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イヴの世界  作者: あこ
二章 王都招来
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王都オルファナス・2


 ルバート、アメリアに見送られて馬車は出発した。

 リリィとミズキとササキの三人を乗せた荷車は馬竜がひいて王都オルファナスを目指す。そのルートは屋敷の裏手からではなく、街の入り口から王都へ向かうルートである。

 馬車が闊歩する姿はクラクの街では珍しいため、街内を走っていると興味ありげな町民が伺っていた。しかし、それがクラクの屋敷だとわかるやいなや笑顔で手を振ってくれていた。ここで馬車を見るとなると屋敷からとしか考えられないからだろう。

 荷車の窓からリリィが小さく手を振りかえしているのを横目に、ササキはずっと欠伸をしていた。

 これから数時間をかけて王都を目指す。その時間を馬車で過ごすのは少々居心地の悪い空気だった。その原因はミズキがササキ対して抱いている不和であるが。

 クラクの街を抜けて、王都へ続く平原の道を走っている中、しばらくしてササキが痺れを切らして口を開く。

「王都楽しみだねー」

 彼女の突拍子のない呑気なことに、ミズキは驚いて目を丸くさせた。

 それにリリィは苦笑するが、ササキの言葉に同意するように頷いている。

「楽しみって、別に遊びにいくわけじゃ……」

 ミズキはもっともなことを言った。

 それにササキが顔をニンマリとさせていう。

「遊びに行くようなもんでしょー」

 そう茶化すササキにリリィは少し怪訝な顔つきをしていた。

 それを一瞥したササキは苦笑を面に浮かべて補足するように話す。

「だって、一週間も王都に滞在するんでしょ〜。何するのさー」

「挨拶回りや準備があるから遊んでいるばかりじゃダメだよ」

 咎めるようにいうリリィにササキは不服そうに面をしかめると追及する。

「一週間ずっと公務ってわけじゃないでしょ。私も用はあるけど、結構ヒマだよ」

 仮にもリリィの付き人として来ているササキは特に繕うことなく発言した。

「……まあ、明日は時間あったかな」

 リリィは詰め寄るササキに根負けして、白状した。

 すると、ササキは面をパッと明るくさせる。

「じゃあさ、じゃあさ! ここ三人で王都回ろうよ!」

 急な提案に、リリィとミズキは目をパチクリさせた。

 どうやらササキは、それが本題だったみたいだ。

 リリィは困惑している様子だったが、ミズキは困惑よりもササキの会話の内容に興味を惹いていた。

 それに目をつけたササキがニヤニヤしていう。

「王都は商人とか巡礼の通り道でもあるから色んなお店があるんだよ」

「どんなお店があるの?」

 ミズキは興味津々に尋ねる。

「装飾品や魔石、使い魔のお店とかあるよ」

「使い魔?」

 ササキはサラッと話したが、非常に気になった単語に着目したミズキは追及する。

「使い魔って言っても家庭用の使い魔だよ。愛玩使い魔って言ってね。普通に可愛がったり、伝書猫みたいに使い魔の種類によっては仕事をさせたりする使い魔を売っているお店があるんだよ」

