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レヴェリア、龍の舞う島々 ー無限の空をめぐる戦い。夢の国を造る少女と、それを支える男の物語ー  作者: 藤村 樹
第2部 氷銀の狐

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第71話 うすれゆく意識のなかで


 前回の場面の続きです。


怖気(おじけ)づいてあきらめたのか……?

 ならば、こちらから殺しに行くぞ」


 物陰に隠れてでてこなくなった部隊長たちを不審に思い、クラハが動きだそうとした、そのときだった。


「待たせ申した!」


 龍に乗ったアレスが柱の陰から踊りでて、クラハのほうへと猛然と駆けだしはじめた!


 しかし、彼が技を放ったのは、クラハのいる場所よりもはるかに前方。

 アレスの全身の筋力が連動、龍の動きと一体化し、ちからが槍の切っ先へと集約されていく――。


「ぬうぅんっ!」


破突槍(バルトレコ)』!!


 アレスは目の前に突き刺さっていた巨大な氷塊(ひょうかい)を全力でうち砕いた。

 氷塊が大小さまざまな無数の氷片(ひょうへん)となって、クラハのほうへと飛んでいく!


「お前は遠くから何もしてこなかったな。それで攻撃手段を得たつもりか……?」


 クラハは目の前に冷気と氷塊の渦を作りだし、自分の身に向かって飛んできた氷片をすべて弾きかえした。

 ……だが、無数の氷片に紛れ、飛んできた矢が数本。


 アレスの背中に隠れてサキナも飛びだし、つがえた五本の矢を放っていたのだ!


五重奏(クインセオ)』!!


 しかし、五本の矢はクラハのほうには向かってこず、彼女の周囲の氷塊や柱などの構築物に突き刺さった。

 そして、五本の矢の矢尻には、なにかが()わえつけられていた。


 クラハは、矢に結わえつけられていた糸状の物体が、光を反射しているのをその目で捉えた。


 ――これは、(つな)……?


 五本の矢には、細い綱が結わえつけられていた。

 龍御加護(たつみかご)の民の伝統的な縄あみの技術に、アイゼンマキナ製の鋼鉄の糸を織りこんだものだった。

 非常に細い綱だが、人間がぶらさがってもまったく平気なほどの強度がある。


 綱は、サキナが乗っている龍の龍鞍(りゅうくら)にも固定されており、ピンと張られていた。


「何を考えている、人間ども!」


 今まで逃げ隠れまわっていたアレスとサキナの姿が(あら)わになっている。

 クラハは手を伸ばし、莫大な量の冷気を彼らのほうへと飛ばし、浴びせかけた!


「サキナ殿!」


 アレスがとっさにサキナをかばったが、ふたりまとめて半身を凍らされてしまう。

 とくに、アレスが乗っていた龍は主人を護るべく身を乗りだし、全身氷漬けになってしまった!


 ガレルに続いて、アレスたちも戦闘不能におちいってしまった。


 ……しかし、クラハとアレスたちの攻防に紛れ、ひそかに迂回して迫る少年と龍がひと組。

 ティランは柱や城の人々の合間をぬって、影のように移動していたのだ。


 そして、ちょうどクラハのほうから向かって左側。

 真横にまで到達したところで、彼女に襲いかかる!


 氷狐(ひょうこ)の化身であるクラハは超人的な反射神経をもってして、自分に向けられた敵意に鋭敏に反応していた。

 アレスたちへの攻撃を終了した直後であるにも関わらず、左方から迫るティランに向かって正確に氷混じりの冷気を飛ばす。


 ティランが乗っていた龍も、たちまち息まで凍りつき、生きた彫刻(ちょうこく)のようになって凍てついてしまう。

 だが、冷気が到達するよりわずかに早く、ティランは龍の背中から飛びたっていた。


 ――ゴメンよ……!


 ティランは相棒の龍に心のなかで()びながら、クラハの頭上を飛びこえていく。

 しかしその驚異的な彼の身のこなしでさえも、クラハの動体視力は見逃さない!


 獣のように縦長の瞳孔が、正確にティランの動きを捉えていた。

 吹き矢か? ナイフか?

 どんな攻撃でも、クラハには防ぐ自信があった。


 ……だが、ティランが起こした行動は、クラハが予想していないものであった。


鎖機動(シェン・ムビリテ)』!!


 ティランが腕を振りおろすと、服の袖口から爪つきの鎖が飛びだした!

 鎖の爪は彼が乗っていた龍の龍鞍へとひっかけられる。

 そして彼が伸ばした鎖は、サキナが弓矢で張った十一時の綱と交叉して――。


「!?」


 鎖と綱の交叉点を起点として、振り子のようにティランが軌道を変えた。


 ぐるん! と聞こえてきそうなほどの急な方向転換に、さしものクラハも意表を突かれる。

 彼女の頭上を越える方向に飛んでいたはずのティランが、爪を振りおろす鷹のように上方から強襲した!


