くらいの小さな女の子でした。
「どうしたの? 迷子?」
子どもを見つけたくまさんが尋ねます。
「くまさん、話せるの?」
さっきまで泣いていた女の子は驚きの為か泣き止んでいました。
「話せるよ。それで君は迷子かな?」
「うん…。そうなの…。私ね、お母さんのために、もりでキノコとか、とってたら、いつのまにか、しらないところまできちゃったの。かえりみちが、わからなくなったの……」
女の子は思い出したのか、涙目でつっかえながら話し出した。女の子の手には籠がありました。その中には山菜やキノコが少し入っていました。女の子は採取が下手の様です。
「それだけで足りるのかい?」
「ううん。ほんとはね、もっとほしいけど、なかなか、みつけられないの……」
「じゃあ、僕と一緒に探すかい?」
女の子は自分の服の裾をぎゅっと握りました。くまさんは女の子の視線に合わせて顔を低くすると、提案してみました。女の子は首を横に振ります。
「かえりたいの」
女の子はキュッと引き結んだ口からポツリと漏らします。目には涙が貯まっていました。
「村に抜ける道まで僕が送って行ってあげるよ」
「ほんとに!」
女の子は俯いていた顔を上げてくまさんを見上げました。
「僕は嘘を吐かないよ。こっち。ついて来て」
そう言ってくまさんは歩き始めました。後ろから女の子が付いてきます。くまさんは時々後ろを振り返りながら、女の子がちゃんとついて来ているか確認しました。それから、くまさんは女の子に合わせてゆっくり歩きます。女の子の足はとても遅いのです。
「あ、このみちしってる!」
道に出たとき、女の子は急に駆け出しました。
「あ、急に走ると危ないよ! こけちゃうよ」
くまさんはそう言いましたが、女の子は止まりません。案の定、躓いて転んでいました。転んだ拍子に手に持っていた籠からキノコや山菜が零れ落ちて周りに散らばりました。
「うわぁん」
女の子は痛みと悲しみで泣き始めました。くまさんはオロオロしながら散らばったものを拾い集めました。そして、女の子の籠の中に戻します。それから女の子を立たせてあげました。膝が擦り剥けています。
「これを使って」
くまさんはポケットからハンカチを取り出し、膝に巻いてあげました。女の子はびっくりして泣き止みます。
「今度は転ばないように気を付けるんだよ」
「......うん」
くまさんが女の子に優しく言います。女の子は俯きながら小さな声で答えました。そして、女の子は村の方へと道を伝って帰って行きました。
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「長い! なげぇよ! え? 何? どしたん?(※訳:どうしたの) 私がちょっと川に遊びに行っとる間に、何かめっちゃ話が進んどるんじゃけど、どゆこと?(※訳:どういう事) ってか、くまさんと私の出会いらへんは短くまとめられてるのに!」
「そう言う仕様です」
「どういう仕様だよ!」
私が追加された物語に突っ込みを入れていると、セイがボケたので思わずまた突っ込んでしまった。私は咳払いをして、セイに説明を要求した。
「で、ちゃんと説明してくれるんじゃろうな?」(※訳:説明してくれるのでしょう?)
「はい、勿論です。旅人が関わらなくても物語は進みます。旅人が関わっていない部分は【ガイドブック】に詳しい内容が物語として掲載されます。それにより、旅人が物語の全体を知ることが出来るようになっています」
「何で旅人は物語の全体を知ることが出来るん?」
「旅人は物語を語り継ぐのが役目だからです。全体を知らなければ、不完全な物語になってしまいます」
「あー、成程な。じゃあ、これからも私が知らない話は、長くなるってこと?」
「はい。その様になります」
「了解」
私は疑問が解決されると【ガイドブック】を閉じた。
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