第30話 炎熱の禍星
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レゼルとオスヴァルトの熾烈な打ち合いが、息つく間もなく続いている。
今までは受けからの反撃が主体であったオスヴァルトが攻撃を織りまぜるようになって、レゼルは一気に劣勢になった。
軽い崩しの一撃すら重く、受け流すたびにレゼルの体力は大幅に削られていく。
大剣の直撃はかろうじてかわしつつも、合間に噴きだされる炎をすべてうち消すことができず、少しずつ身を焦がされてしまう。
とは言え、速さではレゼルとエウロに分があるのだ。
オスヴァルトが攻撃するようになったということは付け入る隙が生じたということでもある。
レゼルは必死に剣を交えながら、反撃の機会を狙っていた。
――ほんの少し、ほんの少しだけ……!
レゼルはオスヴァルトに悟られぬように隙を見せ、オスヴァルトの攻撃を誘う。
レゼルはオスヴァルトに意図せず剣を払われたように見せかけた。
そして、狙いどおり彼の大振りの一撃を誘いだす!
大剣による、両手持ちの上段斬りだ。
瞬間、エウロはからだを大きく捻らせて剣をくぐり抜け、オスヴァルトの右後方にまわりこむように飛びあがった。
レゼルから見て、オスヴァルトの背中から右肩にかけてが無防備にさらされている。
千載一遇の好機を逃さず、レゼルは双剣を振るった!
――だが、おかしい。
あまりにも無防備すぎる。
オスヴァルトほどの達人が、これほど大きな隙を見せるはずがない。
レゼルが誘いこまれたのは自分のほうであると気づいたときには、遅かった。
「うぅっ!!」
龍の鱗と、剣の刀身が激しくぶつかりあう音が響きわたった。
炎龍の尾がレゼルの横から飛びだしてきて強烈な一撃を放ち、彼女の剣を二本とも薙ぎはらってしまったのだ!
レゼルは剣を離しこそしなかったものの、体勢を大きく崩されてしまう。
「しまっ……!」
「甘い」
オスヴァルトが振りむきざまに大剣を振るった。
レゼルの左側から振りはらわれた炎龍の尾と、右側から振りだされているオスヴァルトの剣。
炎龍の尾が飛んできた方向とは真逆の方向から、ブレンガルドの刃が迫る!
レゼルはなんとか二本の剣で受けたが、体勢を崩していたうえに、真正面から刃を受けとめてしまった。
衝撃が腕を伝わって彼女の脳まで揺さぶる。
レゼルはオスヴァルトの膂力にまったく抗うことができず、またしてもエウロもろとも吹っとばされてしまった!
その勢いは凄まじく、レゼルたちは闘技場の観覧席に激突した。
エウロがとっさに彼女を庇ってからだをぶつけたが、観覧席が崩壊し、レゼルたちは埋もれてしまう。
瓦礫のなかでレゼルたちが立ちあがろうともがいている隙に、オスヴァルトは炎龍との共鳴を深めていく。
腹に響くほどに重く、鈍い共鳴音があたりに鳴りひびいた。
オスヴァルトの周囲で炎が渦まく。
彼が頭上に掲げていた大剣の切っ先にどんどん炎が集まり、巨大な火炎球が形成されていく。
その火炎球は、炎龍をも飲みこんでしまえるほどの大きさだ。
そして、炎が極限まで増大したところでオスヴァルトは大剣を振り、火炎球を撃ちはなった!
『炎熱の禍星』!!
高速で迫る火炎球が通った軌跡上では、周囲の物体が一瞬で溶け、蒸発し、地面が大きく抉られていく。
まさしく、太陽がそのまま迫ってくるかのような超高熱の破壊現象。
オスヴァルトが放った技の威力を見て、レゼルは自身の技では受けられないことを瞬時に悟る。
彼女はとっさにエウロに叫んで命じた。
「エウロ! 避けて!」
レゼルは自分たちを風で包むこんで防御しながら、半ば強引にエウロを移動させた。
火炎球が、レゼルたちがいたあたりの観覧席を飲みこんだ。
レゼルたちはなんとかぎりぎりで回避することができたが、火炎球が通過した場所には大穴がひらき、壁の外まで見えてしまっている。
レゼルは間近でオスヴァルトが放った技の威力を目の当たりにして、背筋が凍った。
風の自然素で身を守っていたものの、あまりの熱さに肺の奥まで焼け焦げそうで、息が苦しい。
――今の一撃、掠りでもしたら骨まで残らず焼きつくされていた……!
