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22話 いらいら


 優星は頭を下げる。


「この度は、うちの瀬織《せお》津姫《りつき》が御迷惑をおかけして……本当にすみませんでした」


 気持ちを伝えるのが大切だ。長い、長すぎる社会人生活で学んだ事。謝罪は大げさなくらいに、はっきりとした言葉で。

 神妙な態度で暗い顔をして頭を下げるのは、見ようによってはふてくされている様にも取られかねない。

 クレーム対応係でもあり、会社に怒鳴り込んできた人間への謝罪対応も担当していたため、優星はこの手の案件には慣れていた。


 ちらりと隣の織姫にも謝罪を促す。すると渋い顔をしながら、頭を下げる。


「……すみませんでした……」


 すると柊が焦ったように声を上げる。


「頭をあげてください。そこまでしていただかなくても大丈夫ですよ」


 優星は、持っていた菓子折りを差し出す。


「これ、こんなものですみませんが、どうぞ皆さんで」


「そんな……あら」


 柊は差し出された菓子折りを受け取り、微笑む。


「これ、美味しいですよね」


「あ、ご存知ですか?」


「ええ。私も好きで、たまに口にします」


「そうですか、良かった」


 柊は初めて優星と対面した。これまでは画面越しのライブ配信でしか彼をみたことはない。


(……不思議な人……)


 人の懐に入るのが上手い、と言うのだろうか。彼の柔らかな雰囲気は、周りに伝播するかのようだ。

 現に緊張状態にあった、ここにいるナイトガーデンのメンバー5人の空気が緩んでいる。そして、迎えにいった黒井も。


「さ、こんな所で立ち話もなんですから、中へどうぞ」


 柊は優星の纏う魔力が殆ど見えなかった。辛うじて薄く纏うものだけを視認はできたが、その質まではよくわからない。


 なんども配信で彼の活躍する姿と、その強さを目の当たりにしてきた柊。けれど、ここまで魔力が少ないと多少魔力のある普通の人間にみえていた。


 そう、周りからみた今の彼は一般人となんら変わりないレベル。


 柊含めた6人のこの場のシーカーたちには、SどころかFレートの魔物すらも狩れないように見えていた。

 更にいえば、無職くんの存在は配信界隈では有名だが、ギルド界隈ではまだあまり通ってはいない。


 ダンジョンに籠り日夜戦い続けるギルド前線のシーカー達は多忙であるが故にそもそも配信をあまり見ないものが多いのだ。薄っすらと噂は聞いた事がある……といった感じであり、ここにいる柊以外もこの作戦が決定した頃、初めて優星の配信をみたくらいだった。


(……やはり、直接確かめてみるしかないですね)


 清掃の行き届いている真っ白な廊下。自分の姿が反射するくらい磨かれた大理石の様な材質の道を歩いていくと、エレベーターにたどり着いた。

 それを利用して地下へ降りていく。


「あの、瀬織様……」


 名前を呼ばれた織姫が短く一言返事をする。


「なに」


 少しむっとしたような声色に、優星は肘でかるくつつく。こらこら、その態度……、と。

 対して特に気にしてなさそうな柊は言葉を続けた。


「……先によろしいですか」


 先に?なにを?と首をかしげる優星。


「最初から、そのつもりで下に降りてるんでしょ。いんじゃない。軽い運動くらい」


「……ありがとうございます」


 なんの話が進んでるのかもわからず、ただひたすらに愛想笑を顔に貼り付ける優星。この感じ懐かしいな〜などと思いながら、気を遣いまくっていた社畜時代を思い出す。


(……ここは)


