第94話 砂にくゆる王都
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翌朝、騎士団は岩場の宿営地を出立した。
朝の涼しいうちに、なるべく距離を稼ぐ作戦だ。
周囲にはかすかにではあるが、うっすらと霧がでている。
朝の霧は砂漠の過酷な環境に住む生きものにとって、貴重な水分だ。
土のなかから小さな虫たちが這いだして、霧のわずかな水滴を集めている。ネズミやシカなどの獣も、ちらほらと見かけた。
そして昼に日が高く昇っていくにつれ、たちまち大地と空気が熱をもち、急激に熱くなってきた。
オラウゼクスからの襲撃があって以降の道中は、いたって平和なものだった。
途中それなりの規模の都市をいくつか見かけ、帝国軍も駐屯していそうなのだが、攻めてくる気配はない。
こちらから攻めなければ、向こうも動くつもりはなさそうだ。
おそらくなにか考えがあるのだろうが、余計な戦いをしなくて済むにこしたことはない。
俺たちはそのままヴュスターデの中枢へと進んでいく。
……そして、俺たちはヴュスターデの王都にたどり着いた。
「おおおお!!」
「これがヴュスターデの王都……!」
騎士団員たちは上空から都市を眺め、次々と歓声をあげた。
――『太陽の都』シャレイドラ!
建物の多くは石でつくられているが、陽の光を浴びて美しく輝いている。
まさしく『太陽の都』と呼ばれるにふさわしい街。
巨大なオアシスを囲むように建物が造られており、その都市の規模と面積はジェドやルトレストに匹敵する。
そして、遠くからでもわかるほどに、街には黄金があふれ、活気でにぎわっている。
馬鹿騒ぎ、といってもよいほどだ。
「見るも華やかな街じゃ。
豪奢すぎて、いっそ悪趣味じゃがのう」
ブラウジが素直な感想を述べた。
「うわー、すっごいハデでキレイな街だねぇ!
これがヴュスターデの王都かぁ。
敵の軍が襲ってくる気配もないし、早く降りて行ってみようよ!」
「いや、ヴュスターデのホントの王都はあっち」
「え……?」
ティランがはしゃいでいたが、期待させといてガッカリさせるのも可哀想なので、俺は即座に訂正した。
――『月の都』エミントス。
俺たち騎士団がやってきた方角から見て、シャレイドラの向こうがわに広がる街がヴュスターデの真の王都、エミントスである。
シャレイドラと同様、巨大なオアシスを中心にして円状に広がっている。
ふたつの都市は隣りあうように近接していて、上空から全体を俯瞰すると、瓢箪のかたちのように見える。
建物もシャレイドラと同様、石造りの街だ。
しかし太陽の光を浴びてきらびやかに輝くシャレイドラとは対照的に、エミントスは全体的に地味な色合いで、街も明らかにさびれている。
今はちょうど風で砂漠の砂が舞いあがったせいで、よりいっそうくすんで見えていた。
「あっちの街が正統な王家が住まう、王都なのさ。
俺たちが先に行くべきなのはエミントスのほうだろうな。
歴史的な趣が感じられて、あれはあれで良い街だろ?」
「へー、スゴイ。タノシミダナー」
期待に輝かせていたティランの瞳から光がうしなわれ、盛りあがっていた彼の気持ちが一気に冷めたのを感じる。
思ってることが素直に顔に表れる少年である。
「しかしまた、なんで王都のほうがさびれているんじゃろうのう。
中央に立つ楼宮だけは、立派じゃがナ!」
ブラウジが、これまた素直な感想を述べた。
シャレイドラとエミントス、まるで対照的なふたつの都市だが、共通するのはそれぞれの都市の中央に巨大な楼宮が建っていることである。
シャレイドラの中央に建っているのは見るも絢爛豪華な楼宮。
全体的に幅広でがっしりとした造りで、都市の威勢を主張しているかのようである。
屋上には、巨大な天球を象ったような球状の構築物も見られる。
いっぽう、エミントスの中央に建っているのは華やかではないが、優美で洗練された外見の楼宮だ。
縦長に高く伸びていて、華奢で繊細な造り。
シャレイドラの楼宮が男性的な印象を与えるのに対し、こちらの楼宮は非常に女性的だ。
このふたつの楼宮は各都市を象徴するとともに、いずれも世界的にも有数の規模を誇る建築物として、名を馳せている。
そして対照的に建つこれらの美しい楼宮は見る者に感銘を与え、こう呼ばれた。
『砂上の双宮』と――。
「帝国軍が占領しているのは、シャレイドラのほうだという話だ。
本来の王都であるはずのエミントスがさびれちまってるのと無関係ではないだろう。
……でもまぁ、都の人々からちゃんと話を聞いてみれば、正しい事実関係がわかるってもんさ。
街に降りてみようぜ、レゼル」
そう言って、俺はレゼルをうながした。
「そうですね。
たしかに、敵が襲ってこないのであれば……。
私たちの目的はヴュスターデと同盟を結び、帝国とともに戦う協力を取りつけること。
私たちがこの国でどういう立場を取るべきか、現地の方々の話をよく聞く必要がありそうです」
「決まりだな。
エミントスのほうに、行ってみようぜ!」
話はまとまった。
レゼルの指示でブラウジが号令をだし、騎士団はエミントスのほうへと向かいながら、徐々に高度をさげていった。
ヴュスターデほどの大国が舞台ならば激しい戦いが待ち受けているだろうと予想していたが、王都の近くにまで接近しても出兵の気配はない。
もしかしてこのまま平和的な話し合いだけで、この国と同盟を結ぶことができるかもしれない。
俺たちがそんな淡い期待を抱きはじめた矢先のこと。
五帝将オラウゼクスが嵐のようにやってきて去っていったのもつかの間、息つく暇もなく、次の事件が起こるのであった――。
今回の場面は次回に続きます。
次回投稿は202212/2の19時に投稿予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