「はーそうなんだ」

 伝書猫が使い魔の類と知って感銘を受ける。

 使い魔と聞けば、強力な魔物っぽい存在を想像する。ミズキの認知の範囲では嫌な記憶しかないが、クラク宝物番である魔術師ルラからそれを見たことがある。

 そのイメージからゲームでいう召喚獣のような呼び出して使役するようなものだと思慮しているが、ササキの今の話からして使い魔には種類があるようである。

 ササキの話に呼応するように、リリィが少し呆れているものの会話に乗って補足する。

「使い魔は契約が伴うけど、お店で扱っている使い魔はどれも契約が緩いの」

「へー」

 どの程度なのかと疑問しそうになるところ、ササキが笑いながいう。

「ちゃんとご飯をあげるとか、毎日撫でてあげるとか。そんなのだよ、愛玩使い魔は」

「ペットじゃん」

 思わず本音が口をつく。

「ぺっと……っていうのはよくわからないけど、愛玩使い魔の中でも猫とか犬は仕事を教えられるし愛らしいから人気なんだよ」

 ペットという単語はこの世界にないらしくリリィは首を傾げながらそういった。

 猫とか犬はペットではなく愛玩使い魔の類のようである。

 ミズキなりに使い魔のお店を噛み砕いていえばペットショップといったところだろう。

「ま、明日どんなところから見てみればわかるよー。色んなところ見てまわろうねぇ」

 ササキは先ほどから楽観的である。

 リリィは呆れた様子だったが、会話の中で表情が柔らかくなっていた。

 どうであれ、王都に行くのに緊張はあっただろう。ミズキもそうであったためササキの場の空気を読まない話題は心なしか助かった。

 王都に対する緊張と不安に緩和をもたらしたササキの会話。

 クラクから王都まで、正門を通った道を道なりに進んでいく、その道中、ササキの王都でのショッピングを楽しみにしている会話が途切れなかった。

 王都のお店や、王都の光景を嬉々として話すササキにミズキはずっと目を光らせて聞いていた。その隣で、リリィは微笑ましそうに会話に入っていた。

 クラクから王都までそれなりに距離があるけど、王都にあるクラクの別荘にたどり着くまでその時間は忘れるほど会話に執心していた。気づけば夕方、時間的に静かな王都に入って馬車はクラクの別荘その敷地に入っていた。

 敷地に入って、馬車が停止してやっと王都の地に降り立つ。といっても、クラクの別荘の敷地ではあるが数時間揺れた後に地に足を着くとどことなく浮遊感があった。

 よろつくリリィを支えながら降りて、その隣ではササキが息を吐いて背筋を伸ばしていた。

 目の先にはクラクの屋敷よりも一回りは小さい豪邸がある。別荘だから、コテージのようなものを想像していたが見た目だけいえばクラクの屋敷と代わり映えしない。

 馬車から降りてしばらくすると別荘の方から、二人の人物がこちらに来た。

 ミズキはわからず首を傾げたが、ササキは軽薄そうに手を振りリリィは笑みを浮かべ小さくお辞儀をした。

 その二人はミズキたちの前に立つと声を揃えていった。

「リリィ様、ササキ様、ミズキ様、ご到着をお待ちしておりました」

 その二人はどちらも猫耳を生やしており、またエプロンドレスのスカートの部分のお尻からふわふわとした尻尾が揺れている。彼女らが亞人の獣人のようであり、ミズキは初めて見る亞人に驚き目を奪われた。

 垂れた猫耳を生やした猫目の子が頭を上げていう。

「ご夕食の準備が整っております。お部屋にお荷物を預けた後、ご案内致します」

 まさしく猫っぽい彼女は終始整った口調で話す。

「私が荷物を持って行くので、荷物はそのままで……えーと、部屋を案内するのでついてきてくださいね!」

 猫耳をピンと立てて揺らす彼女は、猫っぽい子と違って落ち着きのない様子が散見する。

 そんな様子を猫っぽい子が露骨にため息を吐き、それをチラと見たその子は焦った様子で荷台から荷物を引っ張り出してまとめて重ねて持ち始めた。

 猫っぽい子に比べると、犬っぽい子という印象だ。

 ミズキとヘレナが分担して荷台に詰め込んだ荷物を彼女一人で持ち運ぶことに驚いたが、彼女は軽々と荷物を重ねて別荘の方へ持っていった。

 何も言わずに行くため、ミズキがぽかんとしていると猫っぽい子が息を吐いていう。

「メグチはああいう性格なので……。あのまま部屋に行くと思うのでついていってもらっていいですか? 私は馬竜を竜舎に連れて行きます」

「相変わらずアヤチも大変ね」

 と、猫っぽい子アヤチに苦笑するリリィだった。

「んじゃ、いこっか」

 ササキの声に、リリィとミズキも別荘の方へ入っていった。

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