第95話 紛争の仲裁
前回の場面の続きです。
◇
レゼルの指示でブラウジが号令をだし、騎士団はエミントスのほうへと向かいながら、徐々に高度をさげていった、そのとき。
シャレイドラの都市のほうで動きがあった。
「レゼル様、あれを!!」
「!!」
シャレイドラの都市を囲う城壁の門がいくつかひらき、なかから数千数万もの大量の兵が飛びだしてきたのだ!
砂煙をあげて地を駆けぬける龍の部隊と、その舞いあがる砂煙を吹きはらうように飛翔して空を進む龍の部隊。
しかし、シャレイドラの軍団は俺たち騎士団のことなど見向きもせずに、近接しているエミントスへの都市へとなだれ込んでいく。
対して、エミントス側の兵士たちも自身の街が蹂躙されていくのをただ指をくわえて見ているわけではない。
ただちに都市の内部で部隊が動き、シャレイドラの軍を迎えうつ態勢を整えた。
俺たち騎士団員があっけに取られていることなどお構いなしに、両軍は激突し、エミントスの都市内部で戦いが始まってしまった!
……シャレイドラ軍もエミントス軍も、同じ国家の軍であるためか、身につけている装備品の種類や意匠は似通っている。
暑さのなかでも動きやすいように、なめし皮でつくられた鎧と、ヴュスターデ特有の短い湾刀を好んで身につけている者が多い。
両軍の違いは、シャレイドラ軍兵の装備品が鮮やかな赤を下地に、金の刺繍がほどこされた色合いで統一されているのに対し、エミントス軍は深い青を下地に、銀の刺繍がほどこされたもので統一されていることだ。
さらに、シャレイドラ軍の上官のなかには、実用性よりも見た目の豪華さを優先した黄金製の兜や鎧を身につけている者が何人かいる。
ふたつめの違いは、圧倒的な戦力差。
シャレイドラ軍の騎兵の数は明らかにエミントス軍の数を上まわっており、その差は数倍……いや、下手したら十数倍もの差があるかもしれない。
そして決定的な違いは、シャレイドラ軍には明らかに異国の兵士が混じっていることだった。
空の部隊には巨大な白い怪鳥に乗っている兵士がいる。
そのからだは龍以上に大きく、象を数頭まとめて持ちさってしまいそうなほどの大きさだ。
地の部隊に紛れているのは、巨大な虎に似た生きものに乗っている兵士。
見た目は虎にそっくりだが、こちらも大きさは龍に匹敵し、三本の尾をもっている。
どちらの生きものも、レヴェリアのいずれの地域でも見られない異形の生物だ。
これらの生物に乗っている兵士たちの顔つきは、ヴュスターデ国民のものでも、帝国民のものでもない。
カレドラル国民のように整った顔立ちをしているが、レヴェリアのどの国の民とも異なるように見える。
彼らは白麻の戦闘服を身にまとい、波状の刀身をもった長剣を装備して、各々がかなり高い戦闘力を擁しているようだった。
強力なシャレイドラ軍に対し、エミントス軍は圧倒的な数的不利に立たされながらも、奮戦していた。
少人数ながら、エミントスの騎兵たちはみな手練れの兵士たちであった。
……だが、如何せん人数に差がありすぎる。
エミントスの騎兵達は常に敵兵に囲まれて苦戦を強いられていた。
防衛する兵士たちの手が回らないのをいいことに、白麻の戦闘服を着た兵士のなかには一般市民に手をかけ、残虐行為に走る者たちもいた。
……波状の刀身をもった刃は、その複雑な形状が肉をえぐり、斬りつけた者に死にも等しい苦痛を与える。
「……アイツら、街の人びとにも襲いかかりやがって……!!」
上空からシャレイドラ兵の振るまいを観察していたシュフェルが、怒りと嫌悪を露わにした。
「レゼル、どうする?
