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4話 伝わる想い


 2層を進み、更に四匹いたチョコレートスティックことリザードマンを駆除。いずれも木の枝で倒してしまい、一定数いた何かの見間違いだろ?勢の息の根も止めた。


 やがて奥にある部屋に到達。2層の東の方の奥にあるエリア。巨大な樹木の幹が迷宮を天井から地面へぶち抜いている感じに存在していて、それを掘り構築された祖父の秘密の部屋である。

 魔除けが施されており、低級の魔物は寄り付かない。

 中は書斎になっており沢山の本棚と敷き詰められた本、机や椅子が置いてある。


 ライブ配信は一時中断。優星にとっての完全なプライベート空間でもあるので、流石にこの場所は勝手に撮れない……そう織姫は考えた。


 ドローンを浮かせ追従させたまま、織姫はカメラ機能をオフにするためスマホに指を触れた――その時、優星の表情に目を奪われる。


「……」


 優星達が秘密基地と呼びよく来ていたのもここ。よく織姫とこっそり訪れ持ち寄ったお菓子を食べたり本を読んだりして二人遊んでいた。


「……ほんと、懐かしいな」


 机の上に出しっぱなしにされた本。優星の祖父はよくこうして一冊だけ置いていた。

 農作業や祠掃除の合間、休憩にここに来て、珈琲をあおりながら数ページ本を捲り、うとうと微睡む。


 その姿が今でも優星にはそこに見える。


 もう居ないなんて思えない程に、まだそこに居るような気がする。


「この書斎、自由に使っていいって、おじいちゃんが言ってたよ」


 机の上の一冊を撫でるように指先で触れた優星に、織姫がつげる。


「……そっか。けど、どうだろうな」


「?」


「次の仕事次第では、またこの町を離れなきゃいけない。ここにも帰ってこられるかどうか。それに、親族間での話し合いで、この土地を売ったらって提案も出てるみたいだし、ここもこのままってわけにいかないかもしれない」


 優星は無職である。生きていくためには金が、生活費が必要だ。働かねばならない。

 この町で運よく仕事がみつかればいいが、もしまた遠く離れた所にいくとなれば、次はもうここに来ることも無いだろう……そう優星は確信していた。


 もう、おじいちゃんも居ないしな。


「……それは、だめだよ……」


 織姫が優星の服の裾を摘む。


「害獣駆除、優星がしてくれないと」


「そういわれてもな……業者いれてくれとしか言えないよ」


「仕事、しなくていんじゃない?」


「え?」


「私が養ってあげる」


「ええっ!?なんで!?」


「……お金がある。働いてるから」


「おお、そうなのか……どんな仕事?」


「は、配信業……的な」


「へえ。すごいな」


「でしょ?だから、お金は心配ない。優星と、私……二人が暮らせるくらい、ある」


「いや、でもそれは織姫が頑張って稼いだお金だろ。自分のことに使った方が良い」


「……自分のことだもん……」


 唇をとがらせる織姫の頭に苦笑しながら手を乗せる。


「気持ちは嬉しいよ。ありがとう」


 実のところ、配信は今日始めたばかりでそれによりどのくらい稼げるのかはわからない。が、織姫に財力があるのは事実だった。

 配信ではなく、別のことで稼いだ貯蓄。

 そのお金で優星を養いたい、二人でずっと一緒に暮らしたい、その為に貯めた貯蓄なのに……と、悔しく思う反面、優星のその真面目なところもまた好きな所なので、どうにも丸め込む返しの言葉が思いつかない。


 じっとりとしたジト目がよりじっとりと湿度を帯び、優星を見据える。


 あれだけ苦しんだのに、まだ働く気なんだ。私を抱きしめて、鼻水つけて、泣き言いって、辛い思いしたのに。人の世に呪われてるね、優星は……まあ、その前に私に憑かれた時点で呪われてるんだけれど。織姫は優星の横顔を舐めるように見入る。


 好き、なのに……狂おしいくらい愛しているのに、なにもできない。どうすれば、何を言葉に変えて想いを伝えれば、優星をここに繋ぎ止めておけるのか、わからない。人ではない、邪神である私には。


 織姫は神だからこそ、自分に欠けてしまっている何かを自覚する。

 これまで人である優星やその祖父と仲良く日々を過ごし、祖父のPCでネットをみて動画を漁り、ネトゲで暇つぶししつつ優星の住む都会へ赴き優星につきまとい、周囲の人間観察もしたけれど、生の概念が欠けている自分と彼らの間には大きな隔たりがあることくらいしかわならなかった。


