【6】おっさん、事情を聞く
「なるほどなぁ……アイテムクリエイターの上位職ってわけか」
ザックの誤解を解いた後、俺は自分のクラスについて説明した。
アイテムマスター。そして新しく覚えたスキルのこと。
毒に侵されていた冒険者たちに与えた解毒ポーションが、30分で消滅してしまうということもきちんと伝えた。
そこを勘違いされると、面倒なことになるからな。
素材無しで作ったアイテムをいざという時のために備蓄しておこう――などと考えられては困る。
「しっかし、初めて会ったぜ。アイテムクリエイターをクラスアップさせた奴には」
「俺も会ったことはないな。それに長い間調べてみたが、俺以外にクラスアップしたという話も、聞いたことはない」
「そりゃあなぁ。ロイドには悪いが、アイテムクリエイターは色々と、アレだからなぁ。他の職人の当たりとかもキツイしよ」
ザックが言うように、アイテムクリエイターは色々と問題の多いクラスだ。
作成物の幅は広いが、どれだけレベルを上げても初級の品以外は作ることができないし、一瞬で作るという特殊な作成手順の影響で、得られる経験値が少なくレベルが上がりにくい。
だが、それ以上に、アイテムクリエイターという天職を授かった者たちが、アイテムクリエイターを「辞めて」しまう理由は、他の生産職からの当たりがキツイからだ。
いくら自分達の「下位互換」と言っても、自分達が一つ一つの手順を踏んで苦労して作る物を、一瞬で作られてしまうのは気分が悪いのだろう。
加えて、他の生産職にはそれぞれギルドがあるが、アイテムクリエイターの職人ギルドというものは存在しない。
それもアイテムクリエイターとして仕事が続けられない要因の一つだ。
まさか鍛冶師ギルドや錬金術師ギルドに所属するわけにもいかないしな。仮に所属できたとして、技術を学ぶ意味もないアイテムクリエイターが何をするのか、という話だ。
だから【ドラゴンスレイヤーズ】に拾われて、そこでアイテムクリエイターとしての仕事を与えられた俺は、ある意味幸運だったのだ――と思う。
ゆえに俺は【ドラゴンスレイヤーズ】に、拾ってくれた先代のクランマスターに、今でも深い恩義を感じているんだ。
「だけどよぉ、俺は今回のことで認識を変えたぜ。やっぱり、いざという時に数を用意できるのは強みだな。ギルドとしてもアイテムクリエイターの育成に乗り出した方が良いのかもしれん」
「いや、そいつはどうかと思うぞ」
俺はザックがぼやいた言葉に反論しておく。
「ん? 何でだ?」
「素材が無くてもアイテムを作れるようになるのは、クラスアップしてからだ。そこまで辿り着くのに、どれだけ早くても20年は掛かるんじゃ、割に合わないだろ。素材があるなら同じ初級のポーションを作るにしても、腕の良いアルケミストに頼んだ方が品質も良いしな」
「いや、そりゃそうだがよぉ」
他ならぬアイテムクリエイターが反対するのが意外だったのだろう。
目を丸くするザックに、俺は苦笑した。
「他のアイテムクリエイターに、俺みたいな苦行をしろ、とは言えないしな。それに、消耗品なら常日頃から備蓄しておけば良いだけだ。確かにポーションなどには使用期限があるから、実際にはなかなか難しいだろうが」
そこまで言ったところで、俺は話題を逸らす意味も込めて、ザックに聞いた。
「ところで、今度はこっちから聞いても良いか?」
「ん? 何だ?」
「いったい何があったんだ? 毒を喰らった冒険者が多いのは別にしても、あそこにいた冒険者の数くらいなら、解毒ポーションが足りなくなる、なんてことはあり得ないと思うんだが」
治療室に行ってからずっと、疑問に思っていたこと。
たかだか20人分の解毒ポーションが集められないとは、カウンティアの人口規模を考えるとあり得ないのだ。
いや、実際には毒を喰らったのは、あの場にいた冒険者たちだけではない――というのは察しているのだが。
「ああ、そのことか。まあ、別に隠すようなことじゃねぇから言うが……」
ザックはそこで言葉を切り、真剣な調子で続けた。
「カウンティアの東側に広がるミスティア大森林は知ってるよな?」
「ああ、魔女の森だよな?」
ミスティア大森林。
通称、魔女の森。
遥か昔に人類に敵対した魔女が住んでいた――という伝承から、そう呼ばれている。
深い森の奥にはフィールド型の迷宮【迷いの森】があり、さらにその奥には遺跡型の迷宮【魔女の塔】がある。どちらも攻略難易度はA級以上に認定されており危険度が高いが、森の比較的浅い場所ではポーションの原料となる薬草類が繁殖していて、出現する魔物の強さもそれほどではない。
カウンティアの駆け出し冒険者たちが主に活動するフィールドの一つ、と言って良いだろう。
「その魔女の森でな、たぶん、変遷が起きた」
「何? まさか、スタンピードか?」
