2-1 徐々に、徐々に
結局あの後、一向に眠気は来ず、寧ろギャルゲの楽しさで集中力は増していくばかりだった。
その結果、睡眠不足でふらついた足取りのまま、俺は学校へと向かっている。
しかし、そんな弱っている俺に対しても太陽は容赦なかった。太陽の光がギラギラと存在感を増すたび、俺の吐き気も勢いよく増していく。
この時、頭の中で選択肢が二つ浮かび上がる。 それは「帰る」と「登校する」の二つの選択肢。
そう畢竟、人生とは常に見えない選択肢との戦い。そのような人生においてギャルゲで常に選択肢を取捨選択する訓練を行ってきた俺に死角はない。
なになに……、この選択肢の場合、妹ルート、もしくはお見舞いイベントを選択したいなら「帰る」を選択するべきだ。しかし俺の場合、妹はいないしお見舞いに来てもどうせ坂本と中村だろう……。
そして、学内のヒロインを攻略したいならば、「登校する」を選ぶべきだ。しかし、俺には女子の知り合いはいない……。
……何だこれ、ただのクソゲーじゃねえか! amazonレビューだったら☆2と☆1で独占されるレベルだぞ! こんなこと考えて余計ダウナーな気分になるなら考えなきゃよかったわ……。
くだらないことを考えて勝手に一人で落ち込んでいると、既に正門前まで来ていたことに気が付く。
……うーん、このまま帰るのも勿体ないか。いま出席稼いでおけば、いざという時休めるかもしれんしな。
恐らく一般の高校生はこんな考え方はしないのだろう。多分「友達に会いたいから行く」等といった、俺が一生かけても辿りつかなさそうな思考をするのだろう。ああ、高校生って怖い怖い!
そう思って下駄箱を開けると見慣れないものが網膜に焼き付けられる。
……手紙だ。
すぐさま下駄箱をいったん閉じる。手紙が下駄箱に入っていたら喜ぶよりも何よりも、まずしなければならないことがある。それは、周囲の確認だ。
ここでクエスチョン。俺みたいにつまらない人間に対しラブレター、基い女子からのうふふな手紙が投函される可能性は何パーセントでしょう。タイムアップ。答えは当然のごとくゼロ。では、代わりにどんな選択肢が生きてくるのか。選択肢その一、ドッキリ。選択肢その二、ドッキリ。
そう、紛れもない。これはドッキリだ。
ドッキリとわかったら即刻するべきことがある。それは犯人の特定。
便せんの柄、筆跡、文面などから犯人を特定する。
手ごろな男子トイレの個室に入る。
ここでいじめられっこである場合は、水をぶっかけられる可能性があるので、もっとベストな場所を探すべきである。だが、幸い俺は高校ではまだいじめられていないので、トイレでも大丈夫だろう。
いったん状況を整理するために大きく深呼吸。すーはー。
……しかし誰だこんな悪質なことをする奴は。最有力説が坂本と中村である。こいつらならやりかねないが、奴らは基本的にチャイムが鳴る一、二分前に登校するダメ人間。コレはわざわざ、早く来てまでするいたずらか?
最悪のケースが三田君率いる、トップカースト連中の仕業である。
しかし、いくら考えても三田君達に目を付けられる要因が見つからない。昨日の接触の際、「こいつはいじると面白い」という印象を与えるような言動はしていないはずだ。
だが、油断は出来ない。トップカーストというものは常におもちゃを求めていたりするもの。刺激になり得る、そんなおもちゃを。それはあくまでおもちゃであって、そこに人権は存在しない。
三田君たちはそういうのを求める極悪タイプのグループには見えないが、いつ豹変するか何てわからない。猫をかぶっている可能性だってある。
……まあ、とにかく! うだうだ考えていたって仕方があるまい。俺はきれいに便箋の封を開け、恐る恐る内容を確認する。パッと見たところ、筆跡は達筆だった。なるほど、男子の仕業か。バカめ! もっと手間暇かけて、あの丸みを帯びた筆跡に貪欲にならねえと俺はだませねえよ! えー、なになに肝心の文面は……、
諜報部員 水谷慶悟殿へ
指令:今日中に二人の有望なオタク人材をリストアップした後、放課後、校舎裏の焼却炉にくるべし。
P.S. あっ、見るからにオタク(昼休みに美少女ゲームをしている)だろという人材にはほぼ声をかけて、断られています
by種田 愛
文面を見た直後のことであった。俺は力をあますことなく伝えられるよう、手紙を持っていた腕を天高く掲げた。
そして、一つの思いを胸に、全力で手紙を床に叩きつける。
ああ、何となくお前の仕業だと思ってたよチクショウ!