 だから、優星の気持ちがわからない。生物と神。

 この祠、ダンジョンを司る神、織姫は人を愛し苦悩していた。


「……あれ」


 優星が撫でた本から何かが落ちる。それは白い便箋だった。

 手を伸ばし拾い上げ、二つ折りのそれを優星は開いた。


『優星へ』


 手紙だった。綺麗な達筆の字。それは間違いなく、祖父の筆跡……織姫が隣へきて覗き込む。


『お前なら必ずここへ来るだろうと思い、これを残す』


「……遺言……?」


『いつこの手紙を読んでいるかはわからんが、お帰り。仕事、大変そうだな。電話もできないくらい忙しいらしいな。話は聞いている。まあ、お疲れ』


 フランクな物言いに軽く噴き出す優星。まるで友達のように、もしこの場にいたら肩をぽんぽんされてたんだろうな、なんて妄想する。


『ところで話は変わるが、お前この土地を貰ってくれない?わしの財産全部あげるから死んだ後、管理してくれんか?』


 盛大に噴き出した。急にとんでもねえこと言い出したな、そう一瞬思った優星だったが、ああ、いやそういう人だったなとすぐに思い出し、くくくと小さく笑いが漏れた。


『今の仕事がお前にとって大切なのはわかってる。ずっと夢だったんだもんな。お前、昔からお菓子好きだったし。だから、できらたらでいい。わしの財産があれば働かずとも暫くは暮らせるだろうし、もし今の仕事に疲れて、土地継いでやってもいいかなぁ〜っておもったら頼むわ!』


 軽い……けれど、この感じはと優星は察する。おそらく祖父は自分の状態を知っていたのだろうと。

 連絡もつかず、電話も折り返さない、今思えば忙しいという理由だけでは済まないあの異常な状態を心配して、祖父はこの手紙を残したのだと。


 自分が死んだら必ず来る、そしてこれを見つけるはずだと。


『この祠の害獣駆除も頼む。この土地を守るのはお前にしかできない。下層でとれる鉱石や草花を売れば金になるから、稼ぎたいならそれで稼げ。じいちゃんの取引先の電話番号を載せとく。連絡すれば結構な金額で買い取ってくれるから』


 その一文の下に2件程、名前と電話番号が載っていた。


(そんなことしてたのか、おじいちゃん……)


