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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
12/24

12話 中学時代

 葉月は心底疲れた顔で溜息を漏らす。昼休み、誰もいない空き教室の席でお弁当箱を開くも、重い気分のせいか美味しそうなおかずを見ても食欲が湧いてこない。そして、憂鬱そうに目の前にいる人物に目を向けた。

「なんだよ、溜め息付くと幸せが逃げるぞ」

 向き合うようにして座っている恭太は、葉月の気持ちなど気にもせず笑顔する。

「溜息だって付きたくなるよ。中身がお兄ちゃんだっ知ってるこっちの身にもなってよね。午前の授業は生きた心地しなくて、全く授業に集中できなかったんだから……で? なんで学校に来たの?」

「だって、あいつ休みが多かったみたいで出席日数足りないって言ってたからさ。この一日のせいであいつが進級出来なかったら、俺のせいみたいで後味悪くなるだろ?」

「だったらもう少し大人しくしててくれない?」

 葉月は頬を膨らませながら恭太を睨みつけた。

 午前中の授業、恭太は真面目に授業を受けてた。いつもなら教科書やノートを広げることなく、居眠りをしているだけだった恭太の変貌ぶりに誰もが驚愕し、戸惑っていた。中身が入れ替わったことを悟られるわけはないだろうが、本人らしからぬ行動は周りから注目され、何かしら怪しまれてしまうかもしれない。僅かな変化も学校という狭い世界では大きな波紋となり広がってしまう。それによって恭太が学校に行きづらくなってしまうのではないか、それを葉月は危惧(きぐ)していた。

「大丈夫だよ。あいつには許可はもらってる。好きなようにしていいって言われてるんだ」

「好きなようにって……恭太くんがそう言ったの?」

「ああ」

 そんなことを理人に頼むだろうかと葉月は疑いの目を向ける。

「帰ってあいつに確認してみろよ……ほら、弁当早く食べろ。昼休み終わっちゃうだろ?」

「う、うん」

 嘘をついている雰囲気はない恭太に葉月はようやくお弁当に箸を伸ばした。

「けど、お兄ちゃんが恭太くんにそこまで肩入れするとは思わなかったよ。昨日会ったばかりの、しかも男子をあんなに簡単に家に泊めたり、出席日数の心配したり……なんかあったの?」

 食べ進めながらそんな質問をすると、恭太は何故か深刻そうな顔をして黙りこくってしまった。

「恭太くんの家で何かあったの?」

 恭太と理人が共有する出来事があるとすればそれぐらいしか思い当たることはない。葉月はじっと恭太の目を見つめた。

「いや、実はあいつ……自分の親にあまり良い扱いをされていないみたいなんだ」

「え?」

 意外な言葉に葉月は思わず眉を顰める。

「昨日、あいつの母親に会ったんだけど……なんて言うか、実の子供に対する愛情っていうのが欠落してる感じがして、態度も言葉も冷たかった。あいつが学校を休みがちなのも、あんな派手な外見をするのも……もしかしたら家庭環境の影響なのかもしれない」

「そう、なんだ……知らなかった」

「知らなくて当然だ。恭太とは今まで面識がなかったんだろ?」

「うん。中学は違うはず……今回初めてクラスメイトになったから恭太くんの家族事情とか聞いたことなかった」

「まあ、それを知ったとことで俺たちに出来ることはないから気にすることもない。身体が元に戻ったら、そこからはあいつ自身で向き合っていく問題であって、俺たち他人が踏み込んでいいものじゃない。葉月は普通のクラスメイトとして付き合っていけばいいさ」

「そうだね」

 そう返事をしたものの、葉月の心の中に何か引っ掛かるものを感じた。

「俺は食べ終わったから先に行くよ」

「うん」

 恭太が教室から出ようとした時、誰かがドアを開ける。

「葉月、ここにいる? って、あれ?」

 なんとも間の悪いことに、教室に入ってきたのは柚子だった。恭太を見るなり驚いた目を葉月に注いだ。

「あ、俺出るんで」

 よく知る顔に出会したせいで、恭太の顔が一瞬動揺するも逃げるように教室を出ていったことで回避した。だが、取り残された葉月はこの状況を柚子に説明しなくてはいけないという重要な任務が課せられてしまう。

「あの……柚子」

「葉月、恭太と仲良かったんだね。知らなかったよー」

「仲が良いわけじゃないんだけど……たまたま? というか、柚子と恭太くんって知り合いだった?」

「葉月は知らなかったっけ? 私が中学の時に通ってた塾、恭太もいたんだよね」

「塾で?」

 今は出席日数が危ういぐらい学校を休みがちな恭太が塾に通っていたという情報はかなり意外な事実だった。

「今はあんなんだけどさ、恭太めっちゃいい奴だったよ。真面目だったし、勉強もできたし、優しかったし……塾の中では女子にも人気あったからね」

「そうなんだ」

「けど、受験間近で塾やめて……高校で見かけた時はかなり外見変わってたからびっくりしたよ。髪染めとかピアスとかしそうなタイプじゃなかったからさ」

 柚子は先ほどまで恭太が座っていた席に腰を落とし、自販機で買ってきた紙パックのいちごミルクで一度喉を潤す。

「そういえば、その塾に恭太の双子の弟も通ってたんだよ。名前は恭介だったかな? 恭太とはたまに話してたんだけど、弟は大人しいタイプであんまり交流なかったのもあって喋ったことないんだよね」

「双子? 初めて知った……高校は別なの?」

「一緒だよ。うちの特進クラスにいるみたい。弟もそこそこ頭良かったからね」

「そうだったんだ」

 すると、柚子は突然ニヤニヤと変な笑みを浮かべる。

「でも葉月がまさか恭太と親しくなるとは予想外だったよ」

「いやいや、昨日初めて喋っただけで親しくもなんともないって」

「でもさでもさ、外見はともかく中身はめっちゃいい奴だよ! 柚子のお墨付き! 恭太のこと何も知らない人は好き勝手な噂話してるけどさ……私はちゃんと恭太の良いところ知ってるし、葉月と友達になってくれるのは嬉しいかなって思ってる。恋とかそういうの抜きに葉月はもっと異性と関わるべきだよ!」

 朝の様子とは大違い。今は生き生きとした眼差しを向けてくる柚子に葉月は「そうだね」と頷くしかなかった。

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