第93話 戦いの愉悦
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オラウゼクスの襲撃があったのち、騎士団は近くの岩場に潜むように宿営地を張り、一泊することとなった。
短時間とはいえ、オラウゼクスと剣を交えてレゼルとシュフェルは体力をおおいに削られ、消耗していたためだ。
彼女たちの体力の回復がなによりも優先され、異議を唱える者はいなかった。
あたりには広い範囲にわたってゴツゴツとした岩が砂漠の砂から突きだしており、身を隠すのにはちょうどいい。
――陽はすっかり沈み、あたりは夜の暗闇に包まれていた。
砂漠の昼と夜の寒暖差は激しい。
地面を覆う植物がないうえ、空気中も乾燥しているため、地面の熱が空へと逃げやすいからだ。
昼の熱い気温にからだが慣れていると、身震いするほどに寒く感じてしまう。
俺とレゼル、シュフェルは灯りもかねて火を焚き、囲っていた。
これだけだとミネスポネに負けた夜の再現のようだが、本日は客人としてエルマさんをお招きしている。
焚き火の光が、周囲に立ちあがる岩々を恐ろしげに照らしだしていた。
岩の化けものにでも囲まれているようで少し落ち着かないが、エルマさんがそこでほほえんでいるというだけで、なんとも言えぬ安心感がある。
しかし、レゼルとシュフェルは浮かない顔でため息をついた。
「「はぁ……」」
「あらあら、あなたたち。
若いのにため息なんてついて。
シャキッとしなさい、幸せが逃げちゃうわよ」
「お母さま、でも……」
エルマさんが優しくたしなめたが、やはりレゼルは浮かない表情のままだ。
レゼルは統率者としての自覚からか、普段は無意識に大人っぽくふるまってしまうクセがあるようだ。
しかし、エルマさんの前でだけは年相応の少女のように甘えた表情を見せる。
親友のセシリアともまた違う、彼女にとってかけがえのない心の拠りどころなのだ。
……だが、やはり彼女たちが落ちこんでしまうのは仕方がないことだろう。
オラウゼクスに圧倒的な実力差を見せつけられた。
さらに『共鳴』にはその先の技術があることを知り、そしてその技術を習得できそうな目途がまったく立たない。
さすがの天才レゼルとシュフェルも、もう少し手がかりがほしそうな様子であった。
そこで俺の提案で、エルマさんを招いて相談してみようということになった。
こういうときは若い者だけで集まっていても仕方ない、年の功に頼るのにかぎる! のである。
(そんなことを考えていたらエルマさんににらまれてしまった。やはりこの人は俺の心が読めるのだろうか)
俺は軽く咳ばらいをして、話を切りだした。
「オラウゼクスのヤツは、『共鳴』のその先の技術を『和奏』と言っていたそうですね。
エルマさん。
『和奏』について、なにか知ってますか?」
「いいえ、知らないですわね。まったく」
キッパリ、という感じで斬りすてられてしまった。清々しいほどまでに躊躇いなく。
俺はやはりこの人のこういうところが好きらしく、背筋がゾクゾクしてしまう。
「母サマでも知らないの? わそー」
「ええ、残念ながら。
……私も遠くからオラウゼクスの『共鳴』を見ていましたが、十年前の帝国侵攻のとき、帝国軍にもそのような技術を使うものはいませんでした。
ただひとり、帝国皇帝を除いては」
「帝国皇帝……!」
レゼルが驚きの声をあげた。
……ここでもでてきたか、俺たちが倒すべき最大の敵。
世界最強の龍騎士と呼ばれたレゼルの父、レティアスをも凌駕した絶対無敵の存在。
神聖軍事帝国ヴァレングライヒの元首、帝国皇帝……!!
