終記ノ序章:閉じた円環
暗い夜の帳に閉ざされた漆黒の城。その最上階に座するものを、人はこう呼ぶ、魔王と。
対峙するは、“男装”に身を包んだ剣士。肩の辺りで切り揃えられたその髪からは、絶えず水が滴っている。
人の身であり、それでもなお、たった一人で魔族の領域を踏破した彼女は、人々から勇者と慕われた。
埃にも似た、その匂いにむせ返ってしまいそうなほど。雨は強く、香り立つ。
激しい雨が、大地を打つ音が耳が絶えず鳴り響く。
雷鳴は、幾度となく鳴り響き、ふたりの顔をまるで点滅する光源のごとく照らし出す。
「待っていたぞ、勇者」
万感の思いを全て込めたような声を魔王は勇者に投げかけた。
「探したよ、魔王」
勇者は、それに答える。どこか、懐かしそうな響きを孕む優しい声だった。
「勇者よ、聞いておこう。世界の半分、それをお前の好きにしていい。手を組まないか?」
馬鹿げた提案だった。そもそも、世界の半分は元より魔王のものであり、残り半分は人間のものである。勇者は、人間を守らんとする。ならば、魔王と勇者で世界を二分するそれは、現状維持にほかならない。
だというのにも関わらず、魔王の声には飽くなき憧憬が込められている。
「それはできない、君はあまりに恨まれすぎている」
悲しげな、今にも泣き出しそうな声で勇者は言った。
鳴り響く、雷鳴を皮切りに二人は剣を交えた。