王都の城の前で
王都を最後に見て回った場所は王都の顔である王宮の前だ。
絵に描いたような城がそこにあって、厳重な警備に置かれた重厚な門前でミズキは立ち尽くしていた。
騎士の風貌をした人が二名玄関口に立ち、侵入者を一切許さない振る舞いだ。
「王位継承式はこの中で行われます」
メグチが神妙な面持ちでいった。
「なんだか緊張する」
率直にいうと、メグチは小さく笑った。
「緊張することありませんよ。ミズキはリリィ様の近侍なのですから」
彼女の言葉を訝しげに受け取って、首を傾げる。
用は姫のそばにいる人間なのだから堂々とするべきだと言ってるのだろうが、ミズキはピンときていない。
微妙な表情やミズキを他所に、隣で不意にメグチが声をあげた。
どうしたの? と声をかける間にその状況に気づく。
城の方から何やらガヤガヤとした集団が出てくる姿が見えたのだ。
みな質素で地味な格好をした集団で、城から出るには似つかわしくない。有り体に言えば庶民の集団だが、その先陣にいる人は悪態を辺りに散らしていた。
「なんだい、こんな状況で王位継承とは嘆かわしい!」
その人は怒気を面いっぱいに広げていた。後ろにいる人たちに比べ若々しくなのに慕われている様子が伺える。彼女の怒りに便乗してみながヤジを飛ばしていた。
「まったく分かってないよ。クラクの一件もあるし、あんなボンクラを王にしたところで……」
と、ここで彼女は足を止めてミズキとメグチに気づく。
しかめっつらでじーっと見るなり、自嘲を浮かべ、ふんと顔を逸らして行ってしまう。
気分の悪い行いに、何なのあの人達? と怒り目でメグチに訊ねると苦笑いをして返ってくる。
「商工会の方々ですよ。一番前にいらっしゃった方は会長です」
「会長? 結構若く見えたけど」
「年齢は些細な問題ですよ。王都の商人たちまとめあげて会を作ったのはあの人ですから」
「はぁ」
ミズキの実年齢とあんまり変わらない人がそんなことを成せるなんて感服するべきだが、ミズキの中ではイマイチ納得いかない。
少しむず痒い思いがある。ただ興味の湧く相手でもなかったなため、メグチにこれ以上の質問はしなかった。
メグチはどこか複雑な面持ちをしていたが、それを気にせず別宅に戻るよう言った。
気を取り直したメグチと一緒に、ハプニングを忘れて王都の城から離れる。
尾を引く思いを押し殺して、二人はクラク屋敷、王都の別宅へと帰路についた。




