第2話
村の朝は、鶏の鳴き声よりディネの声が早かった。
アリスが目をこすりながら起き上がると、肩の上で水色の小さな美少女が腕を組んで立っていた。
ディネ:「おはよう、アリス。寝相が悪すぎて見苦しいわよ。よだれまで垂らして、はしたないったら」
アリス:「よだれなんて垂らしてない! 朝イチから毒吐くのやめてくれ!」
ディネ:「事実を述べただけです。ほら、顔を洗いなさい。昨日の汗と埃がまだ残ってる。美少女の自覚、ゼロね」
アリス:「誰が美少女だよ! ……って、認めてるじゃん!」
ディネ:「認めてあげてるのよ。感謝しなさい」
朝食のシチューを食べながら、アリスはぼやいた。
アリス:「なんか今日から本格的に旅が始まる気がする……」
ディネ:「当然でしょ。8大精霊を全部集めるって言ったのはあなたよ」
アリス:「え、まだ本気で言うの!?」
ディネ:「本気も本気。大精霊を7人も追加で契約するの。……アンタの魔力ならギリギリいけるわ。たぶん」
アリス:「たぶんって! 命に関わるでしょそれ!」
そこへ、左肩近くにずんぐりとした土の精霊がふわりと現れた。
ノーム:「……朝からうるさいな」
アリス:「ノーム! いきなり出てくるなよ!」
ノーム:「ふん。昨夜から契約は済んでる。お前が寝てる間に済ませた」
ディネ:「ノームったら、相変わらず無愛想ね」
ノーム:「お前がうるさすぎるだけだ」
アリス:「二人とも! 朝から喧嘩すんな!」
ディネ:「喧嘩じゃなくて事実の指摘よ」
ノーム:「同感だ」
アリス:「あんたら意気投合すんな!」
廃坑に向かう道中も、掛け合いは止まらなかった。
ディネ:「歩き方よ、アリス。腰を落として、胸を張って。猫背だとスタイルが台無し」
ノーム:「……無駄にうるさい」
アリス:「ノーム、ちょっとフォローしてよ!」
ノーム:「お前がちゃんと歩け」
アリス:「味方ゼロ!?」
廃坑に入ると、すぐにゴブリンの群れが襲ってきた。
アリスが剣を構えると、ディネとノームが同時に指示を飛ばす。
ディネ:「左の三匹、腕を狙いなさい!」
ノーム:「右は足だ。動きを止めろ」
アリス:「わかってるって!」
気を込めた横一文字で数匹を薙ぎ払うが、奥からさらに増援が来る。
ディネ:「ほら、集中! またポケっとしてる!」
ノーム:「俺がやる。アースクエイク」
大地が激しく揺れ、ゴブリンたちをまとめて飲み込んだ。
アリス:「すごい……! でも二人とも私の出番を奪いすぎ!」
ディネ:「アンタのレベルじゃまだ足手まといよ。感謝しなさい」
ノーム:「……世話焼きだな」
さらに奥の巨大石扉を抜けると、ゴブリンに占拠された地下都市が広がっていた。
アリス:「三百匹……!?」
ディネ:「アイスカノン!」
ノーム:「アースウォール」
二人の連携で一気に数十匹を蹴散らす中、アリスも全力で剣を振るう。
戦闘後、アリスは息を切らしながら座り込んだ。
アリス:「はあ……はあ……みんな強すぎる……」
ディネ:「当然でしょ。私がいるんだから」
ノーム:「お前が弱すぎるだけだ」
アリス:「またそれ! ツッコミ疲れるわ!」
最深部で小さな石の箱を発見。
アリスが魔力を注ぐと、淡い光が溢れ、ノームがぼそりと言った。
ノーム:「……ようやく目が覚めたか」
ディネ:「ノームの分体みたいなものよ。もう用済み」
アリス:「え、待って! なんか騙された気分!」
ディネがくすくす笑う。
ディネ:「ノームは最初からアンタに興味津々だったのよ。頑固者のくせに」
ノーム:「……黙れ」
アリスは頭を抱えた。
アリス:「これから残り6人もこんな感じで契約すんの!? 毎日大騒動じゃん!」
ディネ:「そうよ。これがアンタの運命なんだから、覚悟しなさい」
ノーム:「……面倒くさくなりそうだ」
廃坑を抜け、村に戻ったアリスは村人たちに報告を済ませた。
村長:「本当にありがとうございます!」
アリス:「困ってる人がいるなら、しょうがないよ」
ディネ:「また寄り道? 町に行きたいのよ! 最新の美容液が——」
ノーム:「我慢しろ」
アリス:「二人とも、ちょっと黙って!」
その夜、宿でアリスはベッドに寝転がりながら呟いた。
アリス:「8大精霊全部集めたら……一体どんな毎日になるんだろう」
ディネ:「毎日が漫才大会よ。覚悟しなさい」
ノーム:「……同感だ」
アリスは小さく笑った。
アリス:「まあ、楽しそうではあるけど……」
しかし、笑顔の裏で、廃坑の最深部で感じた微かな黒い霧の気配が、胸の奥に引っかかっていた。
(……まだ、何かが始まろうとしている?)
翌朝、アリスは村を後にした。
次の目的地は西の砂漠——火の精霊サラマンダーが待つ神殿へ。
ディネ:「砂漠よ? お肌が死ぬ……」
ノーム:「我慢しろ」
アリス:「……これから本当に大変そうだな」
馬車に揺られながら、アリスは拳をそっと握った。




