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第145話 コンフリクト

 翌日。格納庫にはクルップ隊の面々が集結していた。


「前回の戦闘の問題点は、」と、タブレットを片手に、ノーラは言った。「ユーリさんが結果的には孤立してしまったことです」


 ノーラは今までの戦い方のデータを端末上に表示した。ユーリを最後方に隊列を組み、それを敵から守るように残りの三機が展開する。だが、これがよくなかったのだと彼女は言う。


「前回の戦闘では、敵一個中隊との交戦となりました。潤沢にリソースを保有する敵に対してこちらは有効な手立てがなかった。そこで本体に合流しようと隊列を変換したところ――その隙につけいられた、ということです。」


 端末上では、ノーラ機を先頭としたクルップ隊が本隊方向に進出した敵に向かって旋回したところで、一瞬ユーリ機の反応が遅れた。その隙間に、敵は一個小隊をねじ込んで分断。本命の一個小隊――サボテン野郎の部隊――がそこに突入して、ユーリはその対応に追われた。


「つまり前回は、連携不足が原因となったと考えられます。今までのやり方、つまりユーリさんを軸として私たちがそれを援護する形では、射程や動きの論理の異なる私たちとユーリさんとの間で、動きがわずかにズレてしまうのです。ですから――」そこでノーラはループ再生されていたアニメーションを停止し、別のアニメーションを開始した。「これからの戦闘では、基本に立ち返り、相互援護を基本とします。ユーリさんにもあえて射程の有利を捨ててもらい、あくまで精度と火力を生かした中・近距離での連続的な火力支援に徹してもらうことになります。いいですか、ユーリさん?」


 返事はない。ノーラはそのときタブレットから視線を上げ、その原因を確かめ――ため息を吐いた。


 何と、ユーリは立ったまま寝ていたのだ。それを、隣にいたマルコが脇を突いて起こした。


「あ……ああ、何です?」


「何です、じゃあないでしょう。聞いていたのですか?」


「聞いてましたよ。要は狙撃をするのは諦めろってことでしょう?」


「そういうことです。状況によっては――例えば追撃戦の場合には――やってもらうこともあるでしょうが、基本的には私たちと同じ戦域で戦ってもらうことになります。ですから――」


「――僕は反対ですがね」


 ユーリはノーラの言葉を遮った。それもぶっきらぼうに、だ。


「ユーリさん……!」


「だって、必要ありませんから、そんな対応。『バレット』には、今まで搭載できなかったミサイルもありますし、推力重量比はノーマルの『ミニットマン』を上回っています。真っ直ぐ逃げれば、敵を容易に振り切れます――単機になっても、マトモに戦えるってことです」


「その『バレット』こそ、この戦法には必要のないものです。運動性はノーマルの『ミニットマン』に大きく劣るのは知っているでしょう? それでは私たちの機動に追従できません。だからまた孤立しても、前みたいに生き残れるかどうか――」


「そもそも、スナイパー機は孤立してなんぼでしょう。自分のことは、自分で何とかしますよ」


「そうできなかったのが、前回だと、覚えていないんですか?」


「前回とは機体が違います。今度は確実に殺してみせますよ。あの『サボテン野郎』を……」


「それが、よくないと言っているのでしょう――⁉」


 ノーラはユーリの胸倉を掴んだ。ユーリは一瞬勢いに押されてグラリと揺れたが、しっかりと踏み止まった。


「アナタは、」ノーラの瞳には、涙が浮かんでいる。「私たちがどれだけアナタを大切に思っているのか、分からないんですか? ジャクソン伍長が死んで辛いのは分かりますけど、だからって自棄になるのは駄目に決まっているでしょう⁉」


「言葉で通じなきゃ泣き落としですか。暑苦しい上に見苦しい」


「暑苦しくても、見苦しくても、苦しがっている人を助けちゃいけない理由があるんですか⁉ アナタは本当は助けてほしいはずです。それを素直に言えないからそうやってひねくれてみせているのでしょう⁉」


「違いますよ。見当違いも甚だしい。僕はただ、効率のいいやり方を提案しているに過ぎません。考えてみれば分かることのはずです。僕の方が正しいとね」


「そんなの、間違った正しさです!」


「それを、人は矛盾と言います」


 そう言うと、ユーリは胸倉を掴んでいるノーラの手を掴んで外側に捻った。咄嗟に、彼女はその反対側に戻そうとするが、それこそがユーリの狙いで、その彼女のもたらした反作用を利用して彼女の手をまた反対側に捻り、背中側に回した。


「――ッ⁉」


「無駄なんです。無意味なんです。無価値なんです。こんな風に突っかかったって、もう僕の方が強い。今の僕なら、アナタたちが束になってかかってきたって、五分とかからずに全滅させられます。それが『サボテン野郎』の中隊相手でも同じです。シミュレーションで試してみます? アナタたちは見ているだけでいい」


「ユーリ、その手を離せ!」


「そうだぜユーリ。いくら何でもやりすぎだし、言い過ぎだ。お前、どうかしているぜ」


 マルコとサンテの言葉に、ユーリは油の切れたロボットのように首を巡らせて反応すると、ふいっとノーラの腕から手を離した。彼女はそのとき押され気味になったので、前につんのめる。


「ユーリさん、アナタは……⁉」


「さあ、やりましょうよ。訓練を。そうしたら嫌でも分かるでしょうよ」


 ジロリ、と見下ろすようなユーリの目線。そんなものを見るために、ノーラは戦ってきたわけではなかった。

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