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さようなら(終)

腹黒全開な第2王子をどうぞ!

王家に嫁ぐ。


幼い頃、レティシエリーゼを叱ってくれと母に頼んだ時に言われた言葉。

アルティアスに嫁ぐのではない。この国そのものに嫁ぐ、ということ。

レティシエリーゼはとっくの昔に腹を括っていたのだ。己の立場を理解し、その上で王家からの婚約打診を引き受けた。

幼い頃言われた言葉が、頭の中でぐわんぐわんと回る。


「どう、して」

「母上に釘を刺されていたのに、もうお忘れですか?兄上」


この目の前の弟は、本当にあの弟だろうか。

幼い頃、兄上、兄上、と自分の後を追いかけ回して笑っていた、あの弟と同じとは思えない。持っている迫力とも言うのだろうか、それが全くちがうのだ。

けれど、目の前の光景は現実でしかない。

レティシエリーゼはラクシスの一歩後ろに控えている。よくよく見れば、二人は手も繋いでいるし、ラクシスの立ち位置からすると彼女を守るような位置取りでもある。


「第一王子、貴方様の態度の悪さにはわたくし常々嫌気がさしておりました。…貴方様ならいかがですか?初対面でまともに挨拶をしてもらえず、茶会では罵られる。婚約を結んでから、貴方様とはまともな会話が成り立ったことはございません」


冷めきった眼差しで、レティシエリーゼは聞き取りやすい声音で紡いでいく。

当の本人に言われて、ようやくハッとした。

遅すぎた。

人として、一国の王子として、あるまじき態度ではなかろうか。

人の話を聞けないというのは致命的でしかない。

それは婚約者に対してだけではない、国外の要人でもそうだ。もちろん自国の民に対しても。

どうして、今更気づいてしまったのだろう。

好きならどうして、向き合って想いを伝えようとしなかった。

まずもって、初対面で自分は彼女に対して挨拶らしい挨拶をしていなかった。


「ラクシス様は、わたくしの話を聞いてくださいました。会話が成り立つということがこんなにも嬉しいことだなんて思いませんでしたわ。…まぁ、今日も今日とて第一王子様はよく分からない行動をお取りのようですが…?」


彼女が向けた視線の先には、自分が連れていた令嬢の姿。

『もしかしたら自分が他の令嬢を連れていると嫉妬してくれるかも』などという考えがいかに浅はかであったのかは痛感しかしないし、好意を抱いてくれていないのであれば徒労にしかすぎない行為であった。

隣にいた令嬢に小さな声で謝罪をし、そっと背中を押してやれば慌ててこの場から走り去るのが見えた。こんな自分に付き合わせてしまったのが今更ながら悔やまれる。


「あら…離してしまってよろしかったので?」


ため息混じりに問い掛けられるが、その声音に興味などこれっぽっちもないことが今となってようやく分かった。


「…かまわ、ない」

「そうでございますか。…それはそうと、わたくし貴方様とはもう既に先日円満な婚約解消がなされております。国王陛下はお話しされたそうですが覚えておいでですか?」

「冗談ではなかったのか?!」

「どこの世界に婚約解消したから、などと冗談を言う親御様がいらっしゃると思われたのですか。国王陛下のお話をその程度、と軽んじておられまして?」


次々指摘される己の発言が、今この場で全力で墓穴を掘っていると教えてくれる。

周りの貴族の目や、上座にいる国王と王妃の顔を見れば一目瞭然であった。

『考え無しの第一王子』そう揶揄されているのは本人のみ知らない事実。

甘やかされたが故に己の行動が間違っていないと信じきり、婚約者に対しての言動の酷さや態度の酷さ。好きな子ほどいじめたい、という男心は分からなくもないが、それを王子である身分でやらかしてしまって、是という令嬢がどこの世界に存在しようか。否、いない。いるとしたらよっぽど王子に惚れ込んで周りが見えなくなっている状態でしかないとは思う。

うそだ、と小さな声で呟き続けている第一王子に対して、更にレティシエリーゼは言葉を続けていく。


「貴方様との婚約解消後、こちらにおられるラクシス王太子殿下との婚約を締結致しました。第一王子様とわたくしの道が交わることは、もう、決してございません。王妃様より『余計なことかもしれないけれど』と前置きをいただき、貴方様が取られました行動の理由をかいつまんでお聞きしましたが………まぁ、あれで好意を抱くのは第一王子様を盲目的に愛しておられる方以外はその…無理かと存じます」

