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二人の物語  作者: 水月
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第四話

残酷なシーンがありますので、苦手な方は読まないでください。

 真夜中、ふくろうが啼いている。

しんと静まり返った辺りは闇に包まれて、星だけが瞬いていた。



 セレンはふと目が覚めてしまった。


傍らの温かな体温を感じ、安心してまた目を閉じる。

娘は彼女の胸にしがみつき、すうすうと寝息を立てていた。


生暖かい風が窓の隙間から入り込んでくる。しかし雨の匂いはしないし、星も光っているから、嵐の徴候はないだろう。


 「・・・」


セレンはもう一度目を開けた。

なんだか本格的に、目が覚めてしまったようだ。傍らの時計を見ると、午前二時をさしている。

娘を起こさないように、そっと寝床を抜け出した。


そして木製の棚のそばに近寄って、引き出しを開ける。

その引き出しの奥に、小さな小箱がしまってあった。セレンはそれを取り出し、蓋を開く。


中には細い銀の腕輪が入っていた。

装飾は華美ではないが、一目みればそれなりの代物とわかるものである。

中央には琥珀を埋め込んだ美しい腕輪。娘の父親からもらった物を、まだ大事にとっておいてあるのだ。


セレンはその腕輪をそっと撫で、感傷的な自分に対して自嘲気味に笑った。

約束を違えられても捨てられなかったもの、それはリアンナとこの腕輪だ。


 

 “君との約束の証として、受け取って欲しい。必ず君を・・・”



其処まで考えて、ふと我に返る。

過ぎ去ったものは元には戻らない。期待しない。これからしか考えない。

娘が生まれて、母代わりの老婆が死んだ時に決意したことだ。

そう決意したはずなのに、ふとした瞬間に心が揺らぐ。


女々しい自分を心の中で叱咤しながら、腕輪を元の場所にしまう。

自分も心の奥底では、娘と同じく寂しいのだろうか?娘の父親の約束を、心のよりどころにしていないだろうか?

セレンは、娘の父親を憎んではいなかった。

約束を破ることも、期待してはいけないこともわかっていた。それをわかった上で、彼と愛し合い、リアンナを身ごもり、出産したのだから。


セレンは溜息をついて、ベッドに戻ろうとした。


ふと窓辺によって外を見ると、ふくろうが啼いていないことに気が付く。


この辺りのふくろうは、朝日が昇るまでは低い声で鳴いていることが多い。耳になじんでしまって当たり前になってしまっているが、この時、セレンは啼いてないことに違和感を感じた。

ふくろうが啼かなくなるのは、天敵の気配か嵐の前触れか、なのだ。

しかし、嵐は訪れる気配がない。また、このあたりのふくろうの天敵は人間か魔物くらいである。

とすると・・・


胸騒ぎがしたセレンは、頭にトレードマークのターバンをして、玄関から外に出てみる。

生暖かい風が強くなっており、彼女の夜着の裾をはためかせる。

適当に頭に巻かれたターバンの端が、大きく風になびく。


セレンの家は小高い丘の上に建っており、ある程度村の様子が一望できる。


村の中央には、緊急事態を知らせる鐘がおいてある物見台が建っていた。主に緊急事態といえば、火事などの災害。または最近めっきり減ったが、山賊や魔物の襲来などであろうか。

村の男達が一人ずつ順番に、持ち回りで、その物見台の頂上で見張りをしている。

しかし最近はそのようなこともなく、村は平和そのものである。そのため男達は、気が緩むのか、物見台で酒を飲んだりする事もあった。


夜目のきくセレンは、村を見渡し、なにも起きていないことを確認する。そして最後に、物見台のほうへ視線を移す。


 「・・・?」


物見台の男がいない?


いつもは酒を飲んでいても、設置された椅子にだらしなく座っているのに?


もう一度よく目をこらそうとしたその時・・・。




カ――――――――ン!!


鐘の音が、静かな闇に一つ響きわたる。それと同時に聞こえる、かすかな悲鳴。




セレンはさっと村を見渡すと、入り口から、複数の影が入り込んでいるのを見つけた。

ざっと数えても10はいる。

どこからはいりこんだのだろう?

村の入り口は一つ。山賊・魔物の襲来を考えてのことであろうが、同時に逃げ場も失うことである。

その門は、夜になるとしまるはずなのに、入り口が開け放たれているではないか。みると、門には火が放たれていた。


思わず後ずさりするセレン。

その目に映ったものは、信じがたい光景だった。


その影達は、入り口に近い家の扉を斧のようなもので叩き壊し、中にいて眠っていたであろう住人達を引きずりだしていく。


男は斧で襲われ、断末魔のような叫びを上げ、血しぶきを上げる。

女子供の泣き叫ぶ声が闇夜に木霊している。

幼い子供は猿轡をかまされ、縛り上げられ、それ以外の女達全員、身包みはがされ、影にそれぞれのしかかられて・・・・


影の耳障りなうなり声・下卑た笑い・そしてそれに重なる悲鳴・・・


その間にも次々に家が余すことなく襲われていく。


セレンは震えながら、直感で、ここにも襲い掛かってくることは間違いないことを悟った。

きびすを返し、家に入ると、身支度をさっと整え、寝ぼけ眼の娘をたたき起こし、すばやく着替えさせる。簡単に荷物を整え、老婆の遺品を身につけ、眠そうな娘を背負い、互いの体を紐でくくって両手を空くようにした。


すぐ、この家を出なくては・・・・。


その時、ふと先ほどの引き出しが目に入る。

あの腕輪・・・

今なら捨てられるかもしれない・・・・と、彼女は逡巡した。

しかし、迷っている時間はない、と自分に言い聞かせ、とっさに引き出しに手を伸ばし、小箱を掴む。それをポケットに突っ込んで、裏口から家を出た。



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