予想外の答えに、俺は内心でひやりとしつつ問う。
この場合、変遷――というのは、魔物や動物の縄張りが大きく変化することを指す。
その理由は様々だが、変遷がスタンピード――つまり、魔物の大規模な暴走――を引き起こすことがある。むしろスタンピードが発生する要因としてはメジャーな部類だろう。
ザックは非常に苦い表情をしながら答えた。
「いや、スタンピードに発展するかは、まだ分からん。大規模な一斉移動って感じじゃねぇから、そこまでの話にはならねぇと思うんだが。とりあえず今は、ウチのギルドでも腕利きのクランに調査を依頼している。その報告待ちだな」
「そうか……」
ザックの話に、俺は多少安堵した。
変遷がスタンピードを引き起こす主な原因は、魔物たちの一斉移動だ。たとえば、ある場所に強力な竜種が新たに巣を作った場合など、恐慌を来した魔物たちが一斉かつ連鎖的に移動することでスタンピードに発展する。
この場合、予兆というのはあまりなく、いきなり魔物の軍勢が現れる――といった印象になる。
「だが、今回の変遷で森の奥にいた毒持ちの魔物どもが森の浅い場所に移動してきたんだ。こいつが結構祟ってなぁ。駆け出し冒険者じゃ太刀打ちできねぇから、E級以下は立ち入り禁止にしたんだが、ギルドで禁止する前に毒を喰らった冒険者たちが多く出ちまった」
「それがさっきの冒険者たちか?」
「ああ、いや、違う違う。今のは三週間前の話だ」
三週間前から異変が起きているらしい。
とすると、俺にも大体事情が飲み込めてきた。
その推測を肯定するように、ザックは話を続ける。
「まず、魔女の森に立ち入り制限をする前に駆け出し冒険者たちが被害に遭った。次に森の側を通る街道で商人やら付近の村の村民やらの被害が増えてな。この段階で解毒ポーションの在庫が少なくなってきたんだが、肝心のポーションを作るには魔女の森で薬草を採取しなくちゃならねぇ。だが、E級以下を立ち入り禁止にしたことで、その薬草自体も足りなくなってたんだよ。一時的に薬草の値段が高騰したことでD級以上も採取依頼を請けるようになったんだが……」
「全然数が足りないってことか」
「そうだ」
当然の話ではあるが、冒険者は上級になるほど絶対数が少なくなる。
そして上級の冒険者だからと言って、より多くの薬草を効率良く採取できるというわけではない。むしろ魔物素材の納入や討伐依頼を請けがちになる上位の冒険者より、下位の冒険者の方が薬草採取という点でみれば、腕は上かもしれない。
「おまけに、その冒険者たちも戦い慣れない魔物相手に毒を喰らう始末でな」
解毒ポーションを作るために薬草を採りに向かわなければならないが、薬草を採りに向かった冒険者たちも毒を喰らい、さらにポーションが少なくなる。
そういう悪循環が起きてしまったのだろう。
「他の町や都市から解毒ポーションを仕入れてもいるが、十分じゃねぇし商人連中の抱え込みも酷くてな。これが売るためだったらまだマシなんだが、街道を移動する商人の被害も多いためか、自分達で使うために市場に放出しねぇんだ。もちろん、全く売らねぇってわけじゃねぇが、数が少なすぎる上に高すぎて手が出ねぇ」
それはなかなか難儀な状態だった。
だが、一概に商人たちを責めることもできないだろう。
不安から買い占めなどに走ることは、一般人であっても普通にあり得ることだ。
商人が個人でそれをするのは、流石にどうかとは思うが。
「んで、さっき下にいた冒険者たちだが」
そして話は戻る。
「スタンピードは起きてねぇんだが、魔女の森周辺の農村なんかだと、断続的に魔物の群が出てきてんだよ。おまけに時折強力な個体が率いる群が出てくることがあってな、緊急で魔物の討伐と村の救援に、40人ほどの冒険者を向かわせたんだが……くそったれ。俺の判断が甘かったぜ……」
ザックの激しく後悔するような顔を見れば、まあ、詳しく聞くまでもないだろう。
予想外に強力な個体が率いる魔物の群を相手に、十分な数で救援に向かったはずの冒険者たちが、壊滅的な被害を出してしまった――というところか。
そこでただでさえ少なくなっていた解毒ポーションが尽き、解毒を行える治癒術師も魔力枯渇で倒れてしまった。
いや、もしかしたら解毒ポーションだけじゃなく、ポーション全般が品不足に陥っているのかもな。
ともかく時系列的には、その後に俺がギルドにやって来た――という認識で間違いはなさそうだ。
「で、ここから何だがよ、ロイド。いやさ、ロイドさん」
「…………」
いきなり「さん付け」で呼ばれて、良い予感がする奴はいないだろう。
ザックが頼みたいことが、俺の思っている通りなら、別に構わないんだが。
「折り入って頼みがあるんだが、聞いちゃくれねぇか?」
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