悪役令嬢と主人公が組めば最強よ
「このデスゲームを生き抜き、転生できるのは5人の候補者のうち2人だけ。だから、私とあなたで組みましょう。悪役令嬢と主人公が組めば最強よ」
突然現れた黒髪のお嬢様にそう言われ、私は口を開けて固まるしかなかった。
誰だろう、この子。
いかにも『お嬢様』って感じの、エレガントな服。
いかにも『お嬢様』って感じの、エレガントなロングヘア。
その美貌は、どこか現実離れしていて、ゲームのキャラクターのようだ。
そう思った私の心を読んだように、黒髪のお嬢様は言う。
「そう。ゲームのキャラクターよ。私は、乙女ゲーム『黒薔薇リンカネーション』の悪役令嬢エリカ。で、あなたは主役の『聖女プリシラ』」
私が主役?
聖女?
名前はプリシラ?
私の名前……そんなんだっけ?
うううう。
頭が痛い。
思い出せない。
てか、この子。
今、私の心を読んだよね?
「そうよ。これは私に与えられた特殊能力。5人の転生候補者には、それぞれ強力なスキルがあるの。それを上手に使って、最後の二人になるまで殺しあえってのが、神の意向ってわけ」
そこでやっと、私は口を開いた。
「どうして、こんなことに?」
「さあ。神様の気まぐれ、あるいは運命のイタズラって奴でしょ。『どうしてこうなったか』を考えるのは、ここでの生存率を上げるのに何の意味もないわ。頭、早く切り替えた方がいいわよ」
「そう言われても……。ここ、そもそもどこなの? 石の壁に、石の床。何もかもファンタジックで、日本じゃないみたい。まるで、ゲームの……」
「ええ。ここは廃城ベルバース。乙女ゲーム『黒薔薇リンカネーション』に登場するマップよ。広すぎず、狭すぎず。戦いの舞台としては最適だから、このマップが選ばれたんでしょうね」
「選んだのは誰?」
「だから、神か運命か、どっちかでしょ。それより、私と組むか組まないか、早く決めてちょうだい。私たちの他にも三人の候補者がいて、そいつらが、いつ襲いかかって来てもおかしくないのよ」
「じゃ、組む」
「即決ね。急かしておいてなんだけど、ビックリだわ。あなた、そんな簡単に人を信頼して組んだりすると、痛い目を見るわよ」
呆れたような目で見られて、少し心外だ。
これでも、合理的判断をしたつもりなのだが。
私は口を尖らせて言う。
「だって私、今の状況ほとんどわかってないし、だれか詳しい人と組んだ方が絶対にいいもん」
「まあ、それはそうかもね。あなたが目覚めたのは、五人の候補者の中で一番最後。与えられている情報もなし。スキルが強力な分、ハンデでも大きいって感じかしら。神も一応、バランスとってるのね」
「私のスキルって、強力なの? っていうか、私本人ですら知らないことを、なんでエリカが知ってるの? そもそも乙女ゲーム『黒薔薇リンカネーション』ってなに? 私、そんなゲーム全然知らないんだけど」
私の質問攻めに辟易したように、エリカは小さく息を吐く。私に『心を読むスキル』はないはずだが、エリカの表情を見ただけで『面倒ね……』と考えていることくらいは分かった。
だが、その気だるげな表情が、一瞬で引き締まる。
元々美少女なだけあって、真剣な顔は、彫像のように美しかった。
「質問の答えは後にしてちょうだい。敵が迫ってる。いったん身を隠すわよ。そこの、天井の穴から屋根裏に退避しましょう。壁際の大きな棚を踏み台にしてジャンプするといいわ」
「えっ、あっ、うん」
敵と言われても、平和な現代日本で育った私には、正直現実感がない。しかし、エリカの緊迫した顔を見て、それでもなおボーッとしていられるほどボケてはいないつもりなので、私はひとっ飛びで棚に飛び乗り、その勢いのまま天井裏に飛び移った。
ちょっと待って。
ひとっ飛びで?
嘘でしょ?
跳んでから言うのもなんだが、あの棚は2メートル近い。
天井までは、床から3メートル以上ある。
なのに私は『えいっ』『えいっ』と。
二段ジャンプの要領でで天井裏に飛び移った。
これは、とてつもないジャンプ力である。
自分のやったことに、自分で驚いている私に、エリカが下から言う。
「それがあなたのスキル『超体力』よ。読んで字のごとく、今のあなたは超人的な体力と筋力の持ち主になってるの。オリンピックに出たら、適当にやっても、多くの種目で金メダルが取れるでしょうね」
「おおぉ……凄い。って、私のスキルが凄いのは分かったから、エリカも早く上がって来てよ。敵が来るんでしょ?」
「あなた、とびきりの馬鹿なのね。か弱い私に、どうやって3メートルの天井に上がれって言うのよ。いったん降りてきて、抱っこしてちょうだい」
とびきりの馬鹿と言われて若干ムッとするが、まあ確かに『超体力』の持ち主以外は、高さ3メートルの天井裏に退避する術などない。それなのに『早く上がって来て』と急かしたのは馬鹿と言えば馬鹿だ。なので私は、素直に下に降りて、お姫様抱っこでエリカを抱える。
そして、驚いた。
軽い。
軽すぎる。
まるで、子猫を抱えたかのような、重量感とは言えないほどの重量感。
もちろん『超体力』で私の筋力がアップしているせいもあるのだろうけど、たぶん、それだけじゃない。エリカの体重が、極端に軽いのだ。間違いなく、平均より遥かに軽い。
それに、華奢で手足の長い、お人形さんみたいに美麗なスタイル。
私はエリカのことを、ちょっとだけ羨ましく思った。
「体重が軽いって、そんなにいいものじゃないわよ。華奢なのは、もっとよくない。あなたみたいに、少しふっくらしてる方が健康的でいいと私は思うわ」
「当たり前みたいに心を読むの、やめてよね」
そして再び、棚を駆けあがって天井裏へと二段ジャンプ。
エリカを抱えてなお、さほど鈍ることのない自分の跳躍力に、素直に感動。
しかし、その感動はすぐに吹き飛んだ。
私たちが、今の今までいた部屋のドアが、もの凄い勢いで吹っ飛んだからだ。




