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レヴェリア、龍の舞う島々 ー無限の空をめぐる戦い。夢の国を造る少女と、それを支える男の物語ー  作者: 藤村 樹
第2部 氷銀の狐

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第52話 白銀に満ちる悪意

 ロブナウトに丘の上で説明を受けた数日後、俺たち翼竜騎士団は軍を再編成して、氷の壁内へと進軍を始めようとしていた。

 ブラウジが中心となって指示をだし、氷の壁の前の平地で、軍を整列させていた。


 ……それにしても、間近で見るとほんとうに高く、巨大な壁だ。


 石を投げたって、とうてい向こう側になんて届かない。

 人間を百人、縦に並べたよりも高いかもしれない。

 しかも厚みもあり、向こう側はかろうじて透けて見える程度だ。


 ロブナウトの話では氷の壁内は極寒(ごっかん)とのことだったので、騎士団員たちの(よそお)いも、普段とはことなる様相を呈している。

 もちろん、みんな防寒を意識した装備品をまとっているのだ。


 レヴェリアにはさまざまな環境の島が存在しており、なかには非常に厳しい気候の島々も存在している。

 騎士団員たちも暑さや寒さ、乾燥など、あらゆる環境に対応できるように装備品を携行(けいこう)していた。


 さらに、ロブナウトの配慮でポルタリアから支援された防寒具も身につけている。

 地域住民も取りたてられた物資を運搬するために、龍に乗って氷の壁内に入ることがあるらしい。


 普段は動きやすさを優先して軽装備を好むレゼルやシュフェルも、今回ばかりは厚手のコートを羽織って冬仕様だ。

 ちなみにレゼルやシュフェル、サキナたち女性陣はモコモコの耳当てを装着している。

 控えめにいってとても可愛い。


 軍の準備が整って、いつものごとくレゼルが目配(めくば)せをすると、ブラウジが全体に向かって号令をだした。

 少ししわがれていながらも、遠くまでよく響くちから強い声だ。


「さぁ、皆の者!

 これより進軍を開始じゃ。

 敵の実力は未知数じゃから、心してかかるのじゃゾ!」


 そうして、レゼルたち最精鋭を先頭として、総勢約千名もの騎士団員たちが次々と飛びたっていった。




 氷の壁に(ふた)のようにかぶさる厚い雲のなかに侵入する。

 雲のなかに侵入しただけで息が白くなり、顔がヒリヒリと冷たい。


 そして雲を抜けると、目の前には別世界が広がっていた。

 雲を抜けた騎士団員たちから、次々とため息や歓声があがった。


 ―― 一面の、銀世界。

 壁外にあふれる緑や湖沼(こしょう)とはまったく違う、美しさ。


 大地はすべて雪で覆われ、木は樹氷と化して氷の怪物のように立ちあがっている。

 そして空気中の水分が凍って微小な結晶をかたちづくっているのか、キラキラと光が(ちり)のように舞っている。

 空は低く厚い雲に覆われているが、雪が光を反射するためか不思議と暗くはない。


 ……たしかに、美しい。

 これまで見たこともないような美しさだ。


 だが、温暖なファルウルの中心に立ちあがるこの光景は、何者かが作りあげた幻のように不自然で、底知れぬ悪意に満ちているように感じられた。

 そして、その悪意が今まさしく俺たち翼竜騎士団に向けられているのだということも。


 光景の美しさに目を奪われたのもつかの間、団員たちは皆、寒さに震えはじめた。

 龍に乗って飛んでいるので、風がますます体表の熱を奪っていく。


「うおおお、超さみぃっ!」


 ガタガタ震えながらわめいているのはガレル。

 もちろん、彼も寒さ対策にそうとう着込んでいる。


「寒すぎる!

 これは真冬のカレドラルの高山地域でも、ここまでの寒さにはなんねぇぞ」

「そうなのか?」

「いやぁ~、そうなんですよ。

 ……って、グレイスの旦那、薄着(うすぎ)すぎじゃねぇですか!?」

「え、そう?」

「『え、そう?』って……!