 扉の上にあるパネル。エレベーターの階層には『X』の表示が現れていた。最後に見たのは15階、そこから更に時間が経ちやがてここへたどり着いた。

 どれくらい降りてきたのかはわからない。けれど、先ほどまで感じていなかった強い魔力の気配がし始め、かなり深い場所にまできたのだと優星は感じた。


 扉が開き、巨大な闘技場にも似た訓練施設が現れた。周囲を透明なアクリル板のようなものが囲っている。

 これは結界。ここだけじゃなく、外側にも見えないものが数枚、エレベーターを降りてきた途中にも十数枚。

 この時点では目に見えない結界は薄く、人も通れるが、訓練を開始するとその結界が強まり外へ魔力が漏れないようにするシステムである。


「ここは特殊訓練場……例えSレート、いえ、強力な害獣が暴れても、何重にも張った頑強な結界により魔力は外に漏れない。山彦様もここでなら、存分に動けるかと」


「動ける……?あ、害獣駆除指導のことですか」


「はい。これから少し指導していただけませんか」


「これからですか」


「ええ。お疲れですか?」


「……」


 優星は訓練場とその周りに目をやる。くるりと一周見渡し、柊へと目を戻す。


「いえ、大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


 にこり微笑む柊。


「では、お着替えを。訓練用のスーツがあるので、合うものをお選びください」


「ええ、わかりました」


「では、岡森、お二人をお連れして」


「は!」


 岡森と呼ばれる男性が優星と織姫を連れ、奥の部屋へ。後に残った柊と4人のナイトガーデンのメンバー。


「あなた達もそれぞれ配置に。私と組む二人は装備の確認、撮影は外部に漏らさなければ撮っても良いと邪神ちゃん……瀬織様がおっしゃっていたので、記録係はしっかりとってください」


「「「「了解」」」」


 それぞれ動き出す。柊がいる場所の上、闘技場ステージを観戦できるようにぐるりと一周するバルコニー。

 そこにもまたナイトガーデンの上層部の人間が十数人立っていた。


 これはナイトガーデンでも一部の人間しか知らされていない機密作戦。優星と織姫の情報を一切外部に漏らさないことを条件に織姫はこれをのんだ。


 ただひとりその場に残った柊が口を開く。


「桐原」


 名を呼ばれた彼は柊の隣に現れた。ここまで一緒に行動を共にしていたナイトガーデンのメンバーでは無い。

 何処からともなく、音もなく、まるで幽霊のように出現した桐原という男。


 ナイトガーデン専用の黒スーツを着た、スラリとした細身の若い男性。彼は隠密情報収集部隊の隊長であり、透明化の特殊スキルでここまで優星の行動を密かに監視していた。


「さて、空港からここまで、山彦様はどうでしたか?」


「はい。何というか、普通でしたね」


「普通、ですか」


「一見魔力も薄く、一般人と見間違える程です。実際、空港で目視した時は目を疑いました。彼が本当にあの無職くんなのか、人違いでは……と」


「そうですね。邪神ちゃんの配信でも魔力は非常に薄く驚きましたが、実際お会いしてみるとなかなか。死線を何度も越えたシーカーは、独特の圧がある……強者の空気感、微かな魔力の匂いとその肌触り……しかし、本来あるであろうそれらが彼からは全く感じない」


「こう言っては失礼ですが……あれでは、ただの気の抜けた一般人男性かと。隙も多く、やろうと思えば何度も、といった場目が……」


「ですが、報告によると彼の実力を垣間見た事件があったのですよね?」


「あ、はい!いや、驚きましたよ、急に喫茶店とびだして車にしがみついていっちゃうんですから。しかも屋根《ルーフ》の上で脱ぎだすし……」


「ふふ、あは」


「笑い事じゃないですって。騒ぎにならないよう手を回すのに、うちの隊員達がてんやわんやだったんですから」


「そうですね。失礼しました」


「でも、確かに……あの時の彼の戦闘力は凄まじかった。見つからぬよう遠巻きにみていたので、よくはわからなかったんですが、あっという間に相手を気絶させてしまって」


「その事件はうちのウィザードの胡桃が関係し、その場にいたとか。詳しい戦闘の様子は後々彼女に聞いて記録しましょう」


「しかし、ほんとに不思議な光景でした……」


「不思議?」


「ダンジョン外で、相手は十数人。しかも凶器をもっていた……魔力の恩恵の少ない外では、普通胡桃さんの様に強いシーカーですら対処できない。近接タイプじゃないのを差し引いたとしても、魔力を使わなければ例えA級クラスのシーカーだって袋叩きですよ」