「ここだァ!」


 ティランが逆手に持ったナイフでクラハの首を狙う素振りを見せる。

 しかし、天才ティランにとってはそのナイフすらも陽動(ようどう)


 本命は、足先に忍ばせた仕込み刀!

 だが……。


「な……っ!?」


 ティランの動きはすべてが完璧だった。

 ナイフの陽動も、足先の仕込み刀も、より深くへと斬りこむ一撃を実現していた。


 ……しかし、クラハの反射神経はそれすらも凌駕(りょうが)していた。

 とっさに上体をそらし、右腕を斬りおとされはしたものの、首への致命傷は避けていたのだ。


 ティランは千載一隅(せんざいいちぐう)の好機を逃してしまったことを悟り、血の気がひいていくのを感じた。


 ――仕損じた……!


「よくもあたしの腕を!」


 クラハが残った左手で冷気を飛ばす!


 ティランは刀を仕込んでいたのとは反対の足で、クラハが乗っていた氷狐の背中を蹴り、からだをひねった。


 彼はかろうじて凍死を避けたが、片足が凍りつき、重度の凍傷を負う。

 まるで火傷を負ったかのような激痛が足から全身を駆けぬけ、彼の幼い少年のような顔が苦痛にゆがむ。


「ぅあ……っ!」


 頭から地へと向かって落ちていくティランに向かって、クラハは新たな氷棘(つらら)を練りあげていた。


 これから自分が殺す相手へと向かって、最大限の憎しみをこめて言葉を贈る。

 彼女が見せた表情はもはや、可憐だが冷徹な少女のそれではなく、完全に相手を(ほふ)る獣の顔だった。


「命をもって、(おの)が犯した罪の重さを知れ!」


 今にも氷棘が撃ちはなたれ、ティランが死ぬ。

 誰しもがそう思った、そのときであった――。


「待てこらああぁっ!」


 男の雄叫(おたけ)び声に、クラハが振りかえる。


 そこには、倒れていたはずのガレルが剣を振りかぶり、彼女の目前にまで迫っていた。


 ガレルの龍はまだ倒れたままだ。

 彼は自らの足で立ちあがり、剣をもって床を駆けぬけ、クラハを斬ろうと飛びかかっていたのだ!


 瞬間、クラハの思考は驚愕(きょうがく)と疑念に支配されることとなる。


「なぜお前が動ける!?」

「我慢してんだよ、めちゃくちゃ痛ぇに決まってんだろォが!」


 クラハはティランに向けて放とうとしていた氷棘をガレルのほうへと向けたが、間に合わない。


 ―― 一閃。


 ガレルが横向きに振りぬいた剣が、クラハのからだを上下に分断した。


「姉上っ!?」


 いつも無表情なネイジュが、姉のほうを振りむいて悲痛な声をあげた。


 クラハのからだが、分断された断面から氷の結晶となって崩れ、消えていく。


「おの……れっ……人、間、ども……っ!」


 ――なぜ……? なぜなぜなぜ!!

 なぜあたしがこんな目にあわなければならないの?

 あたしはただ()()()()()()()()()()()に、人間どもを殺していただけなのに……!


「おのれえええぇっ!!」


 クラハは消滅する間際、自身に残された命を放散するかのように、爆発的に冷気を放出した。

 一番近くにいたガレルが巻きこまれる!


 ――だが、ネイジュからの攻撃がとまってわずかに余裕ができたシュフェルが、いまわの際に飛びこんでガレルを救いだしていた。

 シュフェルはガレルを抱きとめ、クラムが飛んで冷気の放散範囲から離脱した。


 氷の華が浮かぶ宙を飛んでゆく、ガレルとシュフェル。

 ガレルは彼女に抱きかかえられ、全身ぼろぼろくたくたになりながらも、余裕の表情を見せてのたまってみせた。


「へへへ、見たかよシュフェル。

 一般龍兵でも、自然素の操り手に勝てるんだぜ」


 ……しかしやはり無理をしていたのか、ガレルはそれだけ言うと目を閉じ、気を失ってしまった。


 ――女子に抱えられながらなに恰好(かっこう)つけてんだが。痛いの我慢してるの知ってんだぞ。


 シュフェルはため息をついた。


「……ったく。恰好つけすぎだ、バカ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ――ちくしょう。


 レゼル様が氷の筒を壊してくれなきゃ、俺たちは勝てなかった。


 最後だってそうだ。

 シュフェルが助けてくれなかったら、俺は死んでいた。


 ……もっと強くなりたい。

 もっと強くならなきゃならねぇ……!


 うすれゆく意識のなかで、強く決意を(あら)たにした男がひとり。




 クラハ戦、決着!


 今さら気づきましたが、クラハとクラムって名前が似てますね。

 復習となりますが、クラムはシュフェルが乗っている龍の名前です。紛らわしくてすみません。


 次回投稿は2022/9/10の午前10時過ぎにアップロード予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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