だが、オスヴァルトは技を当てるつもりはなかったはずだ。
本気で当てるつもりなら、彼女をもっと追いこむ方法はいくらでもあった。
ちからの差を理解させ、降伏させることが狙いの攻撃。
彼女は決闘を侮蔑されたかのように感じ、オスヴァルトをにらみかえした。
「オスヴァルト、わざとはずしましたね……!」
「ご覧のとおりです。
私があなたを消滅させることなど、いつでもできるのですぞ」
オスヴァルトが不敵に笑う。
あれだけの技を放っておきながら、オスヴァルトにはまだ余力があった。
刀身の大きなブレンガルド、からだの大きな炎龍が蓄えることのできる自然素の量の多さは、小柄なリーゼリオンとエウロの組み合わせの比ではなかったのだ。
オスヴァルトはまだ大剣にまとわりついていた炎を振りはらった。
「レゼル様。
あなたが引きさがると言うのであれば、剣を収めぬこともありませぬ。
いい加減あきらめて立ちさりなされ」
オスヴァルトが、撤退を勧告する。
だが、極限の炎の技をもってしても、レゼルの闘志を燃やしつくすことはできなかった。
オスヴァルトが一撃必殺の技を持っていることがわかればじゅうぶん。
レゼルはエウロを立ちあがらせ、双剣をにぎりしめる。
彼女の周囲で風が巻きあがり、観覧席の瓦礫を吹きとばした。
「私はまだ死んでません。
この命尽き果てるまで、一歩たりとも引きさがるつもりはありません!」
「これでもまだちからの差がわからぬと言うのですか。
……よろしい。
あなたが理解できるまで、徹底的に叩きのめしてさしあげましょう!」
再び、オスヴァルトの大剣が極熱の炎をまといはじめた。
◆
レゼルとオスヴァルトが激闘を繰りひろげていたとき、シュフェルは単身で城の入り口を守りつづけていた。
城の外に配置されていた機龍兵たちは、シュフェルを警戒しながら上空を旋回したり、地面に降りて隙をうかがったりしている。
だが、やはり大爆発の原因がわからず、安易に突撃してこれないようだ。
と、上方から激しい破壊音がしてシュフェルが見あげると、巨大な炎の球が城の壁を突きやぶり、はるか彼方まで飛んでいく。
途中で空を旋回していた機龍兵の何機かが巻きこまれ、消滅した。
――間違いなくオスヴァルトの技だ。
姉は無事だろうか。
シュフェルの脳裏に、幼いころからの記憶が蘇る。
彼女が妾の子供であるのをよいことに、隠そうともせずにいじめてくる腹違いの姉たち。
母親ゆずりの目立つ髪が伸びてくると、鋏で切られたり、むしられたりした。
レゼルと初めて出会ったとき。
彼女は優しくほほえみ、「綺麗な髪」と言って自分の頭をなでてくれた。
一日も欠かさず実の妹のように愛してくれ、戦場で窮地におちいれば必ず身を投げだして護りにきてくれた。
血のつながりはなくとも、誰よりも大切な姉。
「お願い姉サマ、無事に帰ってきて――」
シュフェルはあふれそうになる涙を堪え、ただひたすらに祈る。
助けに行きたい衝動を必死に抑え、真に姉のためになるならば、絶対にこの持ち場を離れない。
彼女は血がにじむほど強く剣をにぎりしめ、よりいっそうの決意を固めた。
◇
俺たちはゲラルドの居場所までたどり着いた。
しかし、奴は俺たちに一瞥をくれるとすぐに向きなおり、飛空船のなかに乗りこもうとする。
やっと対面した宿命の敵が、自分たちをいない者のように扱うのを見て、ブラウジが激昂した。
「ゲラルド、キサマぁ!
民も国も捨て置いて逃げる気かぁ!」
「チッ、オスヴァルトめ。
小蝿をとり逃がしやがって。
こっちまで来てるじゃねぇかァ」
ゲラルドは何やら小声で呟いている。
しぶしぶこちらをまた振りかえると、親指を下に突き立て、俺たちを呪うかのように話しはじめた。
「当たり前だ、オレ様の命が何よりも大事なんだからなァ。
だが安心しろ、帝国本国の無敵の軍隊をひき連れ、すぐに戻ってきてやる。
そのときこそ、お前ら下賤の民はひとり残らず血祭だ。
今まで生かしてやっていたことに感謝しろ!」
それだけ言うと、ゲラルドはまた飛空船に乗りこもうとする。
あまりの憎たらしさに、翼竜騎士団の面々も殺気立つ。
……わかりやすいほどの悪役ぶりに安心した。
これで気兼ねなく、刺せる。
「シッ!」
俺はそばにいた一般龍兵の龍に乗って背中に隠れていたが、躍りでてナイフを投げた!
ヒュードは床の模様に擬態させて入り口のそばに待機させてある。
敵の不意を突くことができ、護衛の反応が遅れた。
ナイフはゲラルドの顔面めがけて真っすぐ飛んでいく!
……しかし、その刃は奴に届かなかった。
床のほうから高速で何かが伸びだして、ナイフを叩き落としたからだ。
それはよく見ると、龍の手のかたちを模した鋼鉄の腕だった。
俺はそのときになって初めて、床のモザイク模様を上から見おろすと一匹の龍が描かれていたのだということに気づく。
ゲラルドがにたりと不気味な笑みを浮かべた。
「『特戦機龍 第陸式』――」
※『炎熱の禍星(えんねつ の まがぼし)』……本文にも記述のあるとおり、太陽のごとく苛烈に燃えさかる炎球を撃ちはなつ技です。
炎球が通りすぎたあとはすべてが燃やしつくされ、何も残りません。
仕事の都合で少し早めのアップとなりました。
次回投稿は2021/4/28の19時以降にアップ予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




