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後日談 残り香

 ヴァルブルガはそっとアルベルトの執務室を開けた。きょろきょろと辺りを見渡し、自分が泥棒みたいな気持ちになる。


 部屋は無人で、アルベルトは丁度席を外しているのか椅子にはジャケットが掛けられていた。本当はこの部屋にハットピンを落としていないか探しにきただけなのに。そんな目的を忘れてしまうほど、ジャケットは魅力的に映った。


 「わぁ…大きい」


 ジャケットをそっと触ってみる。それだけじゃ我慢できなくなって羽織ってみる。ヴァルブルガにはジャケットはダボダボでヴァルブルガが着ると、まるでミニ丈のワンピースくらいには大きい。


 「えへへ、なんだか抱きしめられてるみたい」


 照れながらもジャケットに残る香りを嗅いでみた。苦い葉巻の匂いが微かに香る。そしてオーデコロンの爽やかな香りもした。


 ヴァルブルガはジャケットを抱きしめる。なんだか、アルベルトを抱きしめているような感覚がした。その時、ガチャリとドアノブが回りドアが開いた。


 アルベルトと目が合う。


 (見られた!? へ…変態だって思われた)


 ヴァルブルガは素早くジャケットを離し、あたかも「皺を伸ばしていただけですよ」というふりをして、ジャケットを椅子に掛けた。


 そしてそそくさと退散しようとする。


 「待ってくれ」


 アルベルトに呼び止められて、ヴァルブルガは固まった。ギギギとブリキのような音がしそうなくらいぎこちなくアルベルトの方へ振り返った。


 「本人は目の前にいるのに、抱きしめてくれないのか?」


 大型犬が尻尾を振って待っているかのようだった。ヴァルブルガは恥ずかしくなりながらも「し…失礼します…!」と言ってアルベルトの胸板に突っ込んだ。ヴァルブルガは小柄だから腕をアルベルトの背に回しても自分の手に届くことがない。


 アルベルトもヴァルブルガを潰してしまわないように背を屈めて抱きしめ返してくれた。


 「先に煽ったのはそっちだからな」


 そう言ってアルベルトはヴァルブルガにキスをすると、ひょいっと持ち上げてお姫様抱っこしてしまった。そして執務室を出て、寝室に向かう。


 「は…恥ずかしい…!」


 ヴァルブルガは顔を手で覆った。廊下を通りかかった使用人たちは頭を下げて見ないふりをしてくれる。


 「あの、まだ昼ですよ!?」


 ヴァルブルガは寝室に向かう廊下を抱えられて進みながら、アルベルトに訴える。


 「カーテンを閉めれば夜だろう」


 アルベルトは平然とそう返す。顔には笑みが浮かんでいた。そんな無茶苦茶な!?というヴァルブルガの叫びは寝室に消えた。

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― 新着の感想 ―
とても面白く、一気に読んでしまいました。ですが、正直に言えば、あらすじから想像したお話よりも10倍くらいシリアス味がありました。塹壕で負傷兵を背負って這いずり回る主人公や前線の描写は、異世界恋愛ジャン…
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