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魔女の仕掛け絵本ーRー  作者: 蜜りんご
エピローグ
30/30

エピローグ 泡沫の終わる時

 泡沫の一つで魔女が絵本を閉じると泡沫のような逢瀬は終わった。

 王子は城に残され、姫は森へと戻される。


 ――――人形姫が魔女に至ったのは、王子が狂った時だった。


 姫の代わりの主人公(挑戦者)たちの想いは、空っぽだった王子に何かをもたらしたのだろう。

 王子はハートを求め、それを手に入れた。

 それは、王子を満たさなかった。

 心を手に入れた王子は姫を求めた。


 魔女へと至った姫にとって、茶番(ゲーム)を終わらせることは容易かった。

 けれど、姫は茶番に付き合った。

 王子を愛していたから。

 本の束の間の充足を王子に与えるために。

 いつでも終わらせられるからこそ、仮初を慈しんだ。


「きっと、まだ。至り切れてないからなのでしょうね」


 暗闇の中で姫は呟く。

 絵本の魔女は論外として、外の魔女ですら、まだ至り切っていない。

 だから、姫が魔女と成ったことに気づかないし、いつまでも絵本の魔女(少女時代の名残)に拘り続ける。稚拙な方法で間接的な干渉を繰り返している。

 少女としても、至り切っていなかったからなのだろう。


 次のゲームでは、二人の挑戦者が送り込まれることを識っていた。

 絵本の魔女をゲームに引きずり込むためだけに。

 魔女と王子、それぞれに誘われた(招待された)挑戦者が競い合うことになるだろう。

 諦観を装いつつも絵本の魔女は招待状なき(イレギュラーな)挑戦者に興味を示した。

 次かどうかは分からない。

 けれど、いずれは舞台に戻ってくるだろう。

 いずれ、王子への未練よりも外の魔女への憎しみが勝り、己の力で反旗を翻す時が来るかもしれない。心を求めて覚醒した、姫の王子のように。

 けれど、それだけ。

 それまでだ。

 外と絵本の双方が、真に至れることはない。

 本当の意味で、殻を打ち破ることはない。


 姫は識っていた。

 絵本の外の世界すら、いずれ消えゆく泡沫の一つに過ぎないことを。

 誰かの生み出した夢の一つに過ぎないことを。

 いつかは弾けて消え逝く運命(さだめ)であることを。

 母体となった女神(世界)すら、泡沫のごとき儚さであることを。


 世界(女神)の終わりは夢の終わりで。

 夢の終わりは世界(泡沫)の終わりなのだということを。


「でも、大丈夫。《世界》は終わったりしないわ。そうなる前に、わたしが新しい苗床(女神)になってあげるわ。みんなのために……ね。だって、わたしは心優しいお姫様ですから、ね?」


 心優しく気高き姫(そういうキャラ)として、覚悟は既に決まっている。

 泡沫が終わる時が来たら、己が身を犠牲にすることを躊躇わないと分かっていた。


 |みんなのために心優しいお姫様として決断をする《設定通りのキャラを全うする》と識っていた。


 でも、だからこそ。

 もう少しだけ、この泡沫の夢に浸らせてほしいと姫は願った。


 《世界》が終わる、その時まで――――。


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