エルマさんが、解説を続ける。
「帝国皇帝が使っていた、といっても似ている技術を使っていたようだとしか言いようがありませんが……。
いずれにせよ、帝国皇帝が出現したのちに習得する者が現れた、新しい技術のようですわね。
オスヴァルトが使用していなかったことを見ると、習得しているのは五帝将以上の者のみでしょう。
……ですが、この十年間で強くなっているのはあなたたちだけではない。敵も確実に強くなっているということです」
「敵も、強くなっている……」
レゼルとシュフェルは息をのんだ。
オスヴァルトは五帝将に匹敵するちからは持っていたものの、元はカレドラルの将兵であったこともあってか、『和奏』の技術は伝授されていなかった。
ミネスポネは人外の者であったため、そもそも『共鳴』の技術を使用していなかった。
しかし、これから先は『和奏』の使い手とも戦う必要がでてくることだろう。
……ちなみに今さらなのだが、『共鳴』の技術を使える者が、必ずしも『龍御加護の民』の系譜とは限らない。
たしかに稀ではあるのだが、他民族にも突然変異的に龍の鼓動を強くもつ者が生まれることがあるというのである。
特異な発生によるものであるためか、そうして他民族のなかに生まれた『素質者』は、しばしば『龍御加護の民』と比較しても遜色ないほどにずば抜けて強い素質をもつことが多いのだそうだ。
……という話を、俺は以前にブラウジから聞いていた。
「でもさー、オラウセックスはなんでアタシたちに『わそー』のこと教えたんだろうね?
すげー変なヤツだったけどさァ」
シュフェル、それは間違えてはいけない言い間違えだ……!
あとできっちり訂正しておこう。
「そうですね、あの人はなにが狙いだったのでしょう。
ただ、あまり策略などのような意図は感じられませんでしたね。
たしかに変な人ではありましたが……」
レゼルは口もとに手を当てて、オラウゼクスと対峙したときのことを思いかえしている。
とりあえず『変な人』というのが共通の見解であることだけはよくわかった。
静かに姉妹の話を聞いていたエルマさんが、再び口をひらく。
「……『娯楽』、でしょう。おそらく。
戦いの愉悦にとり憑かれた者が、自身と戦うのにふさわしい者を探しだすことに固執することはめずらしいことではありません。
得てしてその傾向は、並はずれた戦闘力をもつ者にこそ見られるものです」
レゼルは母の言葉を聞いて、闘技場でのオスヴァルトとの一戦を思いだしていた。
彼はレゼルが決闘の相手に足ると見るや、よりいっそう喜び猛っていた。
達人の域に到達できるほどの強者には皆、そのような嗜好が少なからずあるのかもしれない。
「あのオラウゼクスという男は、強者であるがゆえに自分と渡りあえる者を探していた。
そして、あなたたちにその素質があると見たのです。
自分と同じ高みに、到達できる者としての素質を」
「高みに到達できる者としての素質……」
「んなこと勝手に期待されちゃってもさァ。
『わそー』ができなきゃお話になんねーんだっつーの! ほんと勝手なヤツ」
シュフェルのめんどくさそうなボヤきに、レゼルがくすくすと笑った。
「ほんとうにね、シュフェル。
でもこれは強くなるとてもよい機会よ。
『和奏』の技術を習得できるように、また明日からがんばりましょう」
「……うん、そうだよね。
りょーかいっ、姉サマ♡」
レゼルの呼びかけに、シュフェルは張りきった様子で応えた。
ほんとうに、レゼルの前だと別人のように素直だ。
エルマさんもそんなふたりを暖かいまなざしで見守っており、あたりは和やかな空気に包まれた。
……やっぱり、この人がいると違うね。
水分が少ない砂漠の夜空は、雲も少ない。
満天の星空の下、ヴュスターデでの一夜が過ぎていった。
※レヴェリアの世界の言語は英語ではありませんので、オラウセックスは下ネタではありません。
ただ、なにかの言ってはいけない言葉だったようです(・c_・)
次回投稿は2022/11/28の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