街の人びとの話を聞いて、俺たちのこの国での立ち位置を決めるって話だったが……」
そう言って、俺はレゼルにお伺いを立てる。
だが、彼女の街へと向けられたまなざしに、迷いは見られなかった。
「罪なき街の人びとが、戦に巻きこまれてよい道理など存在するわけがありません。
ただちに突入して、紛争を仲裁しましょう!
ただし、事情がわかるまでは敵兵を殺さないように!」
「……ああ、そうこなくっちゃな!」
こうして、翼竜騎士団も空からエミントスの都市内へと突入し、たちまち乱戦へとなだれ込んでいった。
作戦目標、『一般市民の安全の確保』――!
騎士団はそれぞれの部隊ごとに移動し、街のなかで戦線を形成した。
アレスは、自身の部隊の役割をよく理解していた。
敵へと向ける『角』は、突破口を切りひらくための強力な武器であると同時に、背後に庇う者を護るための防衛手段にもなるのだということを。
彼は都市内の建物の配置から、防衛の拠点となりうる要地を瞬時に見極めた。
「市民の安全を最優先にしろ!
防衛線を張れ!」
アレスが『角』の部隊を率いて、都市の主要な通路を塞ぎ、市民の安全を確保していく。
槍を突きだして通路を塞がれては、並みの戦士には突破することは困難であるどころか、ネズミ一匹通過することは不可能であろう。
それが、徹底的に鍛えぬかれた翼竜騎士団の精鋭たちの手によるものであれば尚のことである。
……彼らの鉄壁の守護の前では、空から舞いおりる巨大な怪鳥すらも、脅威たりえない。
狭い市街地の隙間を縦横無尽に飛びまわり、戦場を支配している者がひとり。
「市街戦こそボクの出番だ。
こういうときこそ、活躍しなきゃ!」
身軽で変幻自在な動き。
さらに投げた鎖を引っかけて宙を移動できるティランにとって、建物や遮蔽物がひしめきあっている市街戦は彼の特性がもっとも活かせる状況であった。
得意の龍にからだを固定させない戦いかたで、建物と建物のあいだを自由自在に舞い、敵兵を翻弄する。
からだじゅうに仕込んだ仕込み刀は狭い空間でも存分に機能し、敵兵の腕や武器を破壊して次々と無力化していった。
加えて、アイゼンマキナに残された機械工学で新しく開発された鎖の巻きとり機によって、ティランの空中での動きの自由度はますます向上している。
龍に乗った戦いの常識にとらわれない彼の戦いぶりに、初見でついてこれる者がいないのは必然であった。
……ちなみに、鎖の巻きとり機は、ホセも研究開発に加わって監修したものであるとのこと。
剣を思う存分振りまわせるだけの広さがある広場は、市街戦における主要な戦場であった。
そんな街の大広場に、龍に乗って並びたつ騎士がふたり。
ふたりの周囲では『牙』の部隊の兵士たちが、敵兵と激しい戦いを繰りひろげている。
「おーおー。
ティランの奴、派手にやってて楽しそうにしてんなぁ」
額に手を当て、戦場にふさわしからぬ余裕を見せているのがガレル。
その隣で不機嫌そうに腕を組んでいるのがシュフェルであった。
「ちぇっ。
アタシのは制御が難しいから、街なかで龍の御技は禁止だってよ。
手加減するってのは、アタシがもっとも苦手とすることなんだよなァ」
「ははは、一般龍兵の気持ちがわかるってもんだろ。
そんなぶーたれてないで、たまには俺といっしょに剣をブンまわそうぜ?」
「……ったく、しゃーないなァ。
カッコつけすぎて不覚をとんなよ?」
「心配には及ばねぇさ。
行こうぜ、シュフェル!」
そう言って、シュフェルとガレルも戦闘に身を投じていく。
このふたりが共闘して、自然素の操り手以外で勝てる者などいるはずがない。
ふたりは襲いくる敵兵たちを次々となぎ倒し(殺さない程度に)、またたく間に広場での戦いを支配していった――。
戦闘は次回に続きます。
ほかの騎士団員たちも、続々と活躍していきます!
次回投稿は2022/12/6の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