 旦那、いつもの格好に上着一枚羽織ってるだけじゃないですか!

 ヒュードなんてほとんどいつもどおりの格好だし!」

「いやぁ、俺とヒュードは寒い国に長く滞在してたこともあるからさ。

 慣れてるんだよね、寒さに」

「そんなもんなんですかぁ……」


 極限まで鍛えぬかれた彼らのからだには無駄な脂肪がなく、この寒さは身にこたえるのだろう。

 詮方(せんかた)なきことである。


 ちなみに龍は人間よりはるかに気温の変化に強いが、みんな龍にもある程度の防寒具を着せてある。

 ただ、周囲の自然素を取りこんでいるせいなのか、どの龍もどことなく普段より白っぽい。


 各々(おのおの)そんなようなやり取りをしながら、騎士団は氷の壁内の上空を飛んで進軍していく。

 周囲を警戒しながら飛行しているので、龍の速度としてはゆっくりだ。


 氷の壁は王都ルトレストを囲むように造られている……という言葉で受ける印象よりも、氷の壁が囲む範囲ははるかに広大だ。

 そもそもファルウルがレヴェリア全土のなかでも二番目に広い島なのだが、ルトレストの城下町はもちろんのこと、その周囲に広がる湖や平原、北側にそびえる山脈のほうまで壁は続いているとのことだった。


 龍でまっすぐ全速力で飛んだとしても、横断するのにはしばらく時間がかかることだろう。

 ……つまり、それだけ広大な範囲を囲いこむほどの氷の壁を作りだすミネスポネが、いかに恐ろしいちからの持ち主なのか、うかがい知れるところだった。


 そうしてさらに進んでいくうちに、とうとう見えてきた。


 ――王都『ルトレスト』。


 広大なファルウルが統制され、農産・水産国家として大国にまでのしあがったのは決して偶然ではない。

 過去に数々の名君を輩出してきた王家が、永きにわたって王政を(つかさど)ってきたからだ。


 国土の広さにふさわしい大都市に、高くそびえ立つ王城。

 街や城はカレドラルから伝わったという近代的な石造りで、ボルタリアをはじめとした辺縁の街とはまったく印象がことなる。

 農民や漁師が多い辺縁地と違って、ルトレストにはかなりの兵力も備わっていたという。


 ……しかし、今では街ごと氷で閉ざされてしまっていた。


 俺たちは王城が都市の前面に建っている方向から向かっている。

 さらに王城の前面には雪原が広がっているが、ロブナウトの話によると元は城の裏手に広がる巨大な湖が凍ったものだというから驚きだ。


 五帝将『ミネスポネ』を倒し、あの王城で凍りづけにされているであろう賢王(けんおう)クルクロイを助けだす。

 そして、カレドラルと共戦の同盟を結ぶこと。

 これこそが、今回の俺たちの目的だった。


 ……しかし、雪原のうえにはとくに敵らしきものは見当たらない。

 宙をしんしんと舞う氷の塵に音が吸いこまれるのか、むしろとても静かに感じるほどだ。


 もう少しで雪原の上にまで差しかかるというところで、ブラウジがまた全体に号令をかけた。


「さぁ、われらが目指す王都が見えてきたゾ!

 敵はまだ姿を現さぬが皆の者、気を引きしめるのじゃ!!」


 そうブラウジが言い終わるか終わらぬうちのことだ。

 ()()は始まった。

 そう、俺たちと『氷銀の狐』たちとの戦いは、突如として始まったのであった――。




※『空気中の水分が凍って微小な結晶をかたちづくっているのか、キラキラと光が(ちり)のように舞っている』

→極寒地域でのみ見られる自然現象の「ダイヤモンドダスト」を意識した表現となります。

 -15℃以下の風がなくよく晴れた朝など、見られる条件はとても限られているようです。


 次回、ようやくバトルに突入です。


 次回投稿は2022/7/13の20時以降にアップ予定です。何とぞよろしくお願いいたします!

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