 やけに羽振りが良かったのはそれで稼いでいたからか、と腑に落ちた優星。そういや昔、鉱石だのを運ぶのを手伝わされたよな……なんて思いながら更に読み進める。


『まあ、とはいえお前の人生だ。好きに生きたらいい。ただ、どんな形であれ幸せにはなってくれよな。これだけは頼むぜ。じいちゃんからのお願いな。じゃ!』


 そこでメッセージは終わっていた。

 ……じゃ!て。どこまでもふざけたおじいちゃんだな、と優星はゆるゆるになった口元を手で隠す。

 織姫がそれをみてつられ微笑む。


「……どーするの、優星」


 涙を拭い優星は祖父の手紙から目をあげる。


「この洞窟、5層に納屋があっただろ」


「うん」


 優星は思い返す。5層は異世界へ繋がっており、洞窟内とは思えない程広く地上のような景色が広がっている。

 高い丘の上に作られた納屋の前に二人用のベンチがあり、そこから広がる山々が見渡せる。


 昼間は青い空が澄み渡り、夕陽は煌々と燃え、夜空は無数の輝きが闇に灯る。

 魔力が満ちたダンジョンだからなのか、地上でみるそれらよりもどこか幻想的で美しい。


「おじいちゃん、よくあそこのベンチでお茶のんでたよな……それで、ここお気に入りだね?って聞いたら」


「……おばあちゃんとの大切な場所だから、って言ってた」


「うん」


 優星は織姫をみる。


「この手紙を読んで思い出したよ。ここは大切な場所なんだって。おじいちゃんにとっても、俺にとっても」


 瞼をふせ優星は思い出す。


「あの星空は……俺も好きだった」


 星空だけじゃない。あの場所だけじゃない。他にも、この地には記憶から溢れてしまう程の大切な思い出が多く残っている。忘れてしまっていても、今思い出したような。

 そしてそれは、手放してしまえばもう二度と戻らない。だから。


「やれるだけやってみるかな。一人でどこまで出来るのかは分からないけど、この土地を俺が守る」


「一人じゃない……よ」


 優星の背に織姫の腕が回る。


「私にとっても大切な場所……だから、一人じゃない……私も手伝う……」


「うん、ありがとう」


 自信はない。けれどそれでも、守りたいものの為に。優星は新たに覚悟を決めた。


「……けど」


「ん?」


「優星は、少しはゆっくりすべき……これまで働きすぎ」


 優星を見上げ、目を細め睨むように牽制する織姫。


「わ、わかった。ただ、厄介なやつが湧いてるからな、あれだけは近い内に駆除しとかないと」


「……チョコレートスティック……」


「そう、チョコレートスティック。この層で倒したのは強さ的に斥候だろうからな。親玉が何層か下にいるはず」


「だね」


 握った木の枝。例え、折れてしまい成長をとめたそれでも、使い道はある。使いようだ。

 俺は、残りの俺の人生を使って、ここを守る。


 ――あまり気負うな。ダメでも大丈夫さ……気楽に、楽しくにやれよ。

 お前、まだわしの半分も生きてねえんだから。


 ふと声が聞こえた気がして辺りを見渡す。けれど、その姿はどこにも無く、織姫に首を傾げられた。


「どうしたの、優星」


「……いや、何も。もう行こうか」


 軽くなった心が重く鈍かった優星の足を部屋の外へと進めた。


 織姫は振り返る。書斎の椅子に座る消えかけの魂に手を振りかえして、よかったね……と小さく微笑み呟いて。




『良い話(T_T)』

『おじいちゃんの大切な場所か』

『ゆっくりしてほしい気もあるが』

『無職のオッサンに泣かされる日が来るとは』

『がんばれ』

『俺応援するわ』

『速報無職ダンジョンの守り人に』

『こういうの弱いんよな』

『おじいちゃんの手紙泣ける』

『つか配信切るって言ってなかったか?』

『切り忘れてて草』

『まあ初配信なんでね』

『放送事故すぐるww』

『いやこれはみられて良かったわ』

『たしかに』

『無職くんに泣けるエピ有り』

『ちょwトレンド入りしててくさ』

『無職くんw』

『あー久しぶりに泣いた』

『つか無職くんかっこよくみえてきた』

『うちもww』

『普通にカッコいいだろ』

『チャット流れ早すぎ』

『おじーちゃあああんーー』

『無職くんとダンジョンいきてえ』

『俺無職くんの力になりてえよ』

『無職くん強すぎてむしろ邪魔だろww』

『あ』

『お』

『ww』

『気づいた笑』

『いえい邪神ちゃんみてるー?』



「……やって……しまった……」



 初のダンジョン配信。初の放送事故。織姫は頭が真っ白になり、眉間にしわをよせる。

 が、まあ大丈夫か……盛り上がってるし、良いや。と素早く切り替えた。


 まさに邪神!!



 ◆◇◆◇◆◇



「……そろそろ出口か。意外と時間かかっちまったな」


 優星は枝を振りながら歩く。その足取りは来た時よりも軽く、足元ばかりみていた視線は前へ向いている。


「あ」


 と、織姫が指をさす。


「どうした?」


 道中の横穴、そこには大きくまるまるとした黒い塊が。なんか獣の香りがする……とは思っていた。優星はそれをみた瞬間、全身の肌が粟立つ。


 黒い塊がもぞもぞと動き、顔をあげた。目と目が合う。


 ヒグマである。ダンジョン、特に1層あたりははねぐらにちょうど良い感じの気温と空間であるため、よく羆などの動物が住み着く。


『おおお熊やんけ』

『すげえでけえ』

『枝つかうのか!?』

『いや魔物素手だぞ』

『ワンパンで倒すか?』

『わくわく』


 リスナーが期待する中、優星は身構える。羆は無防備な睡眠中に不意にあらわれた彼を敵と認定。

 毛を逆立たせ、ゔおおおお!と咆哮し飛びかかった。


「うわああああーーー羆だあああーーー!!」


 優星は逃げた。脱兎のごとく身を翻し、走り出す。


『!?』

『ええええ』

『草』

『魔物じゃないのに!?』

『どうした!?』

『倒せるだろww』

『魔物素手でやれるのに羆にビビるやつw』


 羆に投げつけた木の枝がぺちんと軽く顔にあたりどこかへ消えた。

 優星は織姫をお姫様だっこで抱えながら爆速。

 背を向け走るのはダメだということはわかっていたが、羆の殺気的に襲われると確信し全力で逃げることを選択した。


『枝つかえ』

『それで倒せるだろw』

『違う違うw使い方違うww』

『リザードマン斬り裂いた枝ノーダメージの羆w』

『どうなってんねんw』

『なんで魔物にビビんねえのに羆ダメなんだよw』

『はらいてえ』

『無職くんウケるわ』

『さいこーw』

『弱点ヒグマ』

『邪神ちゃんお姫様だっこ喜んでて草』

『さすが邪神』

『無職くん必死に逃げてるのにw』

『にまにましくさってて』



「た、た、助けてええええーーー!!!殺される、喰われるーーー!!!」


「……ふふ、えへ……っ」



 ――まさに邪神!





 チャンネル登録者10449






 ※ちなみに配信中に映った電話番号や名前は個人情報保護のためAIオート処理で『???』と表記される設定がデフォで有ります。

 他グロテスク、卑猥な部分をオートで隠すモザイク処理機能も。(血液や内臓などを黒塗りにする、身体の該当部分が白くなり見えなくする等)




【重要】

先が気になる、もっと読みたい!と思っていただけたら、ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★評価、をよろしくお願いします。執筆へのモチベが上がります。

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