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イヴの世界  作者: あこ
一章 ここが私の新世界
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始まりの場所・後


 ここは白いバラが一面に広がっていたーー。

 いかに幻想的な景色。いかに不可思議な景色。白バラを敷き詰めた地の向こうの丘に、一本の木が主張するように生えている。木にはまるで絵本のように一つの果物をぶら下げていた。

 懐かしい景色に、胸を打つ。ミズキーー宮崎瑞季は暗闇から抜けた先で呆然としていた。

「初めましてーーではないのだけれど、こうして夢ではない場所で会うのは初めてですね。宮崎瑞季」

「……死の加護」

 振り向くとそこには黒装束に包まれた白髪の女性がいた。

 瞳も白く、肌も白い。地に生えた白バラに合わせたような色彩を身に、それと反対の黒を衣装として纏っている。

 彼女は軽くお辞儀をして微笑みを見せた。

「その名前は好きじゃないけど……、まあいいわ。ようこそ、私の墓標へ」

「墓標って……、とっても鮮やかな所だけど……」

「ここは現実と夢の混じり合った場所ーーどうやらこの景色が私の願望らしいのだけれど、覚えはないわ」

「現実と夢……それに願望?」

 一気に新しいことを言われ困惑する。

「面倒ですが、私は加護。お前が成長していない今、現実ではなく夢を合わせた形でしか対面できない。事、ここでしか会えない」

「だから、ここで……」

「まあ、ここなら会話をしても記憶に残る。夢ではあるけど現実でもあるからね」

「はあ……」

 ここで会う意味を理解する。今まで夢で会っていたが、それについては曖昧で朧げになって記憶に根付いていない。ここが現実として含まれているならば、彼女の言う通り記憶に残ると言う事なのだろう。

「ーーそれじゃあ、対話を始めようか。宮崎瑞季……、今の私じゃここにいられるのはそう長くはないだろう」

 緊張が走る。

 宮崎瑞季は死の加護を前にして、意を決した。



 ここは異世界に来て初めて降り立った場所だ。あの時は訳もわからず流されるばかりで、いつの間にか起こった出来事に振り回されて狂わされた。

 死にたいと願い、死にたくないと抗う本心ーーそんな宮崎瑞季が手にした【死をやり直す】と言う力。

 不釣り合いな能力。それでも授かってしまった運命。

 数奇な運命に導かれ、今瑞季はここに生きている。

「そうだね。まず私がお前に与えた加護について話しましょう」

 と、彼女は真剣に切り出し始めた。

「お前が成長と共に目覚めた力は二つーー抗拒と回帰、まだまだ未熟だけどね」

「抗拒と回帰……、どう言うものなの?」

「もうお前は経験しているはずだけどね」

 彼女は眉を寄せて続ける。

「お前が『記憶逃れの水滴』の効力を消した事、呪術師と魔獣からの呪いを弱体化させていた事、これは抗拒の力によるものだよ」

「…………」

 単に死の加護といえど、その力は複数あるようだ。瑞季の認識では加護の名前通りの能力があるものだとしているが、死の加護に限っては違うらしい。そもそも瑞季の抱く認識が違うのかもしれないが。

「そして、回帰だがーーお前もよく知っているだろう」

「やり直し……」

「そう……。死を起点としてお前が最後に目を覚めた時間に戻る力だよ」

 回帰ーー瑞季にとって不条理な力だ。

「最も回帰の原則は死を起点にした力だけどね」

「私は……回帰を嫌ってた」

 不意に、瑞季は訥々と話し出す。

「回帰をする度に、自分の醜さや悪い部分が出てきたんだ……」

 瑞季は身体を震わせながら言う。

「目の前で死を見た時に、死にたいと思っていた自分の浅はかさを知った。今まで思っていた死にたいは、ただの戯言だった」

 死の加護の女性は神妙な面持ちで聞いている。話に割り込むことなく、瑞季の言葉に傾けていた。

「実際に死を何度も経験して、私は進めたのかな……?」

 瑞季は死の加護に問いかける。

 自問自答のような質問に、死の加護は悩む素振りもなく言う。

「お前を最初に見た時よりは微かに。その証拠にお前は今ここに立っている」

 死の加護の迷わない言葉に、感涙を生む。

「……私はあの日、お前を世界から隔離し屋上から突き落とした」

 懐かしくも不幸な始まりを彼女は語る。

「私がお前に直接的に干渉したのはあの時だけだ。私は赤子を崖から落とすライオンのよう、そして、お前はこの世に産み落とされた赤子だ。お前は確かに自分で選択しここまできて見せたね」