「レティ姉様は容赦ないなぁ」

「だって、最後になりますもの。きちんとわたくしの気持ちを知っていていただかなければ、この方の婿入り先で恥をかいてしまわれるでしょう?」

「婿入り先、だと?何を言って…」


「アルティアス、そなたは隣国へと婿入りをいたします。隣国の王妃はわたくしの幼馴染でね、ちょうど娘婿を探しているとのことで、大変素晴らしいご縁がありましたの」


王妃が立ち上がりつつ告げた言葉に、会場にはどよめきが走る。


第一王子と筆頭王妃候補の婚約解消があっただけではなく、既に第二王子、もとい王太子殿下との婚約締結は成されており、第一王子の隣国への婿入り。

祝っていいものか分からず、貴族はどうしたものかと各々顔を見合わせていた。


「王太子教育が終わった順に、立太子の儀は済ませておりますが…ここにいるラクシス第二王子は、第一王子よりも早く、王太子教育を終え、認定を受けております。よって、筆頭王妃候補との婚約締結は当たり前のこと。少し遅れて第一王子も王太子教育を終えましたが、如何せん少しばかり成績が奮いませんで……と、隣国の王妃にぽろりと話したら『是非婿に』とお話をいただきましたの。


さぁ、新しい門出を祝うと同時に、新たな王太子と王太子妃に盛大な拍手を!!!我が国は隣国と様々な分野で提携し、これより先更に発展を遂げることでしょう!!!」


王妃の自信満々な言葉に、次第に大きくなっていく拍手。

最後には割れんばかりの拍手の渦となる。


王太子と王太子妃は、揃って頭を下げる。


いつまでも呆然としていられるわけもなく、アルティアスも二人にならい頭を下げた。


王族に生まれてしまったからこそ、責務は放棄してはならない。

放棄したつもりはなかったが、アルティアスは少しだけ覚悟と考えが足りていなかった。弟にも、レティシエリーゼにも、及ばなかった。


王家に婿入りし、自分は隣国に向かわねばならない。


ならば最後にレティシエリーゼと会話をしようと顔を上げれば既に、そこには彼女がいた。


「さようなら、第一王子様。次に会う時は隣国の王配と、我が国の王妃として、ということになりましょうか」

「そうだな…。レティシエリーゼ、俺は…」


「俺は、君が好きだったよ」


「左様でございますか」


少し、期待してしまったのかもしれない。だが、そこにいる彼女の瞳の色は何とも呆気ないもの。

興味の欠片すら、相変わらず持たれていなかった。


「さようなら、第一王子様。次の御相手とはきちんとお話しされた方がよろしいかと存じます。…では」


綺麗なカーテシーを披露し、すたすたと去りゆくレティシエリーゼの背中を見送っていると、ラクシスがそっと耳に口を寄せた。



「兄上、あまり友人の忠告は聞きすぎないことをオススメするよ」



囁くように言われた言葉に、アルティアスは目を見開く。



「ありがとう、兄上。貴方が愚直で本当に助かったよ。僕は愛しい愛しいレティ姉様を、とても簡単に手に入れられた。あぁ誤解しないで?僕はレティ姉様を愛しているんだ。ずっと、ずぅっと……ね」



「兄上、さようなら」




仕組まれていた。

あの時から。


何年も何年もかけて、用意周到に巡っていた罠。

計画したのはラクシス一人であろうとは、誰も思わない。


声無き悲鳴が響く。


だが、もう遅かった。遅すぎた、何もかも。




ラクシスとレティシエリーゼの治める国は、大変豊かになったと聞く。

国王夫妻はおしどり夫婦として有名であり、また、側妃との仲も良好で、末永く平和に、幸せに暮らしたそうだ。

ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました!

勢いのまま書き進めた作品ではありますが、ここまで皆様にご覧いただけたこと、嬉しく思います。

ネタとしては他にも色々考えておりますので、またその内作品としてお目見えするかと思いますが、その時はどうぞよろしくお願い致します!!

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― 新着の感想 ―
わかりやすくすっきりとしたお話で面白かったです。 本当に好きな子イジメを許容する風潮はろくでもない。 好きなら何してもいいのか? 散々嫌な思いをしてきた被害者がなぜ加害者の気持ちを忖度してやらなければ…
[一言] 主人公に対しての悪感情はよく判らんな…… 普通に初手で嫌な顔された奴と仲良くなんかなりたくないし、 嫌味な事を言われて好意を抱くのも無理、 その挙句頓智にもならない小賢しさで無意味に牛歩戦術…
[気になる点] いや、友人はちゃんとたまには優しくしろって言ってたよ…ツンもちょっとくらいって言ってたんだよ…第一王子が馬鹿すぎただけで、友人に殆ど責任無いから!! ……今、その友人どうしてんだろね。…
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