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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
14/24

14話 元通り

 夕食の支度をし始めた恭介と、リビングのソファで何事もなかったように笑いながらテレビを見る理人。そんな二人を気にしながら葉月はそっと自室へと向かった。

 朝アモールがどこかへ行ってしまってから姿を見ていない。今日一日、葉月の側に恭介がいたせいでアモールは姿を現さなかったのだろう。

「アモール、戻ってるんでしょ? 居るなら出てきて」

 部屋の外に声が漏れないよう気を付けながら呼び掛ける。すると、アモールがポンッと効果音が付くような登場で葉月の目の前に姿を現した。

「葉月さん、学校お疲れ様でした! まさかお兄さんが学校に来るなんてびっくりっしちゃいましたよ〜」

「隠れて見てたの?」

「何度か葉月さんの様子は見に行ってましたよ。でも人前で声を掛けるのは迷惑と思って、アモールはこれからの葉月さんの恋の応援のために色々勉強をしていたのです!」

 えっへんとドヤ顔をするアモールだが、見た目がおじさんな故にあまり可愛さはない。人によってはこういうおじさんキャラを可愛いと思う人もいるようだが、残念ながら葉月はその部類には入っていなかった。

「勉強熱心なのはいいですけど、あまり勝手に動き回らないでくださいね。誰かに見られれでもしたら大変ですよ」

「ボクは妖精ですよ〜? 契約者の葉月さんぐらいしか妖精が見える人間なんていないですよ〜」

「それは分からないじゃない。稀に妖精を見ることの出来る人間だって存在するかもしれないよ? あまり油断しないでね……アモールはもう少し危機感を覚えた方がいいよ」

「分かりました〜! こんな風にボクの事を心配してくれる人間は初めてですよ。さすがしっかり者の葉月さん!」

 ちゃんと理解してくれたかどうかは怪しいが、話を聞いてくれたのだから良しとして葉月はそのまま話を続けた。

「それはそうと、アモール……もう魔法は使えそう?」

「あ、そうですね……ちょっと待ってください」

 アモールは手に杖を握ると、目を瞑って何やらブツブツと唱え始める。すると、杖の先端に光が灯り始めた。

「ふむふむ、問題はなさそうです。葉月さん! 喜んでください。魔法の力はしっかり充電できたようです」

「ならもう魔法が使えるのね」

 一安心した葉月の目の前でアモールが嬉しそうにクルクルと回る。

「さあ、これで葉月さんの恋のお手伝いが再開できます! 葉月さん、どんな恋がお望みですか? 今度は葉月さんのご希望に沿った魔法をかけますよ」

「アモール、その前にやることがあるでしょ?」

「はて?」

 魔法が戻った嬉しさなのか、アモール自身が抜けてるせいなのか、もう重大な目的を忘れ去っていた。葉月は呑気に飛び回るアモールの服を摘み上げ、自分の顔に寄せた。

「力が戻ったんなら早急にお兄ちゃんと恭太を元に戻して」

「あ、ああ〜、そうでしたそうでした。ボクったらお馬鹿さん」

 悪びれる様子もなく、テヘッと舌を出す。自分が可愛いとでも思っているのだろうかという疑問が頭に過ぎるも、葉月はそれをグッと飲み込む。

「思い出したなら今すぐに二人を元に戻してください」

「分かりました。ではでは」

 アモールは杖をクルクル回し、呪文を唱える。

元の(イン)姿に(プリスティヌム)戻れ!(レウェルテレ)

 カッと杖の先端が眩く光、葉月は思わず目を瞑る。そして数秒、部屋の中に静寂が漂った。

「葉月さん」

 アモールの声にそっと目を開ける。

「もう大丈夫ですよ」

 そう告げられた瞬間、リビングの方で理人と恭太の叫び声が聞こえた。葉月は慌てて自室を飛び出し、二人の元へと駆け寄る。

「お兄ちゃん、恭太くん!?」

 葉月の目に飛び込んできたのは、お互い見つめ合って固まったまま動かない二人の姿だった。

「あの……二人とも……戻った?」

 躊躇いながら聞くと、恭太が嬉しそうな笑顔を向ける。

「なんか知らないけど戻ったよ!! 俺、恭太に戻った!!」

 恭太の顔で恭太らしい発言が発せられる。

「いきなりで驚いたけど……どうやら無事に戻ったみたいだ」

 困惑気味に理人は自分の顔を触って、窓に映る自分をマジマジ見つめた。

「良かった。これで元通りだね」

 アモールの魔法はとりあえず正常に効果を現したようだ。

「戻れたことは喜ばしいが……何がきっかけで戻れたんだろうか? 何もしてないのに不思議だ」

 疑問を口にする理人に葉月は何も言えず、そっと視線を恭太に移した。

「恭太くん、良かったね……これで学校にも行けるね」

「おう! 葉月と仲良くなれたから、これからはサボらないでちゃんと行くよ」

「なら……家に戻るのか?」

 理人の質問に恭太の顔が一瞬だけ曇る。

「そうですね。身体も戻ったし……ここに居候する意味無くなっちゃったし、家にはちゃんと帰らなきゃ」

 恭介が向ける敵意を目の当たりにしてしまった葉月と理人には、恭太が明るく言った言葉に心が痛んだ。しかし、恭太の家庭の問題を他人の葉月たちに解決できる方法は今のところない。このままずっと恭太を家に住まわせるわけにもいかないのだ。

「恭太……帰るのは明日にしろ」

「え?」

「もう三人分の夕食を準備してるんだ。明日の朝食と弁当の下拵えもしてる……お前が今日帰ったら、食材が無駄になるだろ? 責任もって全部食ってから帰れよ」

 理人なりの優しさが伝わったのか、恭太の顔に笑顔が戻る。

「ありがとうございます!! 葉月も今日一日だけよろしくな」

「うん」

「夕食が終わったら、恭太……俺が勉強を見てやる。だいぶ休んでたみたいだから、授業ついていけないだろ?」

「マジですか!! 俺頑張ります!!」

 クラスメイトである自分よりも、理人と仲が深まっていく恭太に葉月は笑みを零す。

 アモールのせいで恋ではない何かが始まったのかもしれないと心の隅で思っていた。

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