第3話
俺は入部届を持って、三度部室のドアの前に立つ。
昨日までと違い、ドアを開ける手は軽く感じた。
「紡君!待ってたよ!」
「改めて、今日からよろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。よろしくね」
昨日までの先輩の笑顔の奥に見えた寂しさは、もう見えなかった。
「これ、興味ある?」
そう言って先輩が一冊の資料を俺の目の前に出した。全国高校生能力者格闘大会……聞き馴染みのない言葉だ。
「大会……ですか」
まさか入部初日にそんな話を持ち掛けられるとは。
「そう!大会。みんな略して『高校能力杯』って呼ぶんだけど、出てみない?」
「さすがにまだ早すぎないですか?まだルールも何も知らないですよ」
「あ、そうだったね。ごめんごめん。じゃあ、一緒に資料見ていこうか」
明らかに先輩のテンションが高い。子犬のように尻尾を振っている姿が簡単に想像できる。
「まずはこの大会について。この大会は全国から能力を持った高校生が集まって戦い、競い合うんだ。」
「能力って言うと、言霊とかですか?」
「そうそう。ちなみに、炎や水みたいな属性を持つ人も同じ大会にエントリーするんだよ。」
「なら、相手に水使いが来るってこともあり得るんですね?」
「そうだね。次は対戦形式。って言っても、すごくシンプルだけどね。一人で戦うか、二人で戦うか。それぞれ個人戦、ペア戦って言われてるね」
「バドミントンや卓球みたいなもんですか?」
「そうだね!似てると思うよ!」
「ちなみに、大会は何をしたら勝ちなんですか?」
「お!いい質問だね。なら次は勝利条件についてだね。この大会は相手を戦闘不能にするか、決められたいくつかの条件を満たしたら勝ちになるよ」
「戦闘不能ってなんだかボクシングみたいですね……」
「確かにね」
先輩がふふっと笑う。
「そして条件っていうのはね、相手を場外に出す、降参させるとかかな。それと、時間切れによる判定勝ちもあるね」
「ますます格闘技みたいですね……」
「あ、あとは相手がまだ降参してないけど、試合続行が危険って判断されたときもだね」
「無理して戦うのも限度があるんですね」
「そうそう。じゃあ次は、服装について説明するね」
「服装…ですか」
「そう。例えば、炎属性の攻撃に当たって服が焦げたり、自分の体に火傷の痕が残るのは嫌でしょ?そうならないために、大会に出る選手は特別な戦闘服を着るんだ」
「値段って……」
「それは大丈夫。高校生なら各学校でレンタルできるようになってるから、無理して自分で買う必要はないよ」
「そうだ、全国ってことは、予選とかもあるんですか?」
「もちろんあるよ。まずは、各都道府県で予選。それを勝ち抜いた選手が地方大会に進んで、さらにそこで勝ち残った選手だけが、ついに全国大会に行けるんだ」
「……果てしないですね」
全国大会は遥か先だ。先輩が資料をパタリと閉じた。その音はよく響いた。
「そんな顔しないで。誰だって最初はそんなもんなんだから」
突如、先輩が立ち上がる。
「さ!立って!まずは練習してみよう!」




