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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
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13話 恭介

 午後の授業も終わり、放課後を迎えられたことに葉月はホッと胸を撫で下ろす。

 お昼休みに注意したことを恭太は聞き入れてくれたらしく、午後の授業は黙々とノートを取っているだけに止まっていた。そして、下校の時間になると葉月を気遣って、声を掛けることもなく教室から静かに出ていってしまった。少しだけ悪いことをしたかもしれないという罪悪感もあったのだが、クラスメイトたちの前で話し掛ければ恭太に更なる注目が向けられてしまう。葉月はそれを考慮し、時間を空けてから教室から出た。

「葉月」

 学校の門を出て、少し行った先の電柱の影から恭太がひょっこりと顔を現す。

「あれ、もしかして待っててくれてたの?」

「帰る家は一緒なんだし、別々で帰るのもなんか違うだろ? ここら辺なら人目も気にしなくていいから」

「そっか、ありがとう……なんか、見た目は恭太くんだけどお兄ちゃんと学校帰り一緒に歩くのって初めてだよね。なんか新鮮だな」

「そうだな……年が離れてるから学校の登下校なんて一緒になったことないもんな」

 お互いに昔の記憶を思い出していると、後ろから足音が近付いてくるのに気が付いた。葉月と恭太は反射的に振り返ると、そこには恭太の顔にそっくりな人物がこちらを睨み付けている。髪の色は漆黒で、眼鏡を掛けてていかにも勤勉な雰囲気だが、顔のパーツは恭太と瓜二つだった。だからこそ、葉月はすぐに気が付く。

「もしかして……」

 そっと恭太に目線を向けると、少し動揺したように目を見開いていた。

「恭太……昨日から家に居ないと思ったら、女と一緒だったんだ。髪染めて、ピアス穴増やして、学校サボって……今度は女遊びかよ」

「恭介……女遊びってひどいな。そんなんじゃないよ」

 恭太らしく振る舞って返したが、その言動が気に障ったのか恭介の眉間の皺がさらに深くなった。

「女と並んでどこ行くか知らないけどさ……これ以上、家族に迷惑かけんなよ。お前のせいで家がギクシャクしてんの分かってんだろ?」

 今にも掴み掛かってきそうな恭介に恭太も困ったように目を逸らした。それもそうだ。今恭介の前にいるのは恭太であって恭太ではない。ここで恭太として理人が余計なことを言えば、兄弟なのだから嫌でも違和感に気が付いてしまう可能性があった。中身が別人と気が付かれれば大騒ぎになるのは間違いない。それは大いに避けたかった。

「お前のせいで俺まで悪目立ちするの本当に嫌なんだよ。お前と兄弟ってだけでも恥なのにさ……双子ってのがマジ最悪! 目の前に俺と同じ顔があるのを見ると虫唾が走るんだよ!!」

 一歩、恭介が恭太ににじり寄る。このままでは本当に殴りかかってくるかもしれない。そんな嫌な映像が頭の中をよぎり、葉月は咄嗟に恭介の前に立ち塞がった。

「な、なんだよ」

 いきなり間に入ってきた葉月を見て、恭介が一瞬怯む。

「すみませんが、私たち急ぎの用事があるので今日はここまでにしてもらえますか? あと、私と恭太くんはただの友達であって、あなたが思うような関係ではありません。勝手に変な妄想を繰り広げられるのは迷惑です」

 きっぱり言い放ったことで恭介は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にさせた。

「おまっ、俺はこいつと兄弟なんだぞ! お前にとやかく言われる権利はない!!」

「何を言ってるんですか? 今私が迷惑と言ったのは私自身の誤解を撤回するための発言であって、兄弟の問題に口出しをする意図は微塵もないです……では、失礼します」

 冷静に返し、お辞儀をしてから恭介に背を向ける。

「ごめんな、恭介……話は後でしっかり聞くから」

 何も言い返せなくなった恭介を残し、葉月と恭太は徐々に歩くスピードを上げながら家へと急ぎ帰った。


「あ、二人ともお帰りなさい」

 最終的には全速力で走ったために、額に汗を滲ませ、息も絶え絶えな葉月と恭太の目の前に笑顔で出迎える理人が目に飛び込む。

「た、ただいま」

「お前は平和な一日を過ごせたようで何よりだよ」

「理人さんが作ってくれたお弁当マジで美味かったです!!」

 ぐったりした二人を前に、理人はご満悦な笑顔で言った。葉月と恭太はそんな理人を見て逆に笑いが込み上げてきてしまい、玄関先で大笑いをしてしまう。

「え? 俺、なんか変なこと言いました?」

 いくらでも込み上げてくる笑いにお腹を抱えていると、状況が掴めずにいた理人までもが笑い出してしまう始末。

 ようやくまともに会話が出来たのはそれから数分が経過した時だった。

「え!? 恭介に会ったんですか?」

「ああ、俺と葉月が一緒に帰るのを見られたんだ……一応、誤解は解いておいたけどまともに受け取ってくれたかどうかは分からない」

「誤解ってなんの誤解ですか?」

「たぶん、恭太くんが女遊びをしてると思ってたみたい」

 葉月の発言に理人の顔が青ざめていく。

「俺が葉月を弄んでるって思ったってことですか!? 俺ってそんなひどい男に見えてたんだ」

 弟に変な誤解をされた事に怒りよりもショックを受けた様子に葉月は思わず聞いてしまう。

「こんな言い方は失礼かもしれないけど……自分の家族に対してあの態度はあまりにもひどいと思う。直接聞いてなかったにしろ、自分が女遊びしてるなんて言われて怒らないの?」

 今思い出しただけでも、沸々と怒りが込み上げてくる。出会いはまだ浅いにしても、ここまでの間で恭太がどのような人間なのか少しだけ理解しつつある葉月にとって、恭介の言葉はとてつもなく腹立たしいものだった。

「他人が口出しするのは恭太くんも嫌だと思うけど、兄弟の間でなにか誤解があるんならしっかりと話し合った方がいいと思う」

「うん……ありがとうな、葉月」

 葉月の言葉を理解したかのように返事をしたものの、恭太の顔は先ほどよりも暗く曇る。

「けどさ、恭介は……俺が嫌いだから難しいかもしれないな」

 そう小さく、弱々しく呟いた。そこにはやはり怒りはなく、今度は諦めが滲んでいた。

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