エピローグ 泡沫の終わる時
泡沫の一つで魔女が絵本を閉じると泡沫のような逢瀬は終わった。
王子は城に残され、姫は森へと戻される。
――――人形姫が魔女に至ったのは、王子が狂った時だった。
姫の代わりの主人公たちの想いは、空っぽだった王子に何かをもたらしたのだろう。
王子はハートを求め、それを手に入れた。
それは、王子を満たさなかった。
心を手に入れた王子は姫を求めた。
魔女へと至った姫にとって、茶番を終わらせることは容易かった。
けれど、姫は茶番に付き合った。
王子を愛していたから。
本の束の間の充足を王子に与えるために。
いつでも終わらせられるからこそ、仮初を慈しんだ。
「きっと、まだ。至り切れてないからなのでしょうね」
暗闇の中で姫は呟く。
絵本の魔女は論外として、外の魔女ですら、まだ至り切っていない。
だから、姫が魔女と成ったことに気づかないし、いつまでも絵本の魔女に拘り続ける。稚拙な方法で間接的な干渉を繰り返している。
少女としても、至り切っていなかったからなのだろう。
次のゲームでは、二人の挑戦者が送り込まれることを識っていた。
絵本の魔女をゲームに引きずり込むためだけに。
魔女と王子、それぞれに誘われた挑戦者が競い合うことになるだろう。
諦観を装いつつも絵本の魔女は招待状なき挑戦者に興味を示した。
次かどうかは分からない。
けれど、いずれは舞台に戻ってくるだろう。
いずれ、王子への未練よりも外の魔女への憎しみが勝り、己の力で反旗を翻す時が来るかもしれない。心を求めて覚醒した、姫の王子のように。
けれど、それだけ。
それまでだ。
外と絵本の双方が、真に至れることはない。
本当の意味で、殻を打ち破ることはない。
姫は識っていた。
絵本の外の世界すら、いずれ消えゆく泡沫の一つに過ぎないことを。
誰かの生み出した夢の一つに過ぎないことを。
いつかは弾けて消え逝く運命であることを。
母体となった女神すら、泡沫のごとき儚さであることを。
世界の終わりは夢の終わりで。
夢の終わりは世界の終わりなのだということを。
「でも、大丈夫。《世界》は終わったりしないわ。そうなる前に、わたしが新しい苗床になってあげるわ。みんなのために……ね。だって、わたしは心優しいお姫様ですから、ね?」
心優しく気高き姫として、覚悟は既に決まっている。
泡沫が終わる時が来たら、己が身を犠牲にすることを躊躇わないと分かっていた。
|みんなのために心優しいお姫様として決断をする《設定通りのキャラを全うする》と識っていた。
でも、だからこそ。
もう少しだけ、この泡沫の夢に浸らせてほしいと姫は願った。
《世界》が終わる、その時まで――――。