「魔力……そうですね。でも、おそらく使ってはいたはず」


「使用していたとしても、私の目からも見えないほどかなり薄い少量の魔力ですよ」


「……では、やはり魔力効率が高いということ。少ない魔力から生み出されるエネルギー変換効率が異常に高い。依然、瀬織様が配信でおっしゃってました」


「けれど、見たことがありません……あんなレベルのは……今でも信じられない」


「では、これから始まる戦いをしっかりみて認識してください。彼の強さと真価を」


 優星達が入っていった部屋とは反対にある戦闘準備室へ向かう柊。その背を見送りつつ、桐原はごくりと喉を鳴らす。


(……久しぶりにみられるのか、氷剣の女王の本気の戦いを)


 5年前、この日本では大きなダンジョンブレイクが起こった。

 Aランクダンジョンから湧き出した大量の魔物。前触れがなく如として起こった事もあり、まともな戦力が集められず危機的状況に。


 数百ものシーカーが斃れ、一般人への被害も秒読だった……


 そこに彼女があらわれた。


 柊椿。当時の彼女はナイトガーデンでもない、ソロシーカー。だが、そのカリスマ性と統率力、実力で独自の遊撃部隊を形成。

 このダンジョンブレイクを予見していた柊は各地にいたメンバーを集結させこのダンジョンブレイクを終結させるに至った。


 前々から首都を拠点としていた3大ギルドにダンジョンブレイクの兆しがあると忠告をしていた柊。まともに取り合ってもらえず、結果戦力を集めるのがギリギリになってしまいシーカーの犠牲が多く出てしまった。


 そうして彼女含め数人がナイトガーデンを作り上げた。


(その創始者であり、最高戦力の1人柊椿……)


 いまや総指揮官となって彼女は戦場へ行くことは滅多になくなった。私も記録映像でしかみたことがない。

 けれど、今日観られる……伝説のシーカーの戦いが。


 そう思っているのは彼だけではない。他の、ここに集まっている人間はほとんどがそうだった。

 あらかじめ柊は全員に優星の配信を観ておくように伝えていた。しかし、多忙を理由に上層部の人間は観ていなかったり、観てもにわかには信じられずフェイク動画の類なのでは?と疑う者が。

 柊の側にいたメンバー達もまた同様のものが数人……ただ日々魔物と実際に対峙している彼らの方が、より上層部の人間以上に、優星の戦いを配信で目の当たりにしても信じることは難しかった。


