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【7】おっさん、依頼される


「毒を喰らった奴が出たら、解毒ポーションを作ってくれないか? もちろん、金は払う。いや、これはギルドからの依頼にしても良いな」

「ちょっと待て」


 俺はザックの言葉を止めた。

 いや、何も解毒ポーションを作るのが嫌ってわけじゃない。


「解毒ポーションを作るのは構わんし、もしも足りてないのなら、他のポーションも作ってやる」

「おお! そうか! そいつはありがてぇ!」

「だが、ギルドからの依頼ってのは困る。アイテムショップを開くって言ったろ? 俺は今日、冒険者登録を解除するためにギルドに来たんだ」

「なにッ!? そうだったのか!?」


 ザックはわざとらしく驚いているが、少し考えれば分かる。

 冒険者が納めるべき税金は、依頼達成時や素材の売却時に行われ、ギルド側が自動的に報酬金や売却金から差し引く形になっている。

 そのため、冒険者として活動しなければ納税はしなくて済むが、未活動期間が一定を過ぎると冒険者登録を抹消されてしまう。


 俺の場合はクランでの活動が冒険者活動に相当し、クランから与えられる給与から税金分が差し引かれていた。

 だから今までは問題なかったが、これからはそうではない。


 何より、冒険者で居続けるためには税金以外にも、冒険者ランクによって金額は異なるが、組合費を払わなければならないのだ。


「ふぅ~む……いざって時のためにロイドにはギルドに席を置いてもらってた方が、ギルドとしちゃあ助かるんだがな……。何だったら、組合費は俺の権限で無しにして、席だけ置いておく、って方法も……」

「いや、悪いが」


 商人ギルドと二重でギルドに登録することは可能だが、今さら冒険者をしようとは思わない、という言葉は本心だ。

 自分の中で、かつての憧れに対してケジメをつける意味でも、冒険者登録は解除すると決めていた。


「そうか……残念だぜ……」


 ザックはそう言うが、どうしてもという話ではなかったはずだ。

 そもそも、俺の年齢で現役で冒険者をしている奴なんて、ほとんどいないはずだからな。


「しかし、俺の方も困ったな……」


 登録は解除するとして――だ。

 もう一つの用事は、もしかしたら済ませられないかもしれないな。

 俺は思わずため息を吐いてしまった。

 新たな門出の出足を挫かれてしまった気分だ。


「ん? 何か困り事か?」

「ああ、今日ギルドに来たのは、登録の解除と、ギルドに依頼を出すためだったんだ」

「依頼だって? いったい何の依頼だ?」

「アイテムショップの商品は、全部俺が作るつもりなんだが、そのための素材が手元にあるわけじゃないんだ。一部はどっかの商会や工房から直接仕入れるつもりだったんだが、薬草や魔石、それから魔物素材なんかは冒険者に依頼を出した方が良いだろ? その依頼だ」

「ははぁ~ん、なるほどな」


 特に薬草がほとんど採れない状況だというのが痛い。

 それに魔女の森はカウンティアの冒険者たちの主な活動場所であり、薬草以外の素材も採るのは難しい状態になっているだろう。

 森の「変遷」が落ち着くまでは、おそらくこの状態は続くはずだ。


「確かに、ウチとしてもそれは難しい依頼だな。他ならぬロイドの依頼だから何とかしてやりたい気持ちはあるんだが……」


 難しげに眉間に皺を寄せて、ザックが唸る。

 俺が今依頼を出したところで、それを達成するのは難しいだろうな。


 ――と、二人して考え込んでいると、


「……ん? もしかして、そうすりゃいけるのか……?」


 ザックが何かを思いついたように呟いた。


「なあ、ロイドよ。いや、ロイドさんよ」

「…………なんだよ」


 俺は胡乱な眼差しで問い返す。

 こちらに身を乗り出したザックの態度が、余計に面倒事の予感をひしひしと感じさせた。


「このザック、一生のお願いがある」

「…………」

「上手くいけば、ロイドの依頼もこなすことができて、冒険者ギルド……いや、カウンティアの皆が助かって、死人も減る素晴らしいお願いなんだが……」


 言い方が卑怯だな。微塵もこちらに断らせる気がないぞ、こいつ。

 大人って汚いぜ。


「……言ってみろよ」

「ロイドはDランクなんだよな?」


 俺のギルドカードを見た時に、ランクを確認したのだろう。


「そうだな」

「ってことは、それなりに戦えるんだよな?」

「……そうだな」


 アイテムクリエイターは生産職であり、戦闘に適した職業じゃない。

 だけど、長年冒険者をやっていれば、最低限の戦闘技術くらいは身につくもんだ。

 俺も迷宮探索やギルドの依頼をこなしていた頃は、自分で作ったアイテムを駆使して何とか魔物を倒していた。まあ、魔物といっても弱い相手に限るんだが。


「戦えるってことは、魔女の森のすぐそばに行くくらいなら、何てことはないよな? 森から出てきた魔物相手に自衛したり、危なければ逃げたりするくらいは余裕だよな?」

「……結構強力な個体が、森から出てきて被害があったばかりなんだろ?」


 一応、反論してみるが、すぐにザックは言い返してきた。


「もちろん、ギルドから護衛の手配もするぜ。安心しな」

「そうかい。……んで、具体的に何をして欲しいんだ?」


 もはや観念してそう聞けば、ザックはニヤリと満足げに笑って、こう言った。


「おう。ロイドには魔女の森近くで、アイテムショップを開いて欲しいんだよ」



お読みくださりありがとうございます(o^-^o)

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