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ストレンジカメレオン  作者: チャンカパーナ橋本
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2-2 徐々に、徐々に

 めんどくせえ。それがいまの実直な感想だった。そのめんどくささは、もはや菓子パンを口まで運ぶことにすら支障をきたすレベルだった。


「でっさあ、そのラーメン屋いったらさあ」


 めんどくささの一番の原因はもちろん種田の指令だ。

 やはり圧倒的に情報が不足している。

 俺のように何のツテもない人間がいきなり「さあ! オタクの人間を見つけよう!」と思ったってそれは容易なことではない。

 ツテがないなら足を使えといわれたところで、俺はオタクであることを秘匿している。おいそれと誰かに「ねえねえ、君ってオタク?」と聞けば、行く先にあるのは断頭台。イッツア、ギロチン。俺がオタクであることはバレ、社会的に抹殺されてしまう可能性が出てくる。


「おい……おい! 水谷」


 うーん、悩みどころだ。


「水谷! 水谷ってば!」

「うおっ! ど、どうした?」


 坂本に肩を揺さぶられ心臓が大きく跳ね上がった。


「話聞いてんのかよお前」

「ご、ごめん、まったく」

「おいいい! 俺の渾身のすべらない話、何聞き逃しちゃってくれてんの!」


 坂本が心底悔しそうにジェスチャーしながら俺に訴えかける。

 まあどうせ、自分ですべらない話って言っちゃってる話は大半面白くねえから! ハハハ! とは口が裂けても言えなかった。


「ごめんごめん、じゃあオチまで簡潔にまとめて話してくれ」

「そんな理不尽な要求があってたまるか!」

「まあまあ、一応ね。一応言ってみなよ坂本君」

「てめえ……」


 中村は笑いをこらえつつ坂本にフリをする。くそ性格悪いわコイツ……。


「……ラーメン雑誌に何度も特集されたってタレコミの店にいったら、スープがぬるかったって話だよ」

「「……」」

「違う。よく考えて見ろ水谷。お前、仮にもプロのラーメン屋が作ったラーメンのスープがだぞ? ぬるいんだぞ? 面白いとは思わないか?」


 恐らく、場の空気を暖めるとまではいかずとも、会話の種ぐらいには成りうる資質があったこの話。さすがにここまで面白いだろと押しつけがましいと、辛いものがあった。まあ、坂本、お前は悪くねえよ。何というか、絶対に中村が十対ゼロでわりいよ……。


「まあ、いまのは中村がわりいよ」

「そうだよ! てめえ人にばっか無茶ブリしやがって。お前が次すべらない話しろよ」

「え~、僕~?」


 中村が自分を指さし改めて確認する。俺たち二人が首肯すると、中村は、んーと少し考える素振りを見せた後、何か思いついたのか口を開き始める。


「こないだAVみてたらね」

「「ストップ」」


 俺と坂本は手のひらを中村の前に突き出して止まれとサインを送る。

 下ネタというのは男子高校生の鉄板だ。下ネタの会話がつい盛り上がってしまうということなど、どの男子高校生の間でも起きている日常茶飯事的な出来事であるが、我々は徹底的に下ネタを禁止している。

 別に特別に禁止しようと話し合ったわけでもない。ただ、俺と坂本は心のどこかでわかっていたのであろう。俺たちにとって下ネタによる減点は致命傷になりうるということを。


 我々のグループのクラスの印象は客観的に見ても中間、地味、特に印象なし程度のものであろう。

 そんな人間たちが突如、ドギツい下ネタを連呼していたら。……恐らくクラス内における俺たちの印象は底辺、塵芥と化せ、お前達のせいで世界は平和にならないといった具合まで下降線をたどる。……まあ、少しふざけたが、要は学校内で生きづらくなるであろうということだ。


 下ネタを爆発させられないことにやや不満を感じているであろう存在が中村であるが、こいつも、何やかんやで自重すべきところではしっかり自重できる奴だ。モラルは瀕死状態だが、なんとか生きている。


「え~。せっかくAV界のストーリーテラー、安西監督の作品内におけるユーモアを二人に享受してあげようと思ったのに」


 生きている……はず。

 ……しかしこんなくだらない話にいつまでもうつつを抜かしていても仕方があるまい。昼休みの残り時間は、俺の平凡ライフ継続のために少しでも情報獲得に専念しよう。


「俺ちょっとトイレ行ってくるわ」

「うーい」

「りょうかーい」


 さすがに高校生ともなると連れションということにもなるまい。それとも俺たちのグループだけなのだろうか。どっちにしろデータがないのでわからない。


「さてと……」


 めんどくさいけど、やりますか……。

 廊下に出て、トイレの方向に向かって歩く。しかし、何も俺は本当にトイレにいくわけではない。……いや多分授業直前になったら一回いくけど。


 俺の真の目的はそう、観察。物事は全て観察から始まる。アニメ化されたラノベの主人公もそう言っていた。


 種田の手紙にはたしか、明らかにオタクであるという人間にはほぼ声を掛けたとあった。

 つまり、俺が探さなければいけない人種は……明らかにオタクじゃないオタク。つまり俺と同じ人種。

 そう――隠れオタクだ。


 俺のように真の隠れオタクを探すのは難しい。我々は総力を駆使してオタクであることを秘匿している。それにこういった人種は、俺みたいに脅されたりでもしない限り、アニ研には入らないだろう。

 ならば、最初からこの任務は遂行不可能じゃないか。そう思う人間もいるかもしれないが、まあ、待て。あきらめるにはまだ早い。


 隠れオタクには二種類のタイプがある。俺のように隠したくてオタクを隠しているタイプのオタク。

 そしてもうひとつが、結果的に隠す形になってしいまっているオタク。あえて名付けるならば、「隠れてしまったオタク」だ。


 後者のタイプは別に隠そうとする意思があるわけではないが、友人間でアニメの話題が挙がらないため、周囲にオタクであるということが認知されていないタイプだ。

 俺の統計(超主観的)によると、こういうタイプはオタクであるのか誰かに問われた際、別段否定することもない。


 あまり、オタクであることがマイナスになると感じていないのだ。その考えは全くもってその通りで、確かにオタクであることをマイナスに感じる必要はないのだが、「こんのくそオタクが!」等と散々罵られた中学時代を通過してきている俺にはトラウマでやっぱり真似できないな、うん。


 ……まあ、そんな暗い話は置いといて。とにかくそんな、「オタク」という属性にさほどマイナスを感じていない彼らのことだ。「オタクですよ~」というサインを隠す必要はなく、そしてよく見ればそれはどこかに表れているはず。


 そしてそのサインとは……ずばりストラップ! または鞄などについたバッジとなって表れる!

 彼らはやはり、心のどこかでは話題を共有したいと感じているのだ。そしてそのサインはそのような形で表れる! なんて名考察! さあ、ばっちりそのサイン受け止めてやる!


 さあこい! 俺が「隠れてしまったオタク」界のメシアだ! 怖がらないで! 味方だよ! さあ、ばっちこーい!! こーいー……。こーいー……。(セルフエコー)

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