 あんな動き、できるはずが無い。


 配信でフェイク映像を作るのは無理……だが、我々が命がけでやっと対抗できている魔物を、あんなちっぽけな枝木で倒せるなど、到底信じる事はできない。


 まるで空想のヒーローをみているかのように、現実にそれが存在するなど、経験則や本能で有り得ないと脳が理解を拒む。


 実際に現場で戦っている、シーカーだからこそ……。



 その頃、優星らは。


「……あの、ほんとにそれでいかれるんですか?それ、魔力防御機能とかないですよね?」


 岡森が頬を引くつかせ、優星にきいた。


「あ、はい。これが一番動きやすくていいので……」


 優星が着ていたのは、自分で持ってきた黒のジャージだった。

 なんの変哲もない、ただの。


「けど、死にますよ……さすがに、防具は付けてたほうが。ほら、これとか比較的軽いアーマーで……せめてウィザード用の法衣だけでも!」


 慌てる岡森。それはそうだろう、これから行われるのは指導という建前の優星の戦闘力測定。柊との戦いなのだ。ただのジャージでやりあうなど、自殺行為そのもの。


「お気遣いありがとうございます。しかし、魔力の通ったものってあまり使いたくないので……」


「な、なぜ!?」


「動きにくくなるんです」


「え、ええ……」


 戸惑う岡森の携帯に連絡がはいる。どうやら柊からで、優星側の準備ができたかどうかの確認のようだった。


「――ええ……はい、そうなんです。いや……しかし、怪我でもさせたら…………はい、わかりました」


 青い顔で顔をあげた岡森。


「では、闘技場へいきましょうか」


 いびつな笑みを浮かべ岡森が先導しはじめた。優星は、具合でも悪いんだろうか……と岡森の身を案じつつ部屋をでようとした。


 その時。


「織姫?」


「……あ……うん」


 岡森と同じような表情。暗い顔。

 織姫はナイトガーデンの任務に巻き込まれ、この仰々しい舞台に連れてこられ、事の重大さを理解した。

 自分の失敗で優星を面倒事に巻き込んでしまった……この現状が彼女の心に重々しくのしかかる。


「……迷惑、かけちゃってごめん……」


「え」


「……大変だったお仕事辞めて、せっかくゆっくり過ごせていたのに……なのに、私のせいで……」


 優星は織姫のあたまに手を乗せた。そして、流れにそわせ撫でる。柔らかく、安心させるように。


「らしくないぞ、織姫。お前はもう謝ったんだ。気持ちはちゃんと柊さんたちにも伝わってるさ。だからもう気にすんなよ」


「……優星」


「後は俺の番だ。しっかりご満足いただけるようにやってくるから」


 にっと織姫へ歯を見せ口の端をあげる優星。


「安心しな。お前は、この後どうやって遊ぶかだけ考えとけ」


 ……優星は、いつも光をくれる。


 初めて出会った祠の中。まだ優星が小さな子供の頃。動けず、暗い闇の中に埋もれていた、ただの概念としての私を救い出してくれた……あの時のようだ。


『俺は優星!お前、どこにいるんだ?』


『……わからない。暗くて、あなたの声だけが聞こえる……』


『暗い場所?それこえーじゃん!待ってろ、今探しにいくから!』


『……多分、みつからないからいいよ……お話し、してくれただけで……嬉しかった』


『いーや、みつける!おじいちゃんには奥に行くなっていわれてるけど、友達みつけるためならいいだろ!まあ、怒られると思うけど……』


『……友達……』


『友達、嫌か?』


『……ううん、嫌じゃない!私、友達いなかったから、嬉しい……!』 


『そうなのか!?じゃあ、俺が友達1人目だな!』


『うん、1人目!優星が初めての人間!』


『よーし、それじゃ今から行くからな。安心しな!すぐ見つけてやるから、後どうやって遊ぶか考えとけ!』


『……うんっ』


 人形になれたのは、優星の持つ力のおかげだろう。そうして、織姫は優星に見つけてもらえた。

 顔を合わせた時の優星の満面の笑みは、あたたくて、眩しく、神々しかった。


 ――あの時にくれた光は、今も変わらない。言う言葉も。何もかも……。


「……ふふっ。うん、わかった。考えとく」


 にたりと笑みを浮かべる織姫。それをみて優星は胸をなで下ろす。


「お、やっと笑ったな」


 二人並び歩き出す。揃った足並み。


 部屋を出て淡い照明のみの通路を行く。やがてあらわれた頑丈そうなまるで大きな金庫の扉の様な入り口。

 開かれ、入場。


 中央に正方形の石畳が広がり、強い魔力の気配を感じた。魔石で出来ている。

 石畳の外側にも囲むように魔力を放つ謎の機材。


 それらにより、この空間が魔力濃度がダンジョンの中と同等に溢れていた。


 石畳の中央には3人。


「私はここまでです。あちら、中央へ」


 岡森が3人の元へ行くよう促し、従う優星と織姫。なにやら観客としていたナイトガーデン上層部の人間がざわついていた。いや、場にいた観戦組の隊員達も同じにどよめく。


 不思議に思いつつも、優星は柊に話しかける。


「おお……すごいですね。コスプレ、ですか……こう言うの流行ってるんですね」


「ふふ、はい。まあ、そんなところです」


 柊はくすりと笑い流したが、横の隊員含めナイトガーデンサイドの人間の表情は強張る。まるで挑発のような物言い。バカにされたかと思った一部は優星に対して怒りを覚えた者も。


 ウィザードの黒い戦闘衣。さながら魔法少女もののアニメのコスプレにみえたのだろう。

 その両サイドの鎧の男2人も、優星は何かしらのアニメか漫画かゲームの騎士なのかとも。他意はなく、ましてや挑発の意図は微塵もない。


 しかしながら、害獣駆除にそれらの衣装をきているのを他に見たことが無かったがために発してしまった言葉。


 柊が杖を片手に持ち、空いてる手で右隣の騎士へ差し出した。


「こっちはアレックスと言います」


 褐色の大男。サングラスのようなバイザーつきのヘルムを被る、片手剣と盾を背負ったA級シーカー。

 5年前の首都ダンジョンブレイクにて、柊と共に連携しSレートの魔物を倒したチームの1人。


「そして、こっちが相楽です」


 アレックスと反対の方にいた細身の全身銀鎧の双剣士。フルフェイスの兜を被っていて素性がわからない。アレックスと同じくA級シーカーで、5年前の戦を戦った強者。


「よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げ、優星もそれに応じた。その時アレックスが口を開いた。