 彼女はそこで一旦語句を区切ってから、切り出す。

「お前は言っていたね。どうして私がお前を選んだのか」

 その言葉に、瑞季の眼から涙が薄れ緊張が勝る。

 一間の沈黙の末に、死の加護は口にする。

「きっとお前がーーに似ていたから」

「……似ていた? 私が、誰に……」

 聞こえていない言葉に、死の加護は不意に項垂れる。

「ここは通じないのですねーー私は自分の名前も願いも覚えていません。正直、お前を選んだのもその執着だけが残っていたからゆえです」

 そう言って、彼女は瑞季をじっと見つめる。

「加護の根元は他者への愛情だと言うらしいです。だから、私はまだ人だった頃の執着をお前に重ねているのかもしれません」

「愛情……執着……」

 その二つの単語が気になった。

 加護としての記憶のない彼女ーーその根幹に加護として執着が眠っている。

 死の加護からして、死に関連することだと思ったが少し違う気がした。

 祈祷師は死者を弔い、願い、加護に思いを託す。彼女は一体、何を抱いて死を迎えこの場所に墓標を立てたのか。

 忘れられた墓標に、その答えはない。

「いつかは思い出す時が来るの?」

 瑞季は静かに問いかけた。

 死の加護は少し悩むように表情を歪ませた。そして、その末に答える。

「瑞季が成長すればあるいわ……私と瑞季は繋がっていますからねーーお前は私の名前と願いを思い出させてくれるのですか?」

「え……」

 不意をついた質問に戸惑いを見せる。

 少し惑ったが、瑞季は思ったことを口にする。

「この世界に来て憎んだことも苦しいこともあったけど……、今はここに来れて良かったと思ってる」

 本心を口にする。

「死ぬのは怖いし、これからもそう言うものがあるって考えたら嫌だけど……。私はここに来て前の世界で知らなかったことを知れたから。だから、私を選んでくれたあなたには感謝をしているんだよ」

 と、気恥ずかしく言う。

 始まりこそ衝撃的だった。始まってからも、気の抜けない状況は続いて痛苦な思いばかりをしてきた。けど、それらは全部意味があったのだ。

 まだ自分が変わったとは到底思えない。けれども、宮崎瑞季はここに来てここ居たい思いが強くなっている。

 それこそ、何度も死を経験し乗り越えたからこそ得たものだと言える。

 瑞季は照れながら言う。

「私は主人公らしいことは言えない。でも、ここは現実と夢の狭間。だからーー」

 と、自信のない瞳が死の加護を見据え告げる。

「あなたを探す。あなたの名前と願いを探す。そういう目的があってもいいと思う。もちろん、一番はリリィのそばにいる事だけど……」

「……ふふ、あははは」

 彼女は破顔した。

「その虚勢こそお前の美徳だよ。あくまでここでしか言えない言葉だね」

「うん……、でも、頑張ってみる」

「それでいいーーそろそろ時間だね」

 死の加護の形が段々と希薄になっていく。

 この場所の形は変わらないが、瑞季を拒絶するような圧迫感に襲われる。

 もうここを出なくてはならないと言う意識と、死の加護が消えゆく姿が対話の終了を伝えていた。

「次はいつ会えるかな。次にはお前の正面に立てるようになっていればいいのだけれど」

「ねえ、次の回帰はいつになるの……?」

 瑞季は対話の終わる中、最後に質問を投げかける。

 が、死の加護は答えずに首を振る。

 答えのない問いをした瑞季は虚しく面を伏せ、不器用な笑みを浮かべる。

 自分なりに、この世界で過ごす決意を見せたのだ。

 始まりは不都合だった。自分の運命を呪った。どうしてこんなに苦しい思いをしなければならないのか。

 意味はこれから探す。死の加護についても、リリィとそばにいる事で自分の存在を受け入れられるだろうか。

 死の加護は消える中、最後にいった。

「ここからはお前が選択する未来だよ」

 死の加護はここまでの物語を終えるように消えたーー。

いつも閲覧ありがとうございます!

ブクマ&評価ありがとうございます! 励みです!


章の区切りまできました。。。

次回更新二週間くらい間隔あきますが、幕間何話か挟んでから次の章へ進みます。

それまでお待ちいただければ幸いです。

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