「失礼を承知で言わせていただきたい」


「……え?あ、はい」


「本当にその格好、防具も無しで俺たちと戦うのか?それどころか武器も所持していない……流石に舐めすぎでは?」


 ――ピリッ、と緊張感が走る。明確なアレックスからのプレッシャーが優星に届き、びくりと体を震わせた。


「……あ、や、それは……武器とか使うの苦手でして……えーと、は、はは、すみません。気分を害してしまって」


 ぺこぺこ頭を下げる優星。柊がつよい口調でアレックスを制した。


「やめてください、アレックス。舐めているのはあなたの方です。あなたこそ気を引き締めて、しっかり戦わないとこの訓練を無意味なものにしてしまいますよ」


「はっ!」


 敬礼するアレックス、その光景に思わず目を丸めた。小柄な少女である柊が、倍くらいある大男を嗜める。柊がこの組織で高い地位にあるのは優星も理解しているが、こう目の前で明確にみせられると凄いなぁと感心してしまう。


 しかし、アレックスがそう思うのも無理はない。他の観戦している人間たちも口々に同様のことを言っていた。


「ふざけてる」「あの3人とやり合うのに」「数年ぶりのメンバーだぞ……なのに」「これで情けなく終わったら、あのおっさんに一言いってやるぞ俺は」「スケジュール、合わせるの難しかったはずなのに……それなのに手を抜かれて」


 ざわつく外野。その最中、外部結界を全て起動し魔力を完全に遮断。


「これでいくら暴れても大丈夫です。思い切りやっちゃってください」


 この結界はS級シーカーが作り出した特注の装置。各地の高難度ダンジョンに防壁を張って回っている最も強固な結界を作り出す最強の結界師。

 その信頼性は高く、柊もここでなら彼と本気で戦えると、そう思っていた。


 一方優星は、そうは言われたが周囲の妙な雰囲気に戸惑いつつ、ハッとあることに気がついた。

 こそこそと隣にいる織姫に耳打ちをする優星。


「……な、なあ……そういや、これってどういう感じの指導なんだっけ」


 柊に聞けばいいものの、今更この土壇場で聞くのも恥ずかしい。事前確認を怠ってしまった、単純ミス。アレックスの件もあり、いやもっと早めに聞いとけよ、と思われそうな気がした優星は直接きけなかった。


 そして聞かれた織姫はというと、我慢が限界を迎えていた。拠点へついた時から優星に対してデレついてる柊に苛ついていたのだが、しかし、それもこれもここに連れてきてしまったのは自分であり原因なのでずっと我慢していた織姫。

 しかし、アレックスの物言いと態度、相楽も好戦的で挑発的な魔力をずっと差し向けてきていることがストレスとなり、秘められたイライラが我慢の壁を吹きとばす。


「……これは、あの人たちを見ての通り……実戦形式の訓練……」


 柊を指さす織姫。それに気がつき柊がにこり微笑む。それに内心舌打ちをする織姫。

 おまえ、猫かぶってんじゃねーよ!優星によく思われたいからってにこにこ媚びやがってからに……!と、喉元まで出かかって止める。


 そして、ハッと織姫は思いつき優星へ耳打ちをする。


「……いい、優星。実戦形式の訓練は、手を抜いたらダメ……そんなの意味がない。あの人たちの為にならない、わかるよね?」


「え……あ、いや、まあ……それはそうだけど。要は倒せばいいってことか?」


 織姫は、天使の様な満面の笑みを浮かべ、はっきりとこう言った。


「うんっ、思いっっ切り、ぼっこぼこにしていーよ!!特に柊を重点的にね!!(にっこり)」



 故に邪神